[特集]

IBMの新電力ビジネス戦略!規制緩和後の新しい展開と課題 ≪後編≫ ─ 新事業者登場のタイミングと新サービスの登場 ─

2014/04/01
(火)
SmartGridニューズレター編集部

海外事例に見る新エネルギービジネス

電力の規制緩和が先行している海外では、電力料金の定額メニューや電力小売独自の電力料金メニューの開発などを実施している企業が登場している。また、各電力小売の電力価格を比較実施できるようなWebサイトを開設して、広告収入などのビジネスを実施する企業も出てきた。

ここでは、海外事例を中心に新しいエネルギービジネスを見ていこう。

〔1〕イタリア「ENEL」の料金プラン

ENEL(エネル)はイタリアのエネルギー会社であり、電力とガス供給を実施している。イタリアでは2007年に電力自由化が実施され、ENELはすでに約3,000万世帯へのスマートメーターを導入した(図3)。

図3 海外事例1:イタリア・ENEL社の事業内容図3 海外事例1:イタリア・ENEL社の事業内容

同社は、2007年の電力自由化にあわせて表1のような新料金プランを策定して、新規参入企業との差別化を実施した。表1に示すように、規制緩和前までは基本料金と従量料金だった料金体系を、7種類のプランから顧客が自由に選択できるような電気料金メニューを追加した。イタリアの2007年の電力自由化以前は同社は国営企業だったので、このような新しい料金プランをいち早く提供して、内外から新しく参入してくる新電力会社の脅威に対抗するための戦略だったといわれている。

表1 ENEL社の料金プラン表1 ENEL社の料金プラン

〔2〕米国テキサス州のスマートメーターポータル

次に米国の事例としてテキサス州は、2002年の自由化後、配電会社4社(American Electric Power, Center Point Energy, Oncor, Texas New Mexico Power)と小売会社300社で電力供給がなされている。

ここで注目すべき新しいサービスは、Smart Meter Texasと呼ばれる複数事業者が共同で提供するスマートメーターポータルである(図4)。

図4 海外事例2:米国テキサス州でのスマートポータル図4 海外事例2:米国テキサス州でのスマートポータル

テキサス州では複数事業者が共同で「見える化」機能を提供しており、消費者はこのスマートメーターポータルサイトから電力関連の各種情報を入手できるようになっている。一方、小売業者も消費者の許可を得ることにより、このサイトから消費者のデータを閲覧することが可能となっている。

さらに、消費者が自宅の住所を指定することで契約可能な小売業者を比較できる「小売切り替えポータル」も登場している(図5)。消費者側も自由に小売会社を選択したいというニーズがあり、そのニーズに対応したビジネスを実施する企業も誕生してきている。

図5 米国テキサス州での小売切り替えポータル図5 米国テキサス州での小売切り替えポータル
〔出所 http://www.vaultelectricity.com/

消費者は、インターネット上のこのWebサイトを立ち上げて、郵便番号を入れると、この郵便番号の地区で契約できる小売事業者の提供する電気料金プランやメニューの一覧を見ることができる。その中から好きな料金を選択し、小売事業者のサイトに移動して契約を実施する。ここでは、電気料金単価以外の付加価値サービスも表示されており、切り替えの検討もできるようになっている。

このサイトを運営している企業は、電力の販売もしていなければ、発電所ももっていない。このサイトの広告料金や紹介手数料などだけで収益を上げている。

このように、自由化後にはこれまで想定できなかった新しいビジネスやサービスが登場し、ビジネスチャンスが広がるという点が注目されるところである。

このテキサス州のビジネスモデルは、小売事業者に対して、例えば1つのポータルを提供し、その間のやりとりや業務に関しては標準化されている。そのため、運営事業者が切り替わったとしても引き継げるような形になっている。つまり、業務の標準化が実施されており、いつどこで切り替えが起きても、顧客情報であったり料金請求の仕組みであったりがスムーズに連携でき、切り替えによる消費者の混乱が極力削減できている。

〔3〕デンマークDong Energyの仮想発電所

次にデンマークDong Energyの仮想発電所(VPP:Virtual Power Plant) について見ていく(図6)。

図6 海外事例3:デンマークDong Energyの仮想発電所図6 海外事例3:デンマークDong Energyの仮想発電所

Dong Energy社はデンマークの大手電力会社であり、EUのエネルギー計画「Energy 2020」注3に基づき、風力発電の割合を増加させる計画がある。再生可能エネルギーの発電は不安定であるが、その予備力として火力発電所を待機させておくのは多大なコストが発生する。そこで需要予測と再生可能エネルギーの発電予測を実施し、電力が不足する時間を予測して外部の発電企業や市場からの買電を実施する。

また最近では、アグリゲータ(風力発電アグリゲータ、EVアグリゲータなど)からの買電も計画している。最適化ツールであるILOG CPLEX注4を使用して需給調整を行い、購買先を決定し、利益を最大化させるという仮想発電所を構築している。


▼ 注3
Energy 2020:2020年に温室効果ガス排出削減を1990年比で20%削減し、最終エネルギー消費に占める再生可能エネルギーの割合を20%に引き上げる、というEUのエネルギー計画。

▼ 注4
ILOG CPLEX:数理計画問題を解くIBMの最適化支援ソフトウェア。

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