卸電力取引所はどのような目的で設立されたか
最初に、日本の電力市場の構造を簡単に説明しておこう。
図1は、電力市場の概念的な構造の図であり、黄色い線が電気の流れ、青い線が「金銭や契約の流れ」になっている。図1の左から発電分野には発電所があり、送電線や配電線を伝わって需要分野(顧客)に送電されるというのが、「電気の流れ」である。
このように、歴史的には、電気事業は国際的にも国営か民営かはともかく、もともと垂直統合(1社で「発電」「送電」「配電」「運用保守」「小売」のすべてを行うこと)が当たり前の世界であった。
その後、国によって多少早かったり遅かったりするが、イギリスをはじめ国際的に世界各国で電力の自由化の波が起こった。その後、日本でも2000年3月から電力の規制緩和(部分的自由化)が行われ、現在、電力システム改革の審議を背景に、2016年から、一般家庭を含む電力小売の全面自由化が決定され、間もなく本格的な電力自由化時代が到来しようとしている。
垂直統合でビジネスを展開する各電力会社には、中央給電指令所注2があり、これが、ここで解説する「卸電力取引所」と似た機能を果たしている。
その中央給電指令所は、垂直統合の場合には、1つ目は、ネットワークの運用(系統運用)において、周波数(関東:50Hzあるいは関西:60Hz)が外れないように、電圧(例:100V)が外れないようにしながら、送配電網を通して、無事に電力を送っている。
2つ目は、電力の需要と供給の制御(需給運用)を行い、電力が需要に応じて必要な量だけ供給されるように用意している。
すなわち、中央給電指令所では、系統運用と需給運用が中心に行われているのである。
このため、垂直統合の場合、電力の需給運用については、大部分が各電力会社の社内取引であるから、自社の各地に設置されている発電所に中央給電指令所から指令を送り、A発電所は出力を上げろ、B発電所は出力を下げろというように運用しながら、顧客(一般家庭や事業所)に電気を送っているのである。
このように、中央給電指令所では、自社にある多数の発電所、例えば火力発電(石炭・石油・ガス)や水力発電、原子力発電などを経済的に運用するため、1キロワットアワー〔1kWh:1時間に1kWを発電する(あるいは消費する)電力量〕に要する費用、すなわち可変費が安い発電所(電源)から優先的に発電を行っている。例えば、石炭が安ければ石炭火力を優先し、ガスが安ければガス火力を優先する。このように可変費が安く、効率の良い発電所を最優先させて稼働させている。また、どのように組み合わせる(ベストミックスする)と発電コストが安くなるか、それらをうまく組み合わせて稼働させている。
▼ 注1
社員とは、一般社団法人日本卸電力取引所の社員で、現在21社。株式会社の株主に相当。一方、会員(後出の表2を参照)とは、同取引所のユーザーであり市場参加者。社員企業21社は会員でもある。
▼ 注2
中央給電指令所:各電力会社に設置され、各電力システム(電力系統)の運用方針の下に全体を把握するほか、電力の需給調整や各電力会社間の連携業務などを行う。地方に設置される下位の給電指令所は、中央給電指令所の指示に従って、その担当エリアの系統の運用を行っている。
◆表1 出所
〔出所 http://www.jepx.org/〕