17個のIICテストベッドを公表
これまで述べてきたようなインダストリアルIoTを実現するには、IICで策定された「参照アーキテクチャ注3」(IIRA:Industrial Internet Reference Architecture)に基づいて構築されたインダストリアル・インターネット・システム「IIS」(Industrial Internet System)が求められる。しかし、いきなり本番のシステム(IIS)を構築することは難しいため、プロトタイプ・システムともいわれるIISのテストベッドを構築し、そのテストベッドから最も効果的なビジネス機会を洗い出していくことが重要となる。
〔1〕テストベッドに期待されること
テストベッドを通して、どのような標準が求められるかなどを確認しながら、相互運用性やセキュリティ、プライバシーなどの課題を実証していく必要がある。制御された実験プラットフォームであるテストベッドでは、次のようなことが期待され、実施される。
- IICの会員から提案され、IICの運営委員会で認定された、それぞれ特定の使用事例とシナリオをテストベッドに実装する。
- テストベッドでの実施(インプリメンテーション)が、期待される結果を生むようテストベッドを調整する。
- すでに市場などで連携して動作するインターオペラビィティ(相互接続性)をもつ技術であるのか、まだ試験されてない技術であるのかなどを調査する。
- テストベッドが新しい製品やサービスを具体的に生み出せるようにする。
- インダストリアル・インターネットをサポートする標準組織に対して、必要条件を作ったり、その優先順位を決めたりする。
テストベッドについては、具体的にはIICのテストベッドWGが担当しているが、その設置の最終判断については、IICでは前出の図1に示したIIC運営委員会注4で行われている。
表3に示すように、IICのサイトには2016年6月現在、すでに17個のテストベッドがIICのホームページに公開されているが、なお審議中のもの含めると全部で20個以上のテストベッドが構築されつつある。
表3 IICが公開している17個のテストベッド(2016年6月現在)
出所 https://www.iiconsortium.org/test-beds.htmをもとに編集部で作成
http://www.iiconsortium.org/wc-testbeds.htm
〔2〕テストベッド具体例
表3に示す17個のテストベッドのうち、テストベッドのイメージを掴むため、例えば「マイクログリッド向け通信&制御テストベッド」の例を見てみよう(図4)。
図4 マイクログリッド向け通信&制御テストベッド
図4は、従来の石炭火力や水力発電の大規模発電所などと、マイクログリッド(太陽光発電や風力発電、およびその電力を蓄電する大規模電力貯蔵システム)ほかのシステムを接続し、中央でシステム分析や制御をしながらトータルに電力システムを運用するテストベッドの例である。
このテストベッドは、RTI(Real-Time Innovations)、ナショナルインスツルメント(National Instruments)、シスコシステムズなどによって構築されている。また、このテストベッドには、テキサスに本社を置く発送電会社であるCPS Energyや南カリフォルニアエジソンをはじめ、デュークエナジーやSGIP(Smart Grid Interoperability Panel注5)も協力して運営されている。
▼ 注3
参照(リファレンス)アーキテクチャ:インダストリアル・インターネットシステム(IIS)を構築するうえで、仕様書やマニュアルだけでは不十分な場合があるため、開発するシステムの「ひな形」を作り、実際に各種のソフトウェアやハードウェアを組み込み(実装して)、商用システムを開発する人に提供される簡易的な実装モデルのことである。
▼ 注4
メンバーは、IIC代表のソレイ氏とGE、IBM、インテル、シュナイダーエレクトリック、ボッシュ、MITER、RTI(Real-Time Innovations)、富士通、SAPで構成。
▼ 注5
SGIP:米国の商務省の傘下のNIST(米国国立標準技術研究所)が2009年11月に立ち上げたスマートグリッド相互接続性パネル。スマートグリッド関連の標準を開発するために、優先順位を決める行動計画(PAP:Priority Action Plans)の策定も担当した。SGIPは、2013年にそれまでの政府が支援する組織ではなく独立した組織として、「SGIP 2.0Inc.」となったが、通常は「SGIP」と呼ばれている。