[特集]

VPP(仮想発電所)とは何か? 海外動向とビジネス展開の可能性— 前編 —

2016/08/03
(水)
SmartGridニューズレター編集部

VPPに関する国の取り組みと各企業の取り組み

図3 バーチャルパワープラント構築事業費補助金〔平成28年度予算案額29.5億円(新規)〕

図3 バーチャルパワープラント構築事業費補助金〔平成28年度予算案額29.5億円(新規)〕

出所 経済産業省

 ここまで紹介した海外の事例も含めて見てみると、VPPはIoTを利用した「電力版クラウドサービスの概念」とも言い換えることができる。

 それでは、日本におけるVPPへの取り組みはどのようなものであったか。主な出来事の例を挙げながら、VPPへ向けた具体的な内容を見ていく。

〔1〕日本のVVPへの取り組み

 日本では、2015年6月、「日本再興戦略」改訂2015において、「分散して存在している再生可能エネルギーや蓄電池等と、高度な需要管理手法であるディマンドリスポンス等を統合的に活用することであたかも一つの発電所(仮想発電所)のように機能させる新たなエネルギーマネジメントシステムを確立する」という政策方針が固まった。その後の2015年8月、平成28(2016)年度資源・エネルギー関係概算要求の一環で、「バーチャルパワープラント構築実証事業費補助金 39.5億円」を申請したが、最終的には補助金額は29.5億円と決定された(図3)。

 さらに2015年11月、安倍総理の「第3回官民対話」で、さらに具体的に「アグリゲーターが需要家側のエネルギーリソース(PV、蓄電池、EV、エネファーム、ネガワットなど)を最適遠隔制御し、IoTを活用して需要家群を統合することで、あたかも一つの発電所(仮想発電所:Virtual Power Plant)のように機能させ、系統の調整力としても活用する」という考えが示された。

 2016年1月26日、産学主体の「エネルギー・リソース・アグリゲーション・フォーラム」(ERABF)注11が早稲田大学スマート社会技術融合研究機構内に設置されるとともに、経産省に「エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス検討会」(ERAB)注12が同年1月29日に設置され、同ビジネスの課題と今後の進め方についての検討が開始されている。そして2016年4月、最終版として公開された「エネルギー革新戦略」(注2を参照)において、定置用蓄電池の導入・普及に力を入れるとともに、2020年にはVPPがビジネスとして自立していることが想定されている。

〔2〕バーチャルパワープラント構築事業

 次に、日本におけるバーチャルパワープラント構築事業の具体的な事業イメージは次の通りである(図3)。

  1. 蓄電池等のエネルギー設備を活用したビジネスモデルの確立
  2. 高度制御型ディマンドリスポンス

 上記それそれぞれについてはすでに2016年5月19日から公募が開始され(注3参照)、一部の公募については締め切られている。

 同事業の成果目標は、2016(平成28)年から2021(平成32)年までの5年間の事業を通じて、50MW以上の仮想発電所の制御技術の確立などを目指し、更なる再エネ導入の拡大を推進し、また、節電した電力量を売電できる「ネガワット取引市場」〔2017(平成29)年までに創設予定〕における取引を見据えたアグリゲータの機器制御技術の高度化を図る、としている。

日本におけるVPPビジネスで想定されるプレイヤー

 2016年4月1日に電力小売全面自由化が実施され、4カ月が過ぎようとしている。現在、各小売電気事業者は電源調達や需要家獲得と利益拡大、あるいは新ビジネスモデルの構築を目的として、VPP事業に関して大きな関心を示している。

 果たして、日本の市場においてはどのようなVPPプレイヤーが想定されるだろうか。表1は日本において想定されるプレイヤーの分類について日本アイ・ビー・エム株式会社で整理されたものであるが、大きく5つに分けられている。また、近年、NEDOをはじめとして多くのVPP関連の実証について報告されているが注13、表2に、近年リリース発表されている各企業や団体のVPPへの取り組みをまとめて示す。

表1 VPPビジネスで想定されるプレイヤー

表1 VPPビジネスで想定されるプレイヤー

出所 IBM仮想発電所(VPP)ソリューション資料より、日本アイ・ビー・エム株式会社、2016年5月11日

表2 企業のVPPへの取り組みの主な例

表2 企業のVPPへの取り組みの主な例

出所 各社発表資料をもとに編集部で作成

 それぞれの事業者によって、さまざまなVPPの誕生が期待されているが、欧米とは違う日本の環境の中で、果たしてVPPは商用化になり得るのか。次号(9月号)の後編では、構築の課題と市場についての考察をしていく。

(後編につづく)

◎取材協力および参考文献

川井 秀之(かわい ひでゆき)氏

日本アイ・ビー・エム株式会社 ソリューション事業 スマートエネルギーソリューション部長

諸住 哲(もろずみ さとし)氏

国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) スマートコミュニティ部 統括研究員

参考文献:「VPPとエネルギーリソースアグリゲーション」、インターテックリサーチ株式会社、http://www.itrco.jp/


▼ 注11
ERABF:Energy Resource Aggregation Business Forum。急ピッチで導入が進む、需要家側の太陽光発電や蓄電池、電気自動車、燃料電池など分散型のエネルギーを、IoTによってアグリゲート(集約)し、新しいビジネスモデルの構築を目指す、産学主体の技術開発を行うフォーラム。http://www.waseda.jp/across/erabf/

▼ 注12
ERAB検討会:経済産業省で諸課題の解決を目指す検討会(ERAB:Energy Resource Aggregation Business)。産学主体で設置されたERABFとも緊密に連携して、当該ビジネスの発展を支援していく。http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy_environment.html#energy_resource

▼ 注13
NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)のVPP関連調査報告書の一覧については、インタテックリサーチのWebサイト内で網羅して整理されている。http://www.itrco.jp/libraries/NEDO-VPPReports.pdf

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