ワークショップにおける検討と3つの協調領域の策定
ワークショップにおける検討は、表2に示すように、大きく3つのステップで行われており、この中で後述する3つの協調領域が策定されている。
表2 ワークショップにおける3つのステップによる検討
出所 JSCA主催「次世代自動車-インフラ設備インターフェースの国際標準化に関するワークショップ」(2016年7月)の当日資料をもとに編集部作成
このような検討を開始する出発点として、今後の再エネの導入拡大と電動車の調整力の活用を前提にして、図4に示す、
図4 電動車に関する議論の出発点:社会ニーズと電動車の普及拡大
出所 JSCA主催「次世代自動車-インフラ設備インターフェースの国際標準化に関するワークショップ」(2016年7月)の当日資料より
(1)環境問題やエネルギーセキュリティの観点からの社会ニーズ
(2)電動車の普及拡大の両面からの検討が行われた。
次に、表2に示したステップ1、2、3の内容を見てみよう。
〔1〕ステップ1:電動車の活用によるメリットの考え方
電動車を統合制御することによって可能になる調整力を創出し、供給することによって、さまざまな社会的メリットを享受することができるようになる。これによって、これらの社会的メリットを、自動車ユーザーへ還元する原資とすることができると考えられる(自動車ユーザーへの経済的なインセンティブの提供)。
具体的には、図5に示す、
図5 電動車活用によるメリットの考え方(自動車ユーザーへの経済的なインセンティブ)
出所 JSCA主催「次世代自動車-インフラ設備インターフェースの国際標準化に関するワークショップ」(2016年7月)の当日資料より
①電動車による調整力の供給
②社会的メリットの増大
③社会的メリットの享受
④社会的メリットの一部をユーザーに還元
などのループを回すことによって、電動車の普及拡大が進み、それによってさらに電動車が増え、調整力としての電動車の価値の増大が行われるようになる。
〔2〕ステップ2(電動車活用事例の検討)とステップ3(3つの協調領域)
図6は、同ワークショップで検討されている、電動車活用事例の検討のために策定された、全体の「リファレンスアーキテクチャ」(電動車の充放電に関するアクター注10の連携モデル)と、特定された3つの協調領域を示したものである。これまでの電力の流れは、電力会社から需要家に向けて(図6の左側から右側)へ一方向に流れていたが、スマートグリッドでは需要家側から電力会社の方向(逆潮流)にも流れる双方向となり、電力の需給バランスをとる仕組みとなる。
図6 ワークショップのリファレンスアーキテクチャと3つの協調領域
出所 JSCA主催「次世代自動車-インフラ設備インターフェースの国際標準化に関するワークショップ」(2016年7月)の当日資料より
特に<ステップ2>では、図6に示す電動車活用事例の検討のために策定された、電動車の充放電に関連する各アクターの連携を中心に検討が行われた。図6で言えば、左側の「電力会社」から「アグリゲータ」「各種サーバ」「HEMS」、さらに右側下の「電動車」に至る11個の要素(アクター)の連携である。
図6に示すアグリゲータとしては、例えば電力会社あるいは自動車会社、充電スタンド運用者の場合が考えられる。また、需要家側にある電動車に対して、宅内充放電機器を介在させる場合、①HEMS経由でホームゲートウェイと接続する、あるいは②ホームゲートウェイと直接連携する場合もある。さらに、AMI注11が接続されている場合もある。
アグリゲータは、自動車会社のサーバを利用する場合(例:ドイツのフォルクスワーゲンの実証事例)や、これらのサーバをまとめたセントラルサーバが想定される可能性があるため、米国ではこれらについても検討されている。
なお、このワークショップのアーキテクチャの検討には、先進的な欧州のCOTEVOS(コテボス)プロジェクトなどのリファレンスアーキテクチャ注12なども参照されている。
<ステップ3>は、図6に示すアーキテクチャのうち、関連企業が個別にではなく共同で必要とする標準化領域を特定するための議論(標準化ではない)が行われている。図6で言えば、3つの赤い楕円で示す協調領域案1、2、3を中心に議論が進められている。
例えば、協調領域案1では、電動車と宅内充放電機器の間で、現在、電動車が系統電力に接続されて充電状態にあるのかどうか(走行中の場合もあるため)などの情報が求められる。また、その電動車がどの程度の電力容量(kWh)を「調整力」として使えるのかという情報を、どのように宅内充放電機器経由でHEMSに渡すのか、あるいはその渡し方をどのように規定するのか、なども協調領域である。図6に示すHEMSと宅内機器の充放電機器の連携については、すでに前述したERAB検討会で議論が進められているため、それらを参考にしながら対応していく。
協調領域案2については、アグリゲータとサーバ間の連携、協調領域案3ではHEMSとスマホの連携、あるいは各社のサーバとスマホの連携などが検討されている。
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以上、JSCAのワークショップにおける電動車の調整力を利用した最新動向を概略的にレポートした。今後、2030年に向けて、再エネは急速に普及しながら、同時に、電動車の普及台数も大幅に増大すると予測されているため、VPP環境における電力系統の調整力について、電動車の役割にも大きく期待が寄せられる。
▼ 注10
アクター(Actor):ユースケース・モデルを構成する要素のこと。例えば図6中の電力会社、アグリゲータ、需要家(もしくはHEMSを運用する事業者)など。
▼ 注11
AMI:Advanced Metering Infrastructure、高度メーター通信基盤。スマートメーター用のネットワーク基盤のこと。
▼ 注12
COTEVOS(コテボス):COncepts, capacities and methods for Testing EV systems and their interOperability within the Smartgrids、EVとEVSE(電気自動車充電機器)間の情報通信に関する相互運用性・動作信頼性を試験するための設計、体制の確立、
・http://cotevos.eu/publications/
・http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2016fy/000300.pdf
・http://cotevos.eu/wp-content/uploads/2016/03/COTEVOS-Presentation-at-iGreenGrid_2015-10-22.pdf