5. 水と空気のハイブリッド冷却システム
〔1〕筐体の中の冷水配管の工夫
コンピュータ自体は最大で14MW(=1万4,000kW)の電力を消費しているが、高密度な発熱体はCPU注5およびICC注6(通信用LSI)であるため、これらが水冷の対象となった。コンピュータ内部に直接水を送ることで、設置スペースの縮小や空気搬送と比較して搬送エネルギーを低減できる。
その一方で、もともとコンピュータは水を嫌い、そのような電気電子部品に水冷配管を装備して直接水を送るため、「漏水管理」や「水質管理」「水圧管理」「水温管理」などをかなりシビアに考慮する必要があった。そこで、水冷配管部分には、水温、水圧、結露、漏水などの各種センサーを取り付け、これらのセンサーによって遠隔で管理されている(写真3)。
水冷システムは、熱交換器とCPU冷却水ポンプからなる冷却設備(写真4)と、水質管理用の冷水システムによって構成されている。CPU冷水配管は前述したように、フリーアクセスのスペース内に設置され、各計算機(コンピュータ)内の配管につなげている。また、万一配管が故障した場合のシステムの停止を防ぐため、熱源、ポンプ、配管などを2系統に分けている。
CPU冷却水システムの概略フローは、図3の通りである。各筐体への供給水温が15℃±1℃、水量は計算機1台あたり44L/min(リットル/分)以上、供給圧力0.5MPa(メガパスカル)未満。これらは各所の電動弁などで制御している。
〔2〕水を使う場合の工夫
CPU冷却水は、銅製のCPUクーリングプレートの腐食を防ぐため「純水」を使っている。この純水は、純水装置で作られている。冷却水中の酸素による腐食を防ぐため、常に脱気装置により酸素濃度を低減している。また、常時、電気伝導度を監視し、水質の維持も図っている。さらに、ここに空気が入らないように空気を抜く脱気装置を設けている。基本的には、純水と脱気をしながら伝導率を調整している。
また配管のつながり部分の工夫もしている。施工完成した後に、カシャッとホースをつなげてコンピュータにつなぐ必要があったため、その際の漏水を避けるため、チャッキ機構(逆止装置)付きのカプラを使用している。
さらに、流量調整も重要である。1台あたり44L/min以上流さないといけないということから、バルブの開度をあらかじめ調整し、あとはつなぎ込むだけということをしている。コンピュータの数が864台もあるので、場所によって圧力が変わってしまうため、バルブの開度調整をしないと流量が合わなくなってしまうからだ。
「この辺の調整方法を施工を担当された三機工業さんと一緒に工夫しながら、同社が考えてくれたというのが非常に大きなところだったと思います」(長谷川氏)。
〔3〕空冷と水冷によるエネルギー削減効果
計画時に想定された空冷と水冷の比率は50:50。ファンの高効率化によって20%削減でき、また水冷化によって13%削減でき、合計33%のエネルギー削減効果を見込んだ。
しかし、実際にはその後の実稼働においては、空冷・水冷の定格比率は2:3となり、計画当初よりも効率的な運用を実現している(図4)。
スーパーコンピュータ「京」施設の設計と施工について、2013年5月に公益社団法人空気調和・衛生工学会の「第51回学会賞技術賞」を受賞している。
後編では、同施設の高効率で信頼性の高い電源システムと運用の実際について見ていく。
(後編に続く)
◆図3 出所
〔関口芳弘、長谷川巌、布施正人、水出喜太郎、関悠平、衣笠雅輝、湊洋行、長谷川大輔、「スーパーコンピュータ施設“ 京(けい)”の設備設計と施工」、『空気調和・衛生工学』、第87 巻第7 号〕
◆図4 出所
〔株式会社日建設計 作成資料〕
◆参考文献
〔関口芳弘、長谷川巌、布施正人、水出喜太郎、関悠平、衣笠雅輝、湊洋行、長谷川大輔、「スーパーコンピュータ施設“ 京(けい)”の設備設計と施工」、『空気調和・衛生工学』、第87 巻第7 号〕