3. 1台あたり8kW/㎡の発熱体への挑戦
〔1〕設計時にポイントとなった通常の200 倍もの高密度な発熱量
コンピュータ周りの温度が上がってしまうと、コンピュータ側の計算速度が遅くなったり、パフォーマンスが悪くなるため、温度管理は非常に重要な要素となる。
「京」の場合、1台当たりの発熱量は最大16kWであり、発熱密度は8kW/㎡(=8,000W/㎡)である。通常のオフィスの場合、40W/㎡くらいで設計するということを考えると、「京」は約200倍の発熱密度ということになる。計算機室には864台のシステムラック(高さ約2m)が並ぶ(写真1)。このことから、計算機室に設置されたコンピュータ全体で約14MWの発熱量になる。
スーパーコンピュータ「京」施設の場合には、コンピュータの設置範囲を考慮して、3,000㎡(約50m×60m)という広大な設置面積に加えて柱のない空間になっている。そのため、この中にどうやって均一に風(空気)を送るかという点が課題となった。
〔2〕温度管理のための二重構造設計
一般的なデータセンターでは、両端に空調機を置いて床から風を送るなどということをもなされているが、縦横約60mもある広さだと空気が届かない。そのため、図2のような二重構造にして、下から冷却用の風を送り、筐体の上から排熱を出していくという構造を考えた。
図2に見られるように、「京」の筐体とグローバルファイル(計算結果を保存するストレージ装置)を分けている。
3Fに計算機室(筐体用)、その下の2Fに空調機械室、さらにその下の1Fには計算機室(グローバルファイルシステム室)、その下のB1には空調機室、といった2段積みの構造をとっている。
計算機発熱除去後の冷却空気を空調機械室に戻すため、レターンチャンバ(空調空気の戻り経路。図2の右上参照)が南北に配置されている。このレターン空気は空調機械室内において空調機に直接吸い込むことにして、空調機の圧損を低減している。
「地球シミュレータ注3の際に同じような構造にした経験があり、大空間で冷却する場合にはこの方法しかないと、提案をさせていただきました」(長谷川氏)。日建設計の長谷川氏は、同プロジェクトが始まる5年前に地球シミュレータという、スーパーコンピュータ施設の設計を担当していたが、この経験が同施設の設計に大いに役立てられたのである。
▼注3
地球シミュレータ:開発当初、世界最高性能レベルのスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」。地球環境予測研究、地球内部ダイナミクス研究などのシミュレーションの研究開発などを進めている。2002 年3 月15日から運用開始。事業主体は海洋研究開発機構(JAMSTEC)地球情報基盤センター(神奈川県横浜市金沢区昭和町3173 番25)。
◆図2 出所
〔独立行政法人理化学研究所 計算科学研究機構、株式会社日建設計の資料を元に編集部作成〕