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「SIGFOX」によるLPWAサービスが日本でもスタート!

― KCCSがIoTに特化し年間100円の通信料金で実現へ ―
2017/02/05
(日)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

SIGFOXネットワークの技術的な特徴

〔1〕LTEの10万分の1=100Hzで通信

 次に、SIGFOXネットワークの技術的な特徴を見てみよう。

 図5は、SIGFOXのUNB(Ultra Narrow Band、超狭帯域)通信の仕組みである。

図5 SIGFOXネットワークのUNB(ウルトラナローバンド)通信の仕組み

図5 SIGFOXネットワークのUNB(ウルトラナローバンド)通信の仕組み

出所 日比 学、「KCCS IoT Conference」資料(京セラコミュニケーションシステム株式会社)、2016年12月13日

 例えば現在のLTE(4G)では、通信を行うための周波数帯域幅注8として10MHz幅を使用している注9。これに対してSIGFOXでは、920MHz帯を利用して、LTEの10MHz幅の50分の1の200kHz幅を1つの使用チャネル幅と設定している。この200kHz幅という数値は、日本における920MHzで規定された「単位チャネル幅」となっている注10

 さらにSIGFOXでは、実際にセンサーなどのIoTデバイスがデータを送信する場合、この200kHz幅のさらに2,000分の1の「100Hz幅」(シングルキャリア周波数帯幅)という、信じられないような狭い周波数帯域幅に分割し、この2,000本の帯域幅(すなわち2,000本の100Hz幅)をランダムに使用して通信する。この100Hz幅の周波数に12バイトの大きさのデータ注11を乗せて、100bpsという超低速度で基地局に送る通信が行われる。このようにSIGFOXでは、LTEの10万分の1(=100Hz幅)という超狭帯域幅で通信が行われているのだ。

〔2〕SIGFOXネットワークの特徴と工夫

 SIGFOXでは、このような仕組みで超狭帯域通信(UNB)が行われるが、確実にデータを相手(例:クラウド)に送信するため、SIGFOXならではの工夫がいくつか実施されている。図6は、そのようなSIGFOXネットワークの特徴を示したものである。

図6 SIGFOXネットワークにおける通信の特徴

図6 SIGFOXネットワークにおける通信の特徴

出所 日比 学、「KCCS IoT Conference」資料(京セラコミュニケーションシステム株式会社)、2016年12月13日

(1)複数回フレーム伝送/周波数ダイバーシチ注12

 センサーなどのIoTデバイスからデータ信号を基地局に送信する場合、SIGFOXでは、妨害波などからの干渉を防ぎ、確実に基地局に届くよう、同じデータ信号を3回送る仕組みになっている。その際、それぞれ周波数を変えながら送信する。

 データ信号を受信した基地局は、そのうち最も通信品質の良いデータ信号を選択して受信する。これを周波数ダイバーシチという。図6の左上は、同じデータ信号を、最初に①(青色)の周波数に乗せて、次に②(黄色)の周波数に乗せて、さらに②(黄色)よりも低い③(緑色)の周波数に乗せて送信している例である。

(2)スペースダイバーシチ

 また、図6右上に示すスペース(空間)ダイバーシチでは、1つのデバイスから空中に送信(ブロードキャスト。放送のように一斉同報送信)された電波(信号)は、複数の基地局で受信され、品質よく受信された基地局の信号を採用する方式である。

 図6に示す赤いデバイスを付した信号が、ある干渉(妨害)によって、基地局に届かなくても、残りの2つの基地局に信号が到着すれば、どちらか品質の良い信号を選択して受信する。また、スペースダイバーシチの場合には、万一、1つの基地局が災害などで故障しても、他の2つの基地局で受信できるという利点もある。

(3)狭帯域信号特性

 狭帯域通信では、送信信号が非常に幅の狭い周波数(細くとがった尖頭的周波数)であるため、図6の左下に示すように、他の電波からの干渉(妨害)を受けにくい特性をもっている。

〔3〕SIGFOXネットワークにおける上り/下りの通信特性

 図6に示した特徴をもつSIGFOXの通信では、免許不要帯(アンライセンスバンド)の920MHz帯を使用して、上り(デバイス⇒基地局)と下り(基地局⇒デバイス)の信号のやり取りが、図7と図8のように行われる。

図7 SIGFOXネットワークの無線特性(上り信号の場合)

図7 SIGFOXネットワークの無線特性(上り信号の場合)

出所 情報通信審議会作業班資料:「SIGFOXネットワークのご紹介」(京セラコミュニケーションシステム株式会社)、2016年11月24日、http://www.soumu.go.jp/main_content/000450876.pdf

図8 SIGFOXネットワークの無線特性(下り信号の場合)

図8 SIGFOXネットワークの無線特性(下り信号の場合)

出所 情報通信審議会作業班資料:「SIGFOXネットワークのご紹介」(京セラコミュニケーションシステム株式会社)、2016年11月24日、http://www.soumu.go.jp/main_content/000450876.pdf

 以降では下りの仕様も記載しているが、現状、日本では電波法の制限によって、920MHz帯の通信は上り(送信)だけに限られているため、下り(受信)の制約については電波法改正の要望が挙がり、その整備が行われている。

(1)上り(デバイス⇒基地局)の通信

 図7は、100Hz幅(シングルキャリア)に信号を乗せて100bpsの上りの超低速通信が行われる仕組みである(送信するデータの大きさは12バイト単位)。その際の信号の最大の送信継続時間は、2秒(s)である。図7右に#1、#2、#3、#4の例を挙げてその様子を示している。

 例えば、図7のうち、あるデバイスから送信された#2の信号を乗せた土色の周波数帯は、2秒以内に右上の#2に移動し(切り替えられ)、さらに2秒以内に右下の#2に移動し(切り替え)ながら、基地局へ送信される。その際の送信電力は上りの場合は20mW以下(特定小電力無線:免許不要)である。

 そのほか、#1、#3、#4の各信号も同じように2秒以内に200kHz幅〔マルチキャリア。前述したように、約2,000本(200kHz÷100Hz)のシングルチャネル(100Hz幅)で構成されている〕の周波数帯内で移動し(切り替え)ながら、通信が行われる。この方式は、同じく周波数を移動させながら通信を行うBluetoothで使用されている周波数ホッピング方式注13に似た通信方式となっている。

(2)下り(基地局⇒デバイス)の通信

 図8は、図7とは逆の、下り(基地局⇒デバイス)の通信の仕組みである。センサーなど多数のデバイスからデータを集める上りに比べて、下りの信号は必要に応じて送信するため少なく(ほぼないに等しいくらい少なく)、上りとは大きく異なっている。

 下りでは、200kHz幅〔マルチキャリア。250本(=200kHz÷800Hz)のシングルチャネル(800Hz幅)で構成されている〕の周波数帯内の、上りよりも4倍広い周波数幅である800Hz幅(シングルキャリア)に信号を乗せて、下り600bps(上りの6倍のスピード)の超低速通信が行われる(送信するデータの大きさは8バイト単位)。その際の信号の最大の送信継続時間は、350ミリ秒(ms)と上り通信よりも6倍近く短くなっている。

 図8の右に、#1、#2、#3、#4の信号例を挙げてその様子を示している。下りでは、前述の上り通信の図7のように、時間的に周波数は切り替えられることはなく(周波数ホッピングのようなことはなく)、そのまま基地局からSIGFOXデバイスに送信される。その際の下りの送信電力は250mW以下(簡易無線局:登録必要)である。

 以上述べてきたSIGFOXにおけるUNB(Ultra Narrow Band、超狭帯域)通信の仕様などを整理してまとめると、表4のようになる。

表4 SIGFOXネットワークのUNB(Ultra Narrow Band、超狭帯域)通信の仕様

表4 SIGFOXネットワークのUNB(Ultra Narrow Band、超狭帯域)通信の仕様

SSB-SC:Single Sideband - Suppressed Carrier Modulation、振幅変調(AM:Amplitude Modulation)方式の1つで、搬送波抑圧単側波帯変調のこと(SSBとは情報を片側の側波帯のみで伝送する方式)。一般的には単にSSBと言われる。DSB(Double Sideband、全搬送波両側波帯)と比較してさらに電力効率や周波数帯域効率がよいのが特長(詳しくは下記サイト参照)
参考サイト:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%8C%AF%E5%B9%85%E5%A4%89%E8%AA%BF
D-BPSK:Differential Binary Phase Shift Keying、差動2相位相変調。位相変調方式の1つ〔1回の変調で1ビット(2値)分を伝送する〕。無線LANなどで使用されている方式
出所 http://www.soumu.go.jp/main_content/000450876.pdfなどをもとに編集部作成


▼ 注8
周波数帯域幅:使用する周波数の広さ。チャネル帯域幅ともいう。通信路。

▼ 注9
1.4MHz、3MHz、5MHz、10MHz、15MHz、20MHzの中から自由に選択可能。

▼ 注10
日本における920MHz帯で規定された単位チャネル幅は200kHz幅となっている。
したがって、SIGFOXの場合は100Hz幅で通信するため、この200kHz幅内で約2,000チャネル(=200kHz÷100Hz=200kHz÷0.1kHz)の通信(送信)が可能となる。
参考:情報通信審議会 情報通信技術分科会 陸上無線通信委員会 920MHz帯電子タグシステム等作業班(第3回)、2016年12月20日、
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/policyreports/joho_tsusin/idou/02kiban14_04000486.htmlhttp://www.soumu.go.jp/main_content/000455450.pdf

▼ 注11
12バイトのデータのイメージ:例えばある時点の温度センサーの情報を送る場合、緯度に4バイトを、経度に4バイトを使用し、その地点にあるセンサーの温度を4バイトで表現して計12バイトのデータとして送るというイメージ。なお、広く普及しているEthernetのデータ(フレーム)の大きさは1,500バイトなので、SIGFOXのデータの大きさ12バイトは、Ethernetのデータの100分の1以下の大きさであることがわかる。

▼ 注12
ダイバーシチ(Diversity):Diversityとは多様性という意味をもつ。無線通信においては、デバイスから送信された信号を複数のアンテナで受信した場合、より優れた信号(例:ノイズなどが少ない信号)を受信したアンテナを優先的に使用すること。あるいは複数のアンテナで受信した信号を合成しノイズを除去したりして、信号の品質を向上させる技術のこと。ここでは、時間的に3つの異なる周波数に乗っている同じ信号を順次受信したうち、最も品質の良い信号を選択することを指している。

▼ 注13
周波数ホッピング方式(FHSS):Frequency Hopping Spread Spectrum、周波数(スペクトラム)拡散方式の1つ。短い時間ごとに送信する信号の周波数を切り替えて(変更して)通信を行う方式。次々に送信周波数を変更していくため、ある特定の周波数でノイズが発生し影響を受けても、次の移動先の周波数で訂正が可能(そのような仕組みをもっている)なため、耐障害性が高く、通信の秘匿性も優れている方式。

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