[特集]

世界のDR活用の現状と展望、VPPへの展開

― 価格入札・再エネ普及時代に主流となってきた負荷抑制型 ―
2017/05/11
(木)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

DRが登場した背景:米国の事情

〔1〕電気の価格は「価格入札」へと変化

 米国では、電力が自由化される以前の、独占的な電力事業を展開していた時代には、DRが今日ほど普及してはいなかった。その理由は、独占時代は計画的に可変費注8のコスト計算をして、電気の価格を設定する仕組みが主流だったからである。

 また、1990年代以降、先進国で行われてきた電力システム改革や、従来の発電技術(火力発電や水力発電など)とは異なる太陽光や風力による再エネ発電の増加はあったが、電力の需要と供給を一致させる「同時同量」という電力の需給バランスをとる課題は、基本的に今日も変わっていない。

 しかし、電力の自由化に伴って、DRを利用した新しい競争システムが導入されたことなどを背景に、電気の価格は、従来のように計画してコスト計算されるものから、コストに基づかない価格(価格入札)によって取り引きされるものに変わってきた。これが、電力事業の運営に大きな影響を与えるようになった。

 具体的に言えば、米国において、発電費用(変動費)を大幅に上回る電気の価格づけが行われるケースが出てきたのである。

〔2〕ゲーミングをいかに防ぐか

 図1の左図に示すように、従来は発電機を動作させて運用する場合、時間ごとに変動費を計算して、火力発電にするか水力発電にするかなどを、コストが低い順に並べて(これをメリット・オーダーという)運用計画を決定していたが、時間ごとの取引価格は明示的には存在していなかった。

図1 米国特有のDR導入の動機:LMP(地域別限界価格)抑制効果

図1 米国特有のDR導入の動機:LMP(地域別限界価格)抑制効果

出所 西村 陽、「国内外のDR活用の現状・展望とVPPへの展開」、平成29年電気学会全国大会、2017年3月16日

 ところが、図1右図に示すDRを活用する競争システム環境では、電気の取引価格は競争相手との価格入札によって変わるため、発電事業者は従来のコストとはかい離した、(つり上がった)高価格で入札できるようになった。

 例えば、競争システムでは、図1右図に示すようにDRの活用によって、従来の取引価格「P1」よりも「P2」分だけ取引価格を下げることができる。しかし送電線が少なく(脆弱で)、かつ競争相手の発電機もない地域では、従来の取引価格「P1」(図1左図参照)で取り引きできれば、(P2)分の高い収入(かい離した分)を得ることが可能となる。これを、経済学ではゲーミング(評価指標の操作)と呼んでいる。

 このように米国では、平常時は変動費(可変費)をベースにした価格で入札されるが、ピーク時間帯で、特に競争する発電機の少ない混雑地域においては、発電による価格のつり上げ(ゲーミング)が、夏や冬に頻繁に発生するようになってきた。このため、限られたピーク時間帯の電力価格が高騰する傾向になっている(例:1kWh当たり5セントが25セントに跳ね上がる、「スパイク」と呼ばれる現象)。このようなことが米国では定常的に起こっていて、こうした仕組みは、LMP(Locational Marginal Price、地域別限界価格)注9と呼ばれている。

 このため、発電機のゲーミングをいかに防ぐかということが、系統運用者や連邦政府の大きな課題となっている。

〔3〕米国FERCによるDRの分類

 次に、DRにはどのような種類があるのかを見てみよう。

 図2は、米国のFERC(米国エネルギー省米国連邦エネルギー規制委員会)によるDRの分類である。

図2 米国FERCによるDRの分類

図2 米国FERCによるDRの分類

出所 西村 陽、「国内外のDR活用の現状・展望とVPPへの展開」、平成29年電気学会全国大会、2017年3月16日

  1. 料金誘導型:電気料金のメニューを通じて、顧客自らのピークシフトを促すタイプ。人間がインセンティブ(価格情報)に反応する。
  2. 負荷抑制(Curtailment)型:あらかじめ抑制電力(kW)を契約し、系統運用者やユーティティ(電力会社など)の信号発動によって確実に抑制するタイプ。発電機と並ぶ供給力(予備力)として系統運用に組み込まれる。

 日本に比べて家庭用一戸当たりの契約電力(kW数)が大きい米国の場合、これらの2種類のDRが使用されている。

 なお米国では、日本でいわれる「下げDR」(電力需要を減らすDR)のことを「カーテイルメント」(Curtailment)と呼び、アグリゲータのことは、「カーテイルメントサービスプロバイダ」(Curtailment Service Providor)と呼んでいる。

〔4〕負荷抑制型のDRが普及

 図2に示すように、DRの定義は幅広いが、現在、世界各国や日本において話題となり普及しているのは、カーテイルメント(負荷抑制)型であり、自由化以前の1960年代から米国のデュークエナジー(ノースカロライナ州)で行われていた。米国で本格的にカーテイルメント型のDRが立ち上がったのは、電力の自由化に伴い発電機のゲーミング(価格高騰)を抑える必要性が生じてきた2000年代以降である。

 さらに、本格的に普及したのは2008年以降である。負荷抑制がPJMなどに導入され、DRに対して容量価値(ゲーミングを解消し安定供給を保証する仕組み)に対する対価が支払われるようになった。さらに、競争によって予備力が減少し、ピーク供給力の確保が困難になってきたテキサス州やカリフォルニア州においても、DRの導入は加速した。

 一方、2010年代に入ると、欧州ではフランスの系統運用者であるRTO(Regional Transmission Organization、地域送電機関)とフランス政府が、DRを調整力注10として積極的に活用するようになった。


▼ 注8
可変費(変動費)とは、売り上げ(生産量・販売量)に比例して増減する経費のこと。例えば、LNGや石油など原材料費や仕入原価、販売手数料などが変動費にあたる。一方、固定費とは、生産量(例:発電量)や販売量の増減に関わらず一定にかかる経費のこと。例えば人件費や減価償却費は、固定費にあたる。

▼ 注9
LMP:Locational Marginal Price、地域別限界価格。「需給がバランスした電力系統内のある地点で需要の増加(混雑が発生)があったとき、この増分負荷に対して電力を供給するのに要する限界価格」と定義されている。
http://www.ecei.tohoku.ac.jp/~moden/paper/paper/paper25.pdfhttp://eneken.ieej.or.jp/data/pdf/1254.pdf

▼ 注10
調整力:電力の供給区域における周波数制御や、電力の需給バランスの調整、その他の系統安定化業務に必要となる電源設備(DRも含む)の能力のこと。

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