[特集]

IoT/GoTで実現するトランザクティブ・エネルギーとは?

― ブロックチェーンが拓く取引可能なエネルギーの時代へ ―
2017/05/11
(木)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

国際的に再生可能エネルギー(以下、再エネ)の導入が活発化し、日本でも2030年度には総発電電力量のうち、再エネを22〜24%導入する計画が推進されている。FIT(固定価格買取制度)の導入によって普及してきた再エネも、2017年4月から施行された「改正FIT法」と2019年のFIT切れによって、自分で発電した電力は電力系統に売るよりも自分で消費したほうが得する時代(ポストFIT時代)を迎えようとしている。一方、変動電源である再エネの拡大は、電力系統への影響もあるところから、その解決に向けた動きも活発である。
トランザクティブ・エネルギー(TE:Transactive Energy)とは、このような背景の中で、IoT/GoT(Grid of Things)によって、消費者側に散在する分散電源をブロックチェーンで連携させ、電力会社などと電気を取引(売買)するだけでなく、同時に、隣の消費者同士が互いに電気を融通(取引)する「取引可能エネルギー」のことである。
ここでは、電力中央研究所 エネルギーイノベーション創発センター副研究参事 浅野 浩志(あさの ひろし)氏の講演(注1)をベースに、TEについて解説する。

急ピッチで進む日本の電力システム改革

〔1〕パリ協定を背景に「エネルギー革新戦略」を策定

 日本のエネルギー市場は、2017年4月からガスの小売全面自由化がスタートし、2016年4月からの電力に続いて新しいエネルギー市場が誕生している。

 さらに、CO2の削減など地球温暖化対策に向けて国際的に合意されたパリ協定(2015年12月)を背景に、政府は再エネの普及・拡大を目指して、「エネルギー革新戦略」注2を発表した。これに基づいて、再エネを最大限導入し加速させるエネルギーミックス政策が推進されており、2030年度には総発電電力量(10,650億kWh)のうち、再エネを22〜24%導入する計画を推進している注3

 また、これらの動きと連動して、再エネやストレージ(蓄電池)などの分散型エネルギー資源(DER:Distributed Energy Resource)を、IoTを活用して統合制御し、あたかも1つの大規模発電所であるかのように運用して機能させるVPP(Virtual Power Plant、仮想発電所)の実証実験(7件)や、DR(Demand Response、デマンドレスポンス。電力の需給管理)実証事業(19件)などが推進されている。

 その第一次実証(2016年度予算は29.5億円)は2017年3月に終了し、第1年(2016年)度の成果報告書(概要版)が公開された(2017年4月)。

 現在、一般財団法人エネルギー総合工学研究所によって、第2年(2017年)度の公募が行われており、間もなく第二次の実証事業(2017年予算は40億円)が開始される。

〔2〕2017年4月からネガワット取引市場がスタート

 このようなデマンドレスポンスによって節電される電力量は「ネガワット」(節電電力量)と呼ばれるが、この「ネガワット」を電力会社あるいはネガワットアグリゲータ注4が買い取ったり、市場で売買する「ネガワット取引市場」が2017年4月からスタートした。

 このような再エネの積極的な導入を含む電力システム改革を背景に、日本でもスマートグリッド(次世代電力網)を実現するインフラとして、「スマートメーター」の設置が急ピッチで推進され、すでに約30%に相当する2,300万台(全設置予定数は7,800万台)以上が導入されている(2016年11月までの累積注5)。

 しかし、前述した一般家庭や企業に設置された出力変動の大きい再エネの大量導入は、電力系統(電力システム)の電圧や周波数に影響を与える要因ともなる。

 このような要因の解決に向けて、電気事業法では、例えば、系統電力の、

  1. 標準電圧は101V±6V(95〜107V)以内に、
  2. 標準周波数は関東地域で50Hz±0.2Hz(49.8〜50.2Hz)、関西地域で60Hz±0.2Hz(59.8〜60.2Hz)以内に、

維持されるよう、調整ルールなどが規定されている。これらの数値を逸脱すると、最悪の場合、停電を引き起こすなどの障害が予測される。

〔3〕2017年4月から「改正FIT法」が施行へ

 さらに、日本においては再エネの導入を促進してきた固定価格買取制度(FIT、2012年7月施行)を見直す「改正FIT法」が、2017年4月から施行された(図1)注6

図1 エネルギーミックスの実現と国民負担の抑制

図1 エネルギーミックスの実現と国民負担の抑制

出所 資源エネルギー庁、「改正FIT法施行に向けて」、平成29(2017)年1月

 現状は、図1に示すように、2012年のFITの開始後、2016年度には買取費用はすでに約2.3兆円(賦課金は約1.8兆円。平均的な家庭で毎月675円)にも達しており、再エネの最大限の導入と国民負担の抑制の両立を図るため、コスト効率的な導入拡大が求められるようになってきていたのである。

 このため、今後、家庭からの売電価格よりも、電力会社からの買電価格のほうが安くなり、電気を売るよりも自宅の蓄電池などに貯めて利用するほうが得する時代(脱FITの時代)が到来する。


▼ 注1
2017年3月16日、電気学会全国大会(於:富山大学)における講演。「分散型エネルギー資源の取引: Transactive Energy」(S3 ネガワット取引制度創設とバーチャルパワープラント構築に向けて)

▼ 注2
http://www.meti.go.jp/press/2016/04/20160419002/20160419002-2.pdf

▼ 注3
経済産業省、「長期エネルギー需給見通し」、平成27(2015)年7月

▼ 注4
電気事業者などからの電力節電の要請に応じて協力し、企業や家庭などの電力需要家が削減した電気の節電量(ネガワット)を取引することをネガワット取引という。この取引において、「電気事業者」などと「需要家」を仲介し、需要家の電力の削減量(節電電力量)を束ねて、電気事業者などと取引を行う事業者を、ネガワットアグリゲータ(電気事業者の場合もある)という。

▼ 注5
経済産業省、電力・ガス取引監視等委員会、「第15回 制度設計専門会合 事務局提出資料」「資料6」、85ページ

▼ 注6
http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/shoene_shinene/shin_ene/pdf/017_01_00.pdf

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