注目されるトランザクティブ・エネルギー(TE)
〔1〕トランザクティブ・エネルギーとは:その定義
日本においては、このような電力システム改革が進展する一方で、米国では「トランザクティブ・エネルギー」(TE:Transactive Energy、以下TE)というコンセプトが登場し、国家的な取り組みが開始されている。
トランザクティブ・エネルギー(TE)とは、簡単にいうと、消費者が電力会社やアグリゲータと電気を取引(売買)するだけでなく、同時に、隣の消費者同士が互いに(ピア・ツー・ピアに)電気を融通(取引)するエネルギー(取引可能エネルギー)のことである。
再エネの普及・増大に対応した、米国エネルギー省内に2004年に設置されたGridWiseアーキテクチャ評議会(GWAC:GridWise Architecture Council)注7は、「トランザクティブ・エネルギー・フレームワーク バージョン1.0」を、2015年1月に発表した。
このフレームワークでは、TEについて、次のように定義されている。
【トランザクティブ・エネルギー(TE)の定義】
主要な運用パラメータとしての価値を用いて、電力システム全体の動的な需給バランスを実現する経済・制御メカニズムを指す。
(解説:電力の需給バランスをとるための系統運用パラメータには、有効電力や周波数の偏差(ずれ)、電圧などがある。例えば、周波数のずれを修正するために、系統運用者の指令に従って、需要者(消費者)が分散型エネルギー資源からの出力(充放電)の上げ下げなどを行うと、報酬(価値)を与える、というようなこと)
このようなTEの動きは、再エネの導入、電力の自由化などの制度整備やインフラの整備(例:電力網や配電網の整備、スマートメーターの普及など)の進展を背景に、ブロックチェーンとも連携して展開され始めたところから、急速に関心が高まってきた。
〔2〕ブロックチェーンとは
ブロックチェーン(Blockchain)とは、個々(ブロック)の分散型台帳をつくり、それを相互に連携(チェーン)させて活用する仕組みのことで、当初は、ビットコインを支える技術として注目された技術である。
このブロックチェーンを電力の分野に適用すると、次のようなことが可能になる。
例えば、各家庭(ブロック)に設置された太陽光による電気の発電出力情報(kW情報)や蓄電池の容量情報(kWh情報)、1カ月の平均消費電力情報(kWh/月)などのデータ(台帳情報:データベースの一部)を共通化して、個々の家庭のシステム(ブロック)の台帳情報をつくり、それをセキュリティやプライバシーが保護されたセキュアなP2P通信(ピア・ツー・ピア通信:対等通信。チェーン)で連携させて、電気を融通(取引)できるようになる(後出の図3参照)。
TEが、再エネの大量導入に起因する電力系統への悪影響を解決する有力な手段となるかどうか、その実証実験に大きな期待が寄せられている。
▼ 注7
“GridWise Transactive Energy Framework Version 1.0”、GridWiseアーキテクチャ評議会