[クローズアップ]

スマートグリッド実証実験の成果から今後を展望する≪後編≫

― 日本独自のエネルギー管理手法を実践する「東北8地域事業」―
2014/10/01
(水)
SmartGridニューズレター編集部

神奈川県横浜市、愛知県豊田市、京都府けいはんな学研都市、福岡県北九州市の4地域において進められている、経済産業省の「次世代エネルギー・社会システム実証事業」は、2014 年度で終了を迎える。また、これと並行して、東日本大震災後の被災地復興を背景に、福島県、宮城県、岩手県の東北8 地域において、「スマートコミュニティ導入促進事業」も行われている。
後編では、現在進められている東北8 地域事業の概要とその目指すものについて整理する。さらに、岩手県北上市の事業をもとに、電気学会の「スマートグリッドにおける需要家施設サービス・インフラ調査専門委員会」(SGTEC)がIECに提出した、災害時における国内デマンドレスポンス(DR)運営のためのユースケースについて、SGTEC への取材をもとに解説する。

東北8地域事業の概要

東日本大震災からの復興を目的とする行政機関「復興庁」に設置された東日本大震災復興対策本部によって、平成23(2011)7月29日に「東日本大震災からの復興の基本方針」が決定された。

同方針内の「⑩再生可能エネルギーの利用促進とエネルギー効率の向上」の内容を受け、エネルギーの利用効率を高めるスマートコミュニティを、岩手、宮城、福島の被災3県に先駆的に導入する「スマートコミュニティ導入促進事業」が採択され、平成24(2012)年2~3月にマスタープラン策定事業者の選定が行われた。最終的に、①福島県会津若松市、②宮城県気仙沼市、③宮城県石巻市、④宮城県黒川郡大衡村(おおひらむら)、⑤宮城県亘理郡(わたりぐん)山元町、⑥岩手県宮古市、⑦岩手県釜石市、⑧岩手県北上市の8地域の事業が選ばれ、各事業の選定後、平成25(2013)年2月から順次事業が開始されている。

事業の採択は、復興庁が定めた集中復興期間である平成27(2015)年度末まで行われる予定となっている。ここでは、各事業について、その内容を整理する。

会津若松市

福島県会津若松市における事業は、会津若松市、東北電力、富士通など、20以上の企業や団体により事業が進められている。同事業の内容を表1に示す。

表1 福島県会津若松市の事業内容

〔出所 経済産業省 次世代エネルギー・社会システム協議会(第15回)配付資料9を元に編集部作成、<a href=

〔出所 経済産業省 次世代エネルギー・社会システム協議会(第15回)配付資料9を元に編集部作成、http://www.meti.go.jp/committee/summary/0004633/pdf/015_09_00.pdf

 同プロジェクトでは、スマートコミュニティ構築事業の期間には、エネルギーコントロールセンターの契約需要家数として1,000件の獲得を目指すことを目標としている。

気仙沼市

宮城県気仙沼市は、気仙沼市、および赤岩港地区の水産加工業9社、および荏原(えばら)環境プラント、スマートシティ企画を中心として、赤岩港「エコ水産加工団地」プロジェクトを進めている。

事業の概要としては、「水産加工業者が集まっている気仙沼市赤岩港地区のスマート化」「国内外の水産都市スマート化のモデルケースとしての気仙沼モデルの構築」を掲げている。

具体的には、EMS(エネルギー管理システム)と再生可能エネルギー機器を導入し、デマンドレスポンス(DR)により電気代・CO2の削減を目指すと同時に、水産加工団地内の電力供給を担う電気事業会社を立ち上げ、自立型エネルギー供給を行っていく。

石巻市

宮城県石巻市では、石巻市、東北電力、東芝などが中心となり、4地域実証の横浜市の実証技術を活用した地域エネルギー管理システムの構築を進めている。市内の4つの地区においてEMSとEV充電設備を導入するとともに、地域エネルギー管理システムにおいて管理・制御する。

石巻市は、平成23(2011)年10月に日本IBMなどと「石巻復興共同プロジェクト協議会」を設立し、10事業を柱として運営を進めており注1、そのなかのエコ・セーフティタウン事業の補助として、スマートコミュニティ導入促進事業の補助金を活用している。

 同事業では平成27(2015)年度までに実用プロトタイプを構築し、平成32(2020)年までには、モデル地域を石巻市内まで拡大、また、石巻市街の被災地まで連携対象となる需要側を拡大する予定である。

大衡村(おおひらむら)

宮城県黒川郡大衡村では、第二仙台北部中核工業団地「F-グリッド」(Factoryグリッドの意)を核としたスマートコミュニティ計画として、トヨタ自動車の工場を中心に、工業団地および地域コミュニティにおけるエネルギーの「セキュリティ向上注2」「環境性の向上」「経済性の確保」を総合的にマネジメントすることを目標として事業を進めている(図1)。

図1 大衡村のF-グリッドシステムの概要

図1 大衡村のF-グリッドシステムの概要

〔出所 経済産業省 次世代エネルギー・社会システム協議会(第15回)配付資料6を元に編集部作成、http://www.meti.go.jp/committee/summary/0004633/pdf/015_06_00.pdf

システム面での特徴としては、電力会社から一括受電を受けながら、自家発電設備から作った電気・熱のエネルギーをF-グリッドのCEMS注3によって制御・最適化し、工業団地内の需要家へ効率的にエネルギー融通を行う点が挙げられる。

また、非常時には、F-グリッドで発電した電力を東北電力が購入し、防災拠点となる大衡長村役場などの周辺地域に電力を供給するなどのシステムも作られる。

山元町

宮城県亘理郡山元町の事業は、山元町、NTT東日本、エネットなどが共同で行っており、「地域の自然エネルギー利用の普及」と、「災害発生時でも防災拠点に給電を継続できるシステム」の実現を目標に進められている。具体的な内容は、表2に示す。

表2 山元町の事業の具体的内容

表2 山元町の事業の具体的内容

〔出所 経済産業省 次世代エネルギー・社会システム協議会(第15回)配付資料8を元に編集部作成、http://www.meti.go.jp/committee/summary/0004633/pdf/015_08_00.pdf

同事業で特徴的なものは、「夏秋いちご農家向けPV注4土地借り」と「農業のAI(人工知能)化」である。これは、いちごハウスに隣接した余剰土地にPVを設置して売電を行うとともに、余剰土地の賃借対価として、いちごハウスには、地域新電力から安価な電力を供給するというものである。将来的には、ICTやセンサーなどを活用し、先進的ないちご栽培と農業のAI注5化を目指していく。

宮古市

岩手県宮古市のプロジェクトは、宮古市とNTTデータ、日本国土開発、エネットなどが中心となり進められている。具体的な事業内容を表3に示す。

表3 宮古市プロジェクトの事業内容

表3 宮古市プロジェクトの事業内容

〔出所 経済産業省 次世代エネルギー・社会システム協議会(第15回)配付資料3を元に編集部作成、http://www.meti.go.jp/committee/summary/0004633/pdf/015_03_00.pdf

本事業では、太陽光、バイオマス、小水力などの発電設備を設置し、CEMSを利用して地域の需要家へ供給することで、地産地消のエネルギーマネジメントを実現していくほか、全量固定買取制度(FIT)を活用した地域新電力事業者への売電などの取り組みも行う。また、もう1つ特徴的なものとして、表3の⑤の植物工場の取り組みが挙げられ、CEMSとの連携によるコージェネレーション設備による「電力・熱・炭酸ガス」を有効活用した「太陽光利用型植物工場」の構築を目指している。宮古市の、主に震災により浸水を受けた地域を活用し、土地の力の向上を図るとともに、大口需要家として、地産エネルギーを有効活用する。

宮古市は、企業群が少なく、地域住民の高齢化率が高く、また、集落が点在している中山間地域注6の地方都市であるため、同市のスマートコミュニティモデルは、性質が似た他の地域への展開が可能である。

釜石市

 岩手県釜石市の事業では、釜石市、東北電力と釜石市の各企業などが中心となり運営を進めている。同事業では、「積極的なスマートコミュニティの導入」「既存のインフラの段階的なスマート化」「緊急時のエネルギー確保に配慮した街づくり」などを目標として進められている。

 同市の事業の特徴としては、釜石市では、東日本大震災以前から、新日鐡住金の釜石火力発電所において、木質バイオマス発電や、ユーラスエナジージャパンによる釜石広域風力発電など、民間事業者による再生可能エネルギーを利用した大規模発電が行われ、地域のエネルギー供給拠点となっていた点が挙げられる。東北電力による鷲の滝・橋野・栗橋での水力発電、鉄鉱石採掘跡空洞を利用した日鉄鉱業による大橋地下発電所(水力発電)なども存在している点も大きな特徴となっている。

北上市

岩手県北上市における事業は、北上市をはじめ、JX日鉱日石エネルギーやNTTファシリティーズなどが中心となって運営されている。

同事業は、「あじさい型スマートコミュニティ」とも呼ばれ、北上市にある16の地域が、それぞれの地域ごとに発展し、結び付くことで、北上市全体の活性化につなげることを目標としている注7

同事業の内容は、既存の建物・施設へ段階的に再生可能エネルギーを分散配置し、市の関連施設で使用する電力の再生可能エネルギー比率を高めることでエネルギーの地産地消を目指すとともに、災害に強い街づくりを行っていくことである。具体的な施策としては表4のSTEP1とSTEP2となる。

同事業の特徴として、「平常時」と「災害時」という2つのエネルギー管理を想定している点が挙げられる。後述する「北上市事業における平常時/災害時のユースケース」で詳しく説明する。

表4 北上市におけるスマートコミュニティ導入促進事業の施策

表4 北上市におけるスマートコミュニティ導入促進事業の施策

〔出所 経済産業省 次世代エネルギー・社会システム協議会(第15回)配付資料4を元に編集部作成、http://www.meti.go.jp/committee/summary/0004633/pdf/015_04_00.pdf

ここまで、8地域事業の内容と成果を見てきた。東北の8地域事業では、4地域実証の成果をもとにして事業が構築されているなど、4地域実証での成功例の中から、それぞれの地域にあったモデルを採択し、経済的にも持続可能なビジネスモデルの構築を目指している。

前編(2014年9月号)では、電気学会の「スマートグリッドにおける需要家施設サービス・インフラ調査専門委員会」(以下、SGTEC)が4地域実証の調査をもとにIEC注9に提出した、スマートグリッドの技術の標準化の内容について紹介したが、東北8地域事業については、北上市の事業をもとにしたユースケースがIECに提出されている。次に、その内容について見ていく。


▼ 注1
経済産業省 次世代エネルギー・社会システム協議会(第15回)配付資料7を参照、http://www.meti.go.jp/committee/summary/0004633/pdf/015_07_00.pdf

▼ 注2
エネルギーセキュリティ:政治や経済などの社会情勢の変化に左右されないで、エネルギー源を安定的に確保すること。

▼ 注3
CEMS:Community Energy Management System、地域内のエネルギー監理システム。

▼ 注4
PV:Photovoltaic System、太陽光発電システムのこと。

▼ 注5
AI:Artificial Intelligence、人工知能のこと。

▼ 注6
中山間地域:平野の外縁部から山間地を指す。日本は山地が多いため、このような中山間地域が国土面積の73%を占めている。

▼ 注7
経済産業省 次世代エネルギー・社会システム協議会(第15回)配付資料4を参照、http://www.meti.go.jp/committee/summary/0004633/pdf/015_04_00.pdf

▼ 注8
BEMS:Building Energy Management System、ビル内のエネルギー管理システム。

▼ 注9
IEC:International Electrotechnical Commission、国際電気標準会議。電気および電子技術分野の国際規格の策定を行っている、各国の代表的な標準化機関から構成される国際標準化機関。1906年設立。

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