【VPP構築実証事業①】
アグリゲータ事業の具体的な成果:関西VPPプロジェクト
関西VPPプロジェクトは、表3に示すように、代表事業者を関西電力として計14者で構成され、図2に示すようなシステム構成で実証が行われた。
表3 VPP構築実証事業:関西VPPプロジェクト
出所 http://www.iae.or.jp/2017/04/11/vpp-report-fy28/#t_01、http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy_environment/energy_resource/pdf/005_02_01.pdf
図2 VPP構築に向けたシステム構成と各社の分担(関西VPPプロジェクト)
EVPS:Electric Vehicle Power Station、電気自動車用パワーステーション。EV(電気自動車)向けの充電器に、EVの蓄電池が貯めている電力を住宅に流す機能(V2H:Vehicle to Home)を追加したもの。EVPSサーバでこれを管理する。
EQ:EcoCute、エコキュート。ヒートポンプ技術を利用して、空気(大気)の熱で湯を沸かす電気給湯機。EQサーバでこれを管理する。
RF電池:Redox Flow cell、レドックスフロー電池。二次電池(充電可能電池)の一種
出所 http://www.iae.or.jp/download/a-1-1vpp/?wpdmdl=8987
〔1〕実証事業の目的
今回、関西VPPプロジェクトでは、次のような目的で実証事業が行われた。
(1)2017年4月に創設される(当時)ネガワット取引市場など、国やERAB検討会の検討状況を踏まえたビジネスチャンスの活用を念頭に、需要家設備をアグリゲート(集約)するシステムや事業スキームを構築する。
(2)蓄電池やエコキュート(EQ)などの需要家側リソースについては、VPP構築実証の5カ年(2016〜2020年度)を活用し、最低限必要と考えている規模のアグリゲートを目指す。
〔2〕実証システムの構成と各社の分担
図2、図3に示すように、関西VPPプロジェクトではVPP事業化に向けて、サーバ、ゲートウェイ(GW:Gateway)、各種リソース(蓄電池、EV、EQ、発電機、HEMSなど)からなるシステムを構築し、接続試験などが行われた。
図3 関西VPPプロジェクトにおける通信仕様・セキュリティ
システム構成は、大きく、
- 主プロジェクト
- 関連プロジェクト
に分けられ、それぞれ次のような役割を分担した(図2)。
(1)主プロジェクト
- 各種サーバの設計・開発(統合サーバ、大型蓄電池サーバ、EVPSサーバ、EQサーバ)および通信仕様の確立
- ゲートウェイ(GW)の設計・開発、実証リソースの設置、統合サーバからリソースまでの通信環境の構築
(2)関連プロジェクト
- メーカーサーバの設計・開発および通信仕様の確立
- ゲートウェイ(GW)の設計・開発、実証リソースの設置、メーカーサーバからリソースまでの通信環境の構築
〔3〕通信仕様とセキュリティ
一方、同プロジェクトにおける通信仕様やセキュリティは、図3に示すように、3つの区間に分けて実施された。この中で、広域的(屋外)に使用されるDR用プロトコルとしてはOpenADR 2.0bが使用され、家庭内の場合はECHONET Lite、オフィス・工場など業務用には、Modbus/TCPやFL-netや独自プロトコルが使用された。
(1)サーバ間 : 統合サーバとリソースサーバ/メーカーサーバ間
- 通信プロトコルとしてOpenADR 2.0b注9を採用
- サイバーセキュリティ対策として相互認証・暗号化を実施
(2)サーバ〜GW(ゲートウェイ)間
- 主プロジェクト:通信プロトコルとしてOpenADR 2.0bを採用。相互認証・暗号化を実施
- 関連プロジェクト:OpenADR 2.0b、MQTT注10、独自プロトコルを採用。相互認証・暗号化を実施
(3)GW(ゲートウェイ)〜リソース間
- 家庭の場合:ECHONET Liteを採用。一部独自プロトコルを採用
- 業務用の場合:Modbus/TCP注11を採用。一部FL-net注12、独自プロトコルなどを採用
〔4〕2016年度の実証の成果と課題
関西VPPプロジェクトにおける2016年度の制御内容と実証結果を図4に示すが、全体としては初期の目的は実現できている。実証事業において、改善策や工夫した点としては、
図4 2016年度の成果:制御内容と実証結果
(1)サーバ間の通信速度やセキュリティを確保するため、VPPシステムを同一クラウド内で構築したこと
(2)アグリゲータサーバ間の連携については、OpenADR 2.0bを採用し、標準化を図ったこと
などが挙げられている。今後の課題としては、
(1)セキュリティ関連対策のコストや通信コスト
(2)制御の速さや上げDR注13などのルールの整備
などが挙げられている。
▼ 注9
OpenADR 2.0b:Open
ADRアライアンス(2010年設立)が策定したデマンドレスポンス(DR、電力の需給管理)を実現するための通信プロトコル。OpenADR 2.0ではインテリジェントサーモスタットなど比較的単純な機器の制御を目的とするプロファイルA(OpenADR 2.0a)が
2012年8月に、アグリゲータなどによる本格的なADRサービスを目的とするプロファイルB(OpenADR 2.0b)が2013年7月に公表された。OpenADR 2.0bはOpenADR 2.0aを包含する、より高機能な仕様となっている。
▼ 注10
MQTT:MQ Telemetry Transport、センサーなどのリソースの少ないデバイスを相互接続し通信する環境(低帯域で信頼性の低いネットワーク上の通信環境)向けに設計された、M2MやIoTを実現するメッセージ通信用プロトコル)。1999年にIBMとEurotechによって共同開発された。HTTP(Hyper Text Transport Protocol)に比べて10〜100倍の高スループットで通信しながら、消費電力は1/10以下に収まるプロトコル。
▼ 注11
Modbus(モッドバス):米国Modicon(モディコン)社がPLC(プログラマブルロジックコントローラ)用に開発した通信プロトコル。Modbus/TCPは、Modbusのイーサネット拡張バージョンで、インターネット(TCP/IP)環境でModbus通信を行うためのプロトコル。
▼ 注12
FL-net(エフ・エル・ネット):イーサネット(IEEE 802.3)をベースとしたFA用の制御ネットワーク。日本電機工業会(JEMA)が推進する、異機種のPLCを相互接続可能なオープンPLCネットワーク(OPCN)。
https://www.jema-net.or.jp/Japanese/standard/opcn/pdf/NPCD001_guidelines.pdf
▼ 注13
上げDR:アグリゲータがDRの発動によって、需要者側の電気の需要量を増やすこと。例えば、再エネの過剰出力分を、需要者側の機器を稼働して消費させたり、蓄電池を充電することによって吸収したりすること。
上げDRに対して「下げDR」もある。これは、アグリゲータがDRの発動によって、電気の需要量を減らすことをいう。例えば、電気のピーク需要のタイミングで需要側の機器の出力を落として、需要と供給のバランスを取ること。事前の契約に基づいて行う下げDRは、「ネガワット取引」とも呼ばれている。