【VPP構築実証事業②】
IoTとビッグデータを活用した先駆的VPP実証事業
このプロジェクトは、VPP事業化に向けて、代表事業者をエナリスとして、表4に示す計6者で構成され、IoTとビッグデータを活用した先駆的VPP実証事業が行われた。
表4 VPP構築実証事業:IoTとビッグデータを活用した先駆的VPP実証事業
出所 http://www.iae.or.jp/2017/04/11/vpp-report-fy28/#t_01、http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy_environment/energy_resource/pdf/005_02_01.pdf
〔1〕実証事業の目的
このプロジェクトの実証事業の主な目的は、次の通りである。
(1)高圧需要家および一般家庭に設置する蓄電池のECHONET Liteによる制御
(2)一般家庭における創蓄連携(創電・蓄電連携)システムの統合マネージメント
(3)電気自動車(EV)および車載用蓄電池を活用した蓄電池などを、VPPとして機能させるためのシステム開発(アルゴリズム設計まで)
(4)再利用蓄電池のECHONET Lite化(改修)
(5)風力発電予測システムのモデル検証
〔2〕実証システムの構成と実証事業の内容
図5に、同実証システムの構成と各社の分担を、表5に実証事業の概要を示す。
図5 IoTとビッグデータを活用した先駆的VPP実証システムの構成と各社の分担
表5 実証事業の概要
図5に示す、サブアグリゲータ(KDDI)とは、アグリゲータ(エナリス:上位)とxEMS/GW(ゲートウェイ:下位)の間に位置して、上位/下位ともOpenADR 2.0bで通信する。
またサブアグリゲータは、アグリゲータからの需要家側エネルギーリソースの提供指示に基づいて、分散した需要家側エネルギーリソースを束ね、アグリゲータに提供する役割を担っている。
〔3〕2016年度の実証の成果
(1)機器などの設置状況
- 高圧、低圧の機器(蓄電池)の設置状況は、表6に示すとおり、高圧(9.9kWh)向け蓄電池は合計27台が設置された。
表6 機器(蓄電池)の設置状況
- 低圧需要家には、京セラが次のシステムを設置した。
- リチウムイオン電池蓄電システム(7.2kWhを246台、12kWhを119台)
- Smart-REACH HEMS
- 検定付きメーター(SmaMe)
- Bルートアダプタ(SA-M0)
以上のように、蓄電池については、高圧と低圧を合わせて、約400台(392台)規模の蓄電池が設置された。
- アグリゲータシステムとして、次の実証システムを構築した(図6)。
図6 実証システムの概要
WHM:Watt Hour Meter、ワット(W)アワー(H)メーター(M)の略で、積算電力量計のこと。電力料金算定の根拠となる計器
VEN、VTN:後述の説明を参照
出所 http://www.iae.or.jp/download/a-1-5vpp/?wpdmdl=8992- 上位アグリゲータシステム(エナリス):法人施設を主体に全体を管理するシステム
- サブアグリゲータシステム(KDDI):一般家庭を主体に管理するシステム
- EVアグリゲータシステム(日産自動車、4Rエナジー):EVの蓄電池などのVPP資源を管理するシステム
(2)全体のシステム構成
- 実証のシステム概略的な構成を図6に示す。
- 通信プロトコルとして、ECHONET-Lite、OpenADR 2.0b、HTTPS(EDI、独自)を採用注14。
- 制御サーバ間、制御サーバ〜コントローラ(ゲートウェイ)間、コントローラ(ゲートウェイ)〜エネルギー機器間にセキュリティ対策を実施。
(3)エネルギーリソースの制御内容
- 実証では、小売電気事業者の調達コストを低減することを目的として、経済性を重視し、次の2種類の制御が実施された。
- 前日の需要予測、スポット取引市場の価格予測に基づき充放電の計画を策定。
- 当日、余力がある場合に充放電可能量の範囲内で、インバランス注15抑制のための制御を実施。
- エネルギーリソース制御の結果は、表7の通りである。
表7 制御の結果(制御量・持続時間は参考日の結果)
表7の「反応時間」は、充放電指示を出してから実際に充放電が始まるまでの通信所要時間を含めた時間を示し、「持続時間」は、継続して充電/放電できる時間をいう。
また、「制御量」とは、実証実験した、ある日の充放電の実績を示す。
各蓄電池の総容量と総出力は、次の通りであった。- 「①産業用/業務用蓄電池」:総容量270kW、総出力267.3kWh
- 「②リユースバッテリー」:総容量250kW、総出力400kWh
- 「③サブアグリゲーター」:総容量967kW、総出力3184.8kWh
なお、持続時間については蓄電池のため、時間の調整が可能であった。
〔4〕2016年度の実証から見えた課題と改善策、工夫点
同実証事業を通じて、参加各社が確認した課題、改善策、工夫点を表8にまとめて示す。
表8 参加各社が確認した課題、改善策、工夫点
課題としては、データ欠損による制御の困難化などがあり、改善点としては逆潮流注16への対応や、データ欠損を考慮した制御などが実施された。
工夫点として、市場価格の予測などが同事業のシステムと連携して行われた。
▼ 注14
・HTTPS:Hyper Text Transfer Protocol Secure、HTTP
通信をセキュア(安全)に行うためのプロトコル。HTTPとは、WebブラウザとWebサーバ間で情報をやり取りするためのプロトコルのこと。HTTPSとはHTTPにTLS(Transport Layer Security、セキュリティプロトコル)による暗号化機能を付加したもので、セキュア(安全)な通信を実現するプロトコル。
・EDI:Electronic Data Interchange、電子データ交換。企業などにおける受注書・請求書などの商取引情報をネットワークを介して、電子データの形でやり取りをするプロトコル(通信手順)。
▼ 注15
インバランス(Imbalance):差分(不均衡による両者の差分のこと)。2016年4月の電力小売全面自由化以降、小売電気事業者などにおいては30分計画値同時同量が求められているが、小売電気事業者などが計画した需要量と実際の需要量の差分のことを「インバランス」という。このインバランス(差分)は、緊急に調達する必要があるため、一般送配電事業者によって補給されるが、その補給分については、小売電気事業者などとの間で、事後に精算されることになっている(インバランス料金が決められている)。
http://www.meti.go.jp/press/2016/03/20170321004/20170321004.html
▼ 注16
逆潮流:一般家庭などの自家発電設備(太陽光発電など)から、電力会社の電力系統に電気を流すこと。電力会社から一般家庭に電気を供給する場合は「潮流」と呼ばれるが、一般家庭の発電設備(太陽光発電)から電力系統に向かって流れる電気はその逆の流れになるので、「逆潮流」と呼ばれる。
なお、現在、一需要家内にFIT認定設備(例:太陽光発電)と非FIT認定設備(例:蓄電池)が併存する場合には、FIT制度に基づく電気の買取量(逆潮流量)を正確に計量するため、非FIT認定設備(例:蓄電池)からの逆潮流は禁止されている(FIT省令8条1項6号ロ)。
http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy_environment/energy_resource/pdf/005_07_00.pdf