[特集]

VPP構築実証事業第1年度の7プロジェクトから見えた成果と課題

― 2017年度にDRASを構築へ ―
2017/06/14
(水)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

高度制御型ディマンドリスポンス(DR)
実証事業の成果

〔1〕どのような実証が行われたか

 ここでは、冒頭に示した表1の「B.高度制御型ディマンドリスポンス実証事業の成果報告」を簡単に紹介する。

 すでに補助金事業として、DR実証事業(インセンティブ型DR注17)は2013年度から開始されてきており、2016年度の実証は最終年度の位置づけであった。2016年度は、DRを活用した調整力として4社(東京、中部、関西、九州)の一般送配電事業者において合計95.8万kW(総額約3,593百万円)が落札されるなど、日本で初めて、DRが開かれた競争入札市場で取り引きされた年となった注18

 前出の表1に示した2016年の「B.高度DR実証事業」には、前述したアグリゲータ15社、一般送配電事業者3社、早稲田大学が参加してDR実証が行われたが、その結果(概要)を図7に示す。

 早稲田大学には、すでにOpenADR 2.0b対応のDR共通基盤システム〔拡張メニューと、さらに進んだDRの使い方(独自メニュー)の実装〕が構築されているが、この基盤システムに収容されたアグリゲータ15社、一般送配電事業者3社では、次のようなメニューについて実施された。

(1)共通DRメニュー(SIMPLE、単にDRをしなさいという指令)を延べ662回の発動が実施された。

(2)拡張DRメニュー(LOAD_DISPATCH、

具体的に今月は〇〇kWの負荷を削減しなさいという命令、あるいはkWの変更命令など)は89回の発動が実施された(失敗や再発動も含む)。

〔2〕3種類のDR

 DRには、「10分前予告DR」「1時間前予告DR」「4時間前予告DR」の3種類があり、それぞれ図7の左下に示すような成功率であった。

 「10分前予告DR」とは、13時からDRを開始する場合は10分前の12時50分にDR指令をアグリゲータへ送り、30分間DRを行う。これは、早稲田大学内の電力DRAS注19に向けて「節電信号」を送ると、そのシステムがOpenADR指令にしてアグリゲータ側に送るというイメージである。

 繰り返しになるが、図7の表中の反応時間とは、DR指令を送ってからDRを開始するまでの時間をいう。また持続時間とは、負荷削減を継続する時間をいい、1時間前予告DRでは1時間継続、4時間前予告DRでは2時間継続することになっている。

 全体としては、需要削減量の制御性を高めたDRの技術的信頼性が、一定程度示されている結果となっているが、いくつか課題も指摘されている(図7の右)。

 ここでは誌面の都合から、結果概要についてのみ示しているが、詳しくは以下のサイトを参照していただきたい。

(1)https://www.iae.or.jp/2017/04/11/vpp-report-fy28/#t_02

(2)https://www.iae.or.jp/2017/04/11/vpp-report-fy28/#t_03

ERAB検討会が実施する2017年度以降の全体像

 ここまで、経済産業省が主導するERAB検討会の活動を見ながら、2016年度のVPP構築事業の成果の一部を紹介してきたが、次に、2017年度以降の動きを見てみよう。

〔1〕DRAS構築とVPP実証事業

 2017年3月に開催された第5回のERAB検討会では、来年度(2017年度)の取り組みとして、図8に示す内容が示された。特にVPP関連では、次の(1)(2)などが重点的な課題となっている。

図8 ERAB検討会における2017年度以降の全体像

図8 ERAB検討会における2017年度以降の全体像

出所 資源エネルギー庁、「来年度の取組」、平成29(2017)年3月8日

(1)DRAS構築

 一般送配電事業者において、DRAS(ディーラス)を試験的に構築する予定となっている。

(2)VPP構築実証事業(2016年度に引き続き)

  1. 電源Ⅰ-b(イチビー)注20相当の制御技術などの習得を目指す。
  2. OpenADRの機器別実装ガイドラインの有効性を検証する。

〔2〕DRAS導入の背景:現状と今後

 調整力注21の運用におけるDRAS導入の現状と今後については、次の通りである。

(1)現状

  1. 2016年度の調整力の公募(電源I’:イチダッシュ)において、DRの参加も可能なものとするため、一般送配電事業者から電源などへ出される指令方法は、発電機に発電指令を出すようにOpenADRでアグリゲータにDR指令が届く「オンライン」ではなく、電話やFAXでアグリゲータに知らされる「オフライン」とされた。
     さらに、実務制約上、オフラインの募集件数に上限(東京電力の場合10件)が設定された。
  2. 一方、アグリゲータ側では、(これまでのDR実証のために)すでにOpenADRのVEN(DR指令を受ける側の)システムを構築している。
     そのため、一般送配電事業者からオンラインによって調整力の指令を受けるほうが、別途の対応(電話やFAXで調達指示を受けること)を要さないなどのメリットがあるため、オンライン接続を可能とするDRASの導入への期待が高まっている。

(2)今後(2017年度)

 このような背景から、2017年度は、一般送配電事業者においてDRASを試験的に構築し、技術的検証を行う予定となっている。

〔3〕DRAS:OpenADRを活用したDRサーバ

 ここで、2017年度に予定されているDRASについて簡単に紹介しておこう。

 DRAS(図9)とは、OpenADR 2.0bという通信プロトコルを活用したデマンドレスポンス(DR)信号を送受信するサーバのことである。DRASは、送信ノード(VTN注22)と受信ノード(VEN注23)の対で構成される。

 このOpenADR 2.0bは、電力事業におけるアクター(Actor)と呼ばれる事業者や需要家間で情報をやり取りする場合の、

  1. 「メッセージ交換のデータモデル」と
  2. 「通信プロトコル」

を規定している。

 アクターは、

(1)OpenADR 2.0bメッセージの送り手であるVTN

(2)OpenADR 2.0bメッセージの受け手であるVEN

という形でモデル化されており、電力会社(あるいはアグリゲータ)がVTN(例えばサーバシステム)、需要家がVEN(例えば家庭用HEMSやスマートメーターなど)に相当する。

〔4〕2017年度の予算とVPP構築実証事業

 2年目となる2017年度のVPP構築実証事業は、予算40億円(2016年度は29.5億円)で、表9に示す内容で行われる。すでに公募期間(締切:2017年4月28日)は過ぎており、間もなく採択された事業者が発表される。

表9 平成29年度予算:需要家側エネルギーリソースを活用したVPP構築実証事業(案)
■予算■ 第2年度(2017年度):40億円〔<参考> 第1年度(2016年度):29.5億円)〕

表9 平成29年度予算:需要家側エネルギーリソースを活用したVPP構築実証事業(案)■予算■ 第2年度(2017年度):40億円〔<参考> 第1年度(2016年度):29.5億円)〕

※本実証の実施期間:交付決定日~平成30(2018)年2月28日〔公募期間:平成29(2017)年4月28日12時必着〕
出所 http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy_environment/energy_resource/pdf/005_09_02.pdf

 採択されたアグリゲータは、VPP実証を行うために必要なシステム構築費用や、VPP実証に活用するエネルギーリソースの導入費用、IoT化費用などが補助対象とされる。

 なお、採択結果は、A事業はエネルギー総合工学研究所注24、B事業はSII(環境共創イニシアチブ)注25のサイトで公表される予定である。


▼ 注17
インセンティブ型DR:DRアグリゲータと電力会社が需要抑制に関し契約を締結し、電力会社の依頼に基づいてDRアグリゲータが需要抑制を行い、その対価として電力会社がインセンティブ(報酬)を支払うDR方式。
http://www.meti.go.jp/press/2013/11/20131122001/20131122001.html

▼ 注18
ディマンドリスポンス(DR)を活用した応札は、電源Ⅰ’(電源イチダッシュ、後述)を募集した一般送配電事業者5社の募集量合計132.7万kWに対して合計111.2万kWあり、そのうち4社において合計95.8万kW(総額約3,593百万円)が落札となった。
http://www.emsc.meti.go.jp/activity/emsc/pdf/069_05_01.pdfhttp://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy_environment/energy_resource/pdf/005_06_01.pdf

▼ 注19
DRAS:Demand Response Automation Server、OpenADRを活用したDR指令のためのオンラインシステム。ディーラス。

▼ 注20
電源Ⅰ(電源イチ)とは、ピーク調整力用の電源のことで、電力会社が専用電源として、常時確保する設備などのことを指す。その使用目的に応じて、①周波数制御機能を必須とするピーク調整力用電源を「電源Ⅰ-a」、②需給バランス向けの調整力用電源を「電源Ⅰ-b」、③厳気象対応調整力用電源を「電源Ⅰ’(イチダッシュ)」と区分している。ここで、「厳気象対応調整力用」電源とは、猛暑(あるいは厳寒)に対応するために、原則として、一般送配電事業者が【電源Ⅰ】に追加的に確保する供給力のことを指している。

▼ 注21
調整力:2016年4月(電力小売全面自由化)から、系統安定化業務に必要な電力供給区域の周波数制御や電力の需給バランスの調整は、一般送配電事業者が担うこととなった。この調整力を実現するためには、発電設備(揚水発電設備を含む)をはじめ電力貯蔵装置、DR、その他の電力需給を制御するシステムなどがある。
https://www.occto.or.jp/iinkai/chouseiryoku/files/chousei_chuukantorimatome.pdf

▼ 注22
VTN:Virtual Top Node、仮想トップノード。DR信号(制御情報)を送信する機能。

▼ 注23
VEN:Virtual End Node、仮想エンドノード。VTNから送られてきたDR信号(制御情報)を受信する機能。

▼ 注24
http://www.iae.or.jp/recruitment-bid/

▼ 注25
http://sii.or.jp/vpp29/

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