ソニーのLPWAが片方向通信にこだわる理由
ソニーは、LPWAへの参入は後発であるところから、ソニーの技術を使用して通信距離や低消費電力(電池寿命)、サービスなどを含めて、通信品質にこだわったセキュア(安全)なLPWAを実現し、他のLPWAとの差異化を目指している。
ソニー社内でも、双方向通信の検討も行われたが、双方向通信の場合、
(1)基地局側だけでなく、端末側でも送信と受信の両方をできる必要があること
(2)このため、端末側の待ち受け電力が必要になること
(3)通信距離を長くするということは、端末の送信機能も受信機能も同じ感度が求められるため、端末のアンテナを大きくすることや、送信と受信の両方の電力消費も必要となること
などのデメリットが挙げられた。
これに対して、片方向通信に特化することによるメリットとデメリットに関して、メリットとして、
(1)ワンコイン電池で長時間動作できること
(2)自分が電波を送信したい時のみ端末を動作させればよいこと
(3)送信側(端末)の電子回路がシンプルになり、低価格化、低消費電力化ができること
(4)これによって、端末(トラッカー)を人にも動物にも、モノにも付けやすくなること
などが挙げられた。
また、デメリットとして、
(1)端末のソフトウェア・アップデート(更新)ができないこと
(2)センター(送信局)から端末を制御したい時にそれができないこと
などが挙げられ、検討が行われた。
このような検討結果を考慮して、当面、第1世代のLPWAは片方向通信とすることに決定した。ただし、今後、双方向通信のニーズが高くなり、いくつかの課題(通信距離や消費電力の課題)が克服されれば、双方向通信への対応も検討していく。
なお、1つの基地局(受信基地局)で、商用サービスでは端末1万台を収容することを目指しているが、現実的には、数千台との収容とみられている。PoCキットの場合は、1基地局当たり端末30台(トラッカー)を予定している。
具体的な実証実験の例
次に、ソニーのLPWAによる各種実証実験の例を紹介しよう。
図7は、東京都墨田区で2012年に開業した世界一の高さである東京スカイツリー(高さ:634m)にLPWA受信実験局を設置して、2017年4月から自転車や自動車の移動・走行試験を行っているところである。
図7 東京スカイツリーの受信基地局と自動車、自転車の走行実証実験
出所 「ソニーが提案する新たなLPWA」、2016年6月
図8の右は、埼玉県付近を走る時速220㎞程度の東北新幹線の実証実験で、受信基地局は、東京スカイツリーに設置されている。図8の左は、神奈川県・厚木にあるソニーの社屋の屋上に設置された受信基地局と、時速250㎞で走る東海道新幹線との通信の実証実験である。いずれも端末(トラッカー)は、新幹線の窓に設置されて実験された。
図8 新幹線からの受信実験
出所 「ソニーが提案する新たなLPWA」、2016年6月
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以上、ソニーのLPWAを見てきたが、ビジネスの展開は、LoRaWANのようなアライアンス形式ではなく、SIGFOXに類似したビジネスパートナー形式で展開される。また、国際標準化はETSI注8(欧州電気通信標準化機構)で行われている。
今後、IoT時代の進展に合わせて、間もなく3GPP標準のLPWA(NB-IoTやeMTC)も商用サービスが開始される。しかし、3GPPのセキュアなLPWAは基地局当たりの通信範囲が数㎞と狭いため、用途によっては、250㎞以上の通信距離が可能なソニーのLPWAは、共存可能である。
IoT時代に懸念される、サイバーセキュリティに対応して、3GPP標準のLPWAとセキュアなソニーのLPWAが、どのように共存しビジネスを展開していくか、目が離せない。
▼ 注8
ETSI:European Telecommunications Standards Institute、欧州電気通信標準化機構