電力系統における同時同量
図1に示した電力システム(電力系統)において、電力は貯蔵が困難(貯蔵は可能であるが、実現可能性や経済性に困難が伴う)ため、一般家庭・商店や工場などの需要家に安定的に電力を供給するためには、電力の供給(発電量)と電力の需要(消費量)を適正に調整して、常に「需要と供給のバランス」をとる必要がある。これは「同時同量」といわれている。ここでは、従来の「実需同時同量」と新しい「計画値同時同量」の違いを見ながら解説する。
〔1〕実需同時同量とは
電力自由化市場で、電力系統を安定的に維持するためには、先に挙げたいろいろな事業者(一般送配電事業者や小売電気事業者など)がそれぞれの役割を果たすことが必要となる。
電力の自由化前は、旧一般電気事業者10社の場合は、電力の供給エリア全体の需要量と供給量を瞬時瞬時(時々刻々)で一致させ(瞬時瞬時の同時同量)て、系統を維持してきた。
具体的には、一般電気事業者(旧10電力会社)の中央給電指令所注3などで行われてきた。
これに対して、一般電気事業者10社と比較して、扱う電力量が少ない小売電気事業者は、連続的に瞬時瞬時の同時同量の電力供給を達成することが技術的に困難なため、「30分間に消費される電力量」と「30分間に発電する電力量」を一致させることを基本とするルールで運用されてきた。これは「30分実需同時同量」と呼ばれてきた。
〔2〕従来の実需同時同量から計画値同時同量へ変更
以上のような同時同量に関する制度は、2016年4月からスタートした電力小売全面自由化以降、従来の「実需同時同量」から「計画値同時同量」へと変更となった(図2)。これについて、図3を見ながら説明しよう。
図2 小売全面自由化前後の同時同量ルール
図3 同時同量に関する制度の変更(実需同時同量⇒計画値同時同量)
出所 http://www.hepco.co.jp/corporate/con_service/pdf/new_consignment.pdf
(1)従来:実需同時同量
従来の制度では、図3左に示すように、特定規模電気事業者(新電力)などは、30分単位で、自社の発電実績に基づく発電量と自社の顧客の需要実績に基づく電力需要量を一致させる「30分実需同時同量」が義務化され、実施されてきた(「発電側だけ」で計画値を策定し実施)。これが一致できない場合(すなわち瞬時瞬時の同時同量が実現できない)場合、その差分は一般電気事業者から供給を受け、その量に応じて「インバランス料金」が支払われてきた。
(2)新制度:計画値同時同量と調整力
2016年4月1日以降の新制度である「計画値同時同量」(30分計画値同時同量)注4では、図3右に示すように、「発電側と需要側の双方」において計画値が策定され、同時同量が義務づけられた。
このため、発電事業者および小売電気事業者は、図3、図4に示すように事前(前日)に策定した、
図4 小売全面自由化後のインバランス調整の仕組み
①発電事業者(発電側)などの発電実績に基づく発電計画
②小売電気事業者(需要側)などの需要実績に基づく需要計画
などの計画を、広域機関(OCCTO)注5を通じて一般送配電事業者に提出することになった。これを受けて一般送配電事業者は、これらの計画値と当日の実績値との差分の電気(インバランス)を、
③一般送配電事業者が発電側へインバランス(発電計画と発電実績の差)を調整する
④一般送配電事業者が需要側へインバランス(需要計画と需要実績の差)を調整する
という制度に変更され、電力の安定供給を維持している。このような一般送配電事業者から供給される電力の差分について、発電事業者や小売電気事業者は、その対価として市場価格をベースに算定された「インバランス料金」を支払うことになる。
なお、2016年3月31日時点において接続供給契約を締結している契約者が申し出た場合には、当面の間、当該供給エリアにおいて実需同時同量に関する制度を継続することが可能となっている。
以上のように、2016年4月1日から、供給エリアの周波数制御や需給バランス調整は、改正電気事業法によって、表2に示した一般送配電事業者が担うこととなった。
このような電力系統の安定化に使用される電力は「調整力」と呼ばれ、「調整力」としては、例えば、発電設備(揚水発電設備を含む)やその他の電力貯蔵装置、ディマンドリスポンス(DR)などが挙げられている。
〔3〕インバランス料金
電力の需給バランスを調整するために発生するインバランス料金に関しては、経済産業省から、インバランス料金の算定の基となる単価の告示の公布が、2017年3月21日に行われた。具体的なインバランス料金の単価(需給調整コスト)については、全国の年平均の需給調整コストは「6.41円/kWh」と2016年度の8.80円/kWhよりも約27%の引き下げられ、この金額は2017年4月1日から適用されている注6。
なお、各地域の年平均の需給調整コスト(単位:円/kWh)は、北海道6.64円/kWh、東北6.10円/kWh、東京7.63円/kWh、中部7.03円/kWh、北陸4.44円/kWh、関西6.93円/kWh、中国6.36円/kWh、四国5.51円/kWh、九州6.60円/kWh、沖縄6.82円/kWhとなっている。このことから、東京エリアが最も高く、北陸エリアが最も安いことがわかる。
インバランスの調整費用の清算については、一般送配電事業者が発電事業者および小売電気事業者との間で、事後的に精算が行われている。
▼ 注3
中央給電指令所:電力系統の総合運用に関する業務を行う指令所。
▼ 注4
この30分計画値同時同量は、①一般電気事業者とその他の事業者のイコールフッティング(競争を行う場合の同等の条件)や、②新たに創設されたネガワット取引市場(2017年4月スタート)の促進などの目的をもってその運用が開始された。
▼ 注5
広域機関:正式名は電力広域的運営推進機関。OCCTO(オクト)は、Organization for Cross-regional Coordination of Transmission Operators, JAPANの略。電力システム改革の第1弾として2015年4月に発足。すべての電気事業者に加入義務のある認可法人として中立・公平な業務運営を行っている。電力の需要と供給のバランスを確保するとともに、電力系統の適切な整備を主導している。
https://www.occto.or.jp/occto/index.html
▼ 注6
http://www.meti.go.jp/press/2016/03/20170321004/20170321004.html