[特別レポート]

エッジ・コンピューティングを加速するクアルコムのIoTプラットフォーム戦略

― 世界初の30億個のトランジスタを搭載したSnapdragon 835を核に ―
2017/10/17
(火)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

次世代への展望:最盛期を迎えるIoT、AI、5G、自動運転、Industrie 4.0

〔1〕ムーアの法則は限界説を超え1チップに300億個の時代へ

(1)米国IBSの市場予測

 冒頭で紹介したように、クアルコムの最新鋭プロセッサ「Snapdragon 835」はサムスン電子の10nmの製造プロセスFinFET(フィンフェット)技術によって30億個のトランジスタの集積に成功し、人間の大脳の細胞数に匹敵する300億個の10分の1に迫ってきている。

 このため、10nmのプロセッサ(例:Snapdragon 835)は、半導体の世界におけるムーアの法則注16の限界まで達しているのではないかという限界説とともに、AI時代を迎え、いつ300億個のプロセッサが登場するのかという期待も高まっている。

 米国の市場調査会社IBS注17によって発表された半導体プロセッサの製造プロセスと市場の推移注18を見ると、この限界説を超えて、さらにムーアの法則が進展する可能性を示している(図6)。

図6 半導体プロセッサの製造プロセスと市場の推移:10nmは2017年、7nmは2018年、5nmは2021年から市場に登場

図6 半導体プロセッサの製造プロセスと市場の推移:10nmは2017年、7nmは2018年、5nmは2021年から市場に登場

出所 IEEE SPECTRUM:Intel Finds Moore’s Law’s Next Step at 10 Nanometers、2016年12月30日、By RACHEL COURTLAND

(2)2025年には7nmや5nmが市場を席巻

 図6の予測では、2017年には前述した10nmのプロセッサが商用化され、続いて2018年には7nmのプロセッサが、2021年には5nmのプロセッサが商用化され、1チップ上で人間の大脳の脳細胞数と同じ300億個のトランジスタが搭載される時代が到来すると予測されている。

 一方、IoT全盛時代を迎える2020〜2021年頃には、大量なセンサーをはじめ各種IoTデバイスが500億個も接続される時代が到来する。また、AI(ディープラーニング)をはじめ、モバイル通信の分野では5G(第5世代)が、自動車の分野では自動運転車が、製造業ではIndustrie 4.0に代表される第4次産業革命(IIoT:Industrial IoT)が、自治体ではスマートシティなどが、次々に実現される。

 さらに現場においては、発生する大量なビッグデータ(トラフィック)を分散処理する、エッジ・コンピューティングの利用も活発化する。

 このような背景のもとに、2021年には5nmのチップが商用化され、7nmのチップとともにその市場を拡大していき、2025年には大きな市場を形成していくと見られている(図6参照)。

〔2〕2021年:1チップに300億個のトランジスタを集積

 去る2017年6月に京都で開催された半導体回路に関する国際学会注19において、IBMは、画期的な新型のトランジスタアーキテクチャ(「シリコン・ナノシート・トランジスタ(Silicon Nanosheet Transistor)」と呼ばれる)の開発を発表した注20。これは、現在のSnapdragon 835で使用されているFinFET(フィンフェット)の次世代アーキテクチャとなる5nmチップの実現に向けた技術で、研究パートナーである米国GF(Global Foundries、グローバル・ファンドリーズ)や韓国・サムスン電子、半導体製造装置ベンダなどと共同開発に成功したという。

 具体的には、1個のトランジスタをさらに小型化・省電力化し処理性能を向上させながら集積度を向上させ、5nm線幅の1チップに300億個のトランジスタを搭載することも実証できたと発表されている。

 IoTやAIの全盛期を迎える2020〜2021年頃に、どのような半導体デバイスが登場するのか、大きな期待が寄せられている。


▼ 注16
「半導体素子に集積されるトランジスタ数は、18〜24カ月で2倍になる」という法則〔後の1975年に、24カ月(2年)で2倍と明確にされた〕。
原典:Electronics Magazine誌1965年4月19日号の記事タイトル
“By Gordon E. Moore. "Cramming More Components onto Integrated Circuits," Electronics Magazine Vol. 38, No. 8 (April 19, 1965)〔より多くの素子を集積回路(IC)に詰め込む)”

▼ 注17
IBS:International Business Strategies、本社は米国カリフォルニア州

▼ 注18
IEEE SPECTRUM:Intel Finds Moore’s Law’s Next Step at 10 Nanometers、2016年12月30日、By RACHEL COURTLAND

▼ 注19
半導体回路に関する国際学会議:2017年6月5〜8日の4日間、京都市のリーガロイヤルホテル京都で開催された「2017 Symposia on VLSI Technology and Circuits」

▼ 注20
IBM Research Alliance Builds New Transistor for 5nm Technology、2017年6月5日

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