エネルギー分野におけるブロックチェーンを活用した実証実験が進行中
現在、読者の最も大きな関心事は、「実際のところ、どのようなブロックチェーンの実用例があるのか?」だろう。このテクノロジーを自社のビジネスに応用して、新たな成長の可能性を探ろうと考えるなら当然のことである。事実、海外ではすでにいくつもの具体的な事例が報告されている。
なかでもエネルギー分野へのブロックチェーンの適用性は、分散化という切り口から、米国やドイツ、カナダ、英国、オーストラリアなど各国でも注目されている。
その先駆的な例として、米国ニューヨーク州のブルックリンでは、地域内の住民が自宅の太陽光パネルで発電した余剰電力をP2Pで売買する仕組みの実証実験、「ブルックリン・マイクログリッド」注1が2016年から行われている(図1)。ブロックチェーンに対応したスマートメーターを使い、発電量や使用量を自動的に記録して、取り引きした電力の決済・履歴保存までを行える。サービスの基盤は、「ブルックリン・マイクログリッド」を提供するLO3 Energy社が開発したプラットフォームで、それを支える中心的なテクノロジーとしてブロックチェーンが使われている。
図1 ブルックリン・マイクログリッド(トランザクティブ・グリッド)実証地域の様子(プレジデント通り)
※Martha:パークスロープにおいて40年の住宅所有者。ブルックリンで最初の太陽光パネルとスマートメーターの設置場所
出所 https://www.slideshare.net/JohnLilic/transactive-grid
日本にはまだこれからの可能性と市場が潜んでいる
一方、ブロックチェーンの利用に関して国内を見てみると、2017年時点では、実証実験への取り組みが各社から発表されてきているという状況である。しかし、実際に取り組みを進めている企業による実験のほとんどは、「秒間、何万トランザクション(取引履歴)をマークした」などの“技術検証” レベルで、実際にブロックチェーンを応用したサービスを展開し、ビジネスとして一定の成果を得たケースはまだ多くは見当たらない。しかし、引き続き前向きに取り組んでいけば、結果次第では大きな先行者利益を手にするチャンスだと考えるべきだろう。
国内企業のブロックチェーンへの取り組みの一部を見てみると、2017年6月、「再生可能エネルギー関連技術実証研究支援事業」において、エナリスと会津ラボが、ブロックチェーンを活用した電力取引サービスの共同検証を福島県内で開始すると発表注2。また、2017年7月、東京電力ホールディングスは、ドイツの大手電力会社イノジー社と共同で、ブロックチェーン技術を活用した電力直接取引(P2P)プラットフォーム事業を、ドイツで参入したことを発表している注3。
さらに2017年8月には、インフォテリアが、テックビューロと協業し、中部電力のブロックチェーン技術への理解取得とそれを活用したビジネスモデルの検討のため、ビジネスシーンを想定した実証実験を約1カ月開催している注4。
Profile
工藤 淳(くどう あつし)
オフィスローグ。
広告制作会社、出版社などに勤務の後、フリーライターとして独立。主にエンタープライズIT 関連のビジネス記事を手がける。
▼ 注1
・https://www.brooklyn.energy/about
・https://www.siemens.com/innovation/en/home/pictures-of-the-future/energy-and-efficiency/smart-grids-and-energy-storage-microgrid-in-brooklyn.html
▼ 注2
https://www.eneres.co.jp/news/release/20170609.html
▼ 注3
http://www.tepco.co.jp/press/release/2017/1443908_8706.html
▼ 注4
https://www.infoteria.com/jp/wp-content/files_mf/1501639308pr170802_01.pdf
http://mijin.io/ja/923.html