[特集]

エネルギーIoTで変革をめざすNTTスマイルエナジーの再エネアグリゲータとしての挑戦

― ポストFIT時代の再エネビジネスのゆくえ ―
2018/01/01
(月)
威能 契 インプレスSmartGridニューズレター編集部

NTTスマイルエナジーのIoTを活用した事業展開

 NTTスマイルエナジーはこれまで、図1のように、IoTやクラウドの高度化を通じてさまざまな事業を展開してきている。ここでは、その代表的なものについて見ていこう。

図1 NTTスマイルエナジーのIoTを活用した事業展開

図1 NTTスマイルエナジーのIoTを活用した事業展開

出所 NTTスマイルエナジー事業戦略発表会資料より、2017年11月14日

〔1〕エコめがね:見える化

 「エコめがね」とは、太陽光発電設備の発電量をセンサーで検知し、その情報をクラウドで分析し、省エネや太陽光発電の長期安定稼働をサポートするサービスである。クラウドにアクセスすることで、発電量をグラフなどのわかりやすい形で確認することが可能になる。また、太陽光発電設備所在地周辺の気候や日射量情報を取得して、それらの変化に対する発電量を比較する機能もある。

 このサービス注3には、住宅用の太陽光発電(10kW未満・余剰買取用)用のモニタリングと、産業用の太陽光発電(10kW以上・全量買取用)用遠隔監視の2種類がある。

 いずれも、太陽光発電をインターネット経由で、オーナー(施主)、太陽光発電販売会社の双方で遠隔モニタリングでき、センサーで電力データを計測してエコめがねサーバに送る(図2)。同サーバに収集されたデータは見やすくてわかりやすい「電力の見える化」「発電診断」「アラート(警報)メール」情報として提供される。これらはパソコン、スマートフォン、タブレットなどから、いつでもどこでも確認できるようになっている(図3)。

図2 全量モバイルパックマルチコネクト

図2 全量モバイルパックマルチコネクト

本体には、主に発電量などの各種データを計測するセンサーと、クラウドへのデータをやり取りするための3Gルータが収納されている。パワーコンディショナ—(パワコン)とはRS-485通信で接続し、発電量情報やエラー情報の収集が可能。収集情報は3Gモバイル通信でエコめがねサーバ(クラウド)に送信される。対応パワコンメーカーは田淵電機、パナソニック(三洋電機)、新電元、安川電機、三菱電機、デルタ電子、ファーウェイ。2017年9月29日に販売開始、モバイル回線利用料込み。
出所 NTTスマイルエナジーの商品カタログより

図3 エコめがねのビジネスモデル

図3 エコめがねのビジネスモデル

出所 NTTスマイルエナジー事業戦略発表会資料より、2017年11月14日

 住宅用は、発電量だけでなく、家庭の消費電力量や電気代、売電金額などがチェックでき、「売電を増やす」「節電する」など、電気代の削減や売電金額のアップにつなげられる。

 産業用は、遠隔地にある産業用太陽光発電設備でも遠隔監視でき、発電停止などのトラブルをいち早く発見できる「発電診断レポート」や、トラブル発生時にメールで通知される「アラート」機能も標準で利用できる。遠隔監視によって発電量の低下や発電停止などの不具合を早期に発見でき、さらに投資回収遅れのリスクも軽減できる。

〔2〕エコめがね O&Mアラカルトサービス:見守り

(1)FIT認定設備における発電停止の状況

 50kW未満の低圧の太陽光発電の設置は2016年時点で約45万設備にまで達し、急速に拡大・普及してきた。しかし、豪雨や落雷、台風による倒壊や飛散、停電、あるいは発火、発煙、ケーブル盗難など、遠隔監視を実施できていない設備がまだ多いのが現状である(2割程度しか遠隔監視が行われていない)。

 2017年4月から施行された「改正FIT法」注4では、認定設備機器には適切な保守点検や維持管理の実施が義務化され、太陽光発電市場においてもO&M(Operation & Maintenance、太陽光発電設備の運用保守)の必要性が指摘されている。

 経済産業省は、「50kW未満の低圧設備において、このうちの約3割は、設備損壊状態のまま放置され、約5割は、機器の状態監視を適切に行えておらず、軽微な不具合が放置されていた」と報告している。

 図4のように、3カ月以上売電停止をしている設備144件のうち、約75%のトラブルに関しては、遠隔監視などを導入して適切な対応をしていれば、売電停止を防ぐことが可能であると考えられている。

(2)売電停止の経済的リスクが避けられるO&Mサービス

 NTTスマイルエナジーでは、O&Mは重要な事業として位置づけ、同社は2016年より、太陽光発電システムにおいて販売会社に向けたO&Mサービス提供を支援するため、アラカルト(必要なものだけを選択できる)型の「エコめがねO&Mアラカルトサービス」各種を用意して、代行している(図5、表2)。販売会社は同サービスを利用することで、メンテナンス稼働を効率的に運営でき、保守費用にかかる固定費を削減できる。

図5 エコめがねO&Mアラカルトサービスの全体像

図5 エコめがねO&Mアラカルトサービスの全体像

出所 NTTスマイルエナジー事業戦略発表会資料より、2017年11月14日

表2 NTTスマイルエナジーのエコめがねO&Mアラカルトサービス一覧

表2 NTTスマイルエナジーのエコめがねO&Mアラカルトサービス一覧

出所 NTTスマイルエネジーのプレスリリースをもとに編集部作成

 図6は、落雷の影響で停電が発生したある太陽光発電設備に関して、エコめがねのアラートが異常を検知し、翌々日にパワーコンディショナーの電源を入れ直して無事に復旧したという実例である。同社によれば、図6に示すように、この事故を発見して復旧できなかった場合、同月(図では9月)の発電量に相当する17万7,000円分の損失の恐れがあったとしている。

図6 遠隔監視がない場合の経済的リスク

図6 遠隔監視がない場合の経済的リスク

出所 NTTスマイルエナジー事業戦略発表会資料より、2017年11月14日

〔3〕「エコめがね」の家庭用PPAへの活用

(1)PPAとは?

 エコめがねは、家庭用PPAにも活用されている。

 PPAとは、Power Purchase Agreementの略で、顧客(需要家)の敷地や屋根上に、事業者が所有する太陽光発電システムを設置し、そこで発電した電力を顧客に販売するというビジネスモデルのことをいう。

 米国ではすでにSolarCity(ソーラーシティ、現在はテスラが買収)やSunRun(サンラン)などが、このビジネスモデルで急成長している。

 図7について簡単に説明しよう。

図7 エコめがねを利用した家庭用PPAの仕組み

図7 エコめがねを利用した家庭用PPAの仕組み

出所 NTTスマイルエナジー事業戦略発表会資料より、2017年11月14日

  1. PPA事業者は自社所有の太陽光発電設備を、顧客(消費者)の家の屋根や土地に設置する。この費用はPPA事業者が負担する。
  2. 同発電設備で発電した電気のうち、顧客の利用量に応じた電気は、顧客がPPA事業者へ支払う(図7のC=自家消費)。
  3. 日中の発電で使い切らなかった余剰電力は、PPA事業者が一般電力会社などへ売電する(図7のB=売電)。
  4. 一方、夜間や天候不順などで発電できない時間帯の電気は、顧客がPPA事業者または一般電力会社から購入する(図7のA=買電)。

(2)PPAモデルのメリット

 実際に太陽光発電設備を設置する際には、顧客は資金を準備して、投資した金額を回収するための運転管理が必要になる。これに対して、消費者がこのPPAを利用すると、次のようなメリットを享受できる。

  1. 初期費用ゼロまたは少額で太陽光発電設備が設置可能
  2. 電力系統を使用しないため託送料金が不要となり、安価な電気料金で利用可能
  3. 非常用としても利用可能
  4. 数年後は(PPA事業者から)太陽光パネルの譲渡が可能

 一方のPPA事業者においても、顧客に提案しやすく、他社との差別化がしやすい新手法であり、かつ売電や自家消費電力などの収入も得られる。さらに、複数個所に設置した小規模な分散型電源を遠隔制御することによって、安定的に電力供給ができるなどのメリットもある。

 NTTスマイルエナジーの「エコめがね」は、施主と販売会社も双方で発電状況を確認できるためメンテナンスにも活用できる。このようなPPAモデルに利用できるよう、「エコめがね」にスマートメーターから自家消費分の電力料金を精算する機能も新たに追加している。これらのPPA版エコめがねは、日本エコシステム(東京都港区)やデンカシンキ(愛媛県松山市)が採用している。

「PPAモデルは、政府が推進しているZEH(Zero Energy House、ゼロエネルギー住宅)やBELS注5(ベルス。建築物省エネルギー性能表示制度)などの省エネ性能評価や、住宅の不動産価値の向上にも貢献できます。分散型電源の新たなビジネスモデルとして注目されているもので、現在、多くのお問い合わせをいただいています」と小鶴氏はいう。


▼ 注3
エコめがねラインナップ

余剰買取用、全量買取用エコめがね各種には、
・クラウドへの接続形態による違い(モバイルパック:無線通信対応で施工が容易、固定回線に接続)
・内蔵センサーなどによる機能の違い[RS:パワコン直結型、出力制御対応、マルチコネクト:パワコン直結型、200V電源対応(全量買取用のみ提供)、CT計測によるすべての発電所に対応]
などのプランがある。

▼ 注4
改訂FIT法:「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法等の一部を改正する法律」。再エネ導入量は2012年のFIT開始以降約2.5倍に増加し拡大したが、その一方で賦課金という国民負担の増大となり、これらの課題解決のため、FIT法が改正され、平成29(2017)年4月より施行された。
http://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/kaitori/dl/kaisei/0628tokyo.pdf
http://www.accca.net/2017fitdetail.pdf

▼ 注5
https://www.hyoukakyoukai.or.jp/bels/bels.html

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