DistribuTECH2018における大きな2つの流れ
今回のDistribuTECHの主要テーマは、「ハードウェアからソフトウェアへの業界構造の本格的な変遷」と「DER(Distributed Energy Resources、分散型エネルギー源)のグリッドへの取り込み」との2つに集約される。
〔1〕ハードウェアからソフトウェアへの移行の流れ
まず1点目の「ハードウェアからソフトウェアの移行」では、まず出展企業がこれまでと大きく変わってきた。
インテルやシスコシステムズ、オラクルといった大手IT企業、またベライゾンやノキアなどの通信会社が大きな展示ブースを構え、各社のソフトウェアソリューションを展示していた。プレイヤーが変わると業界構造も変わるが、プレイヤーの変遷は今後の電力業界の動向を強く示唆しているように感じた。
一方で、GEやアイトロン、ABBなど従来のDistribuTECHのメイン企業の出展内容も変化してきた。従来はハードウェア中心の出展内容だったこれらの企業が、各社独自のデジタルプラットフォームを提唱し、ハードウェアはそのプラットフォームの構成要素の一部としての位置付けに変わってきた。
実際に弊社ブースを訪れた米国の某電力会社の社員は「一昔前のDistribuTECHはスマートメーターやそれに関連するハードウェアの見本市のようであったが、それが大きく様変わりしてきた」と、語っていた。IT企業などによるスマートグリッド市場への参入や、 ハードウェアからソフトウェアへの技術プラットフォームの移行などの動きは、今後電力業界が大きく変化していく兆しであり、そのことが強く印象付けられた。
〔2〕DER(分散型エネルギー源)のグリッドへの取込みの流れ
なぜ、こうした変化が起こってきたのだろうか? その答えが2つ目の「DERのグリッド(電力網)への取り込み」である。
電力業界の長年のミッションは、電力の安定供給であり、そのために最適な電力網が構築されてきた。しかし、2015年のパリ協定(COP21)によって、再生可能エネルギー(以下、再エネ)や蓄電池などのDERをグリッドに取り込む技術の開発は、世界的な課題になった。米国はパリ協定に参画していない(批准はしているが、2017年6月にトランプ大統領がパリ協定からの脱退を宣言)が、州レベルでのRPS目標(RPS:Renewable Portfolio Standard、再生可能エネルギー利用割合基準)を定め、着実にDERの取り込みを進めている。
例えば、米国カリフォルニア州では、2020年までに送電業者が送電する電力のうち33%を再エネ由来の電力とすることを求めている。実際に、カリフォルニア州の電力事業者「CAISO」(かいそ)注1の調べによると、2017年5月13日に、同社の電力系統を流れる電力のうち、再エネが占める比率が66.45%に達したもようである(総電力量21.390GWhのうち、再エネによる電力が14.215GWh)。
このように、再エネへの移行が大きな潮流としてはっきりと顕在化し、DistribuTECH 2018はDER一色だったとも言える。
〔3〕グリッドを従来より柔軟に「スマート化」
天候によって出力が常時変動する再エネをグリッドに取り込むためには、グリッドを従来より柔軟に「スマート」にする必要がある。DistribuTECH2018では「Grid Modernization」(電力網の近代化)という言葉が随所に聞かれた。そのカギは、「データ」だと言われている。
‘You can’t control what you can’t measure’(測定できないものはコントロールできない)の格言通り、再エネは常時出力が変動するため、グリッドが必要とするデータにもリアルタイム性が求められ、結果としてデータの質も量も桁違いに変わってしまう。そのデータの取込手段としてビッグデータやIoTが強調されたソリューションが、またデータの解析手段としてAIを活用したソリューションの展示が多かった理由も、このような背景からであった。
このGrid Modernizationの過程の中で、ハードウェアからソフトウェアへの技術プラットフォームの移行が着実に進行しており、そのことが明示されたのが今回のDistribuTECHの大きな特徴であった。
▼ 注1
California ISO:California Independent System Operator、カリフォルニア独立系広域統運用者。