中国:水素モビリティの現状と今後の展開
写真4 中国:パン・ムー氏
出所 編集部撮影
中国の潘牧(パン・ムー、Pan Mu)氏は、「中国における水素モビリティ」と題して、中国における水素政策の状況と中国政府のロードマップを紹介し、燃料電池自動車の台数や水素充填ステーションの設置計画、それらを実現する補助金制度などについて述べた。
〔1〕中国の3つの課題
中国は人口13.8億人と世界第1位、GDPは米国に次ぐ第2位であり、近年、目覚ましい発展を遂げている大国である。このため、
表2に示すように、いくつか大きな課題を抱えている。現在、中国のエネルギーの多くは石炭消費(62.3%)で賄われているため大気汚染の原因ともなっている。また、消費される石油のうちほぼ70%は輸入に頼っており、国のエネルギー安全保障(Energy Security)の面からも大きな課題となっている。
表2 中国における3つのエネルギーの課題とその背景
出所 「国際水素・燃料電池パートナーシップ(IPHE)横浜フォーラム」(2018年5月8日)のスライドをもとに編集部作成
このような状況から、水力発電や風力発電、太陽光発電など、新たな再エネを開発し、急速に導入されているが、2017年には実に1,007億kWhの電力(日本の総発電量の1/10以上の電力)が利用されない(蓄積されない)で、無駄に捨てられたという問題が発生している。もし中国がこの利用されない余剰電力(1,007億kWh)で、水素をつくったならば、約200億立方メートル(m3)の水素が生成できたはずである。このようなことから、中国政府は、意欲的に水素を生成し、燃料電池の技術開発に乗り出している。
〔2〕中国政府が新ロードマップを公表
2016年末、中国政府は、省エネ、新エネ自動車のための新ロードマップ(Technic road map of energy saving and new energy vehicles)を公表した。これは中国の工業情報化部(日本の経済産業省に相当)や自動車産業にとって重要なロードマップになっている。
このロードマップでは、燃料電池と水素が計画(目標)の中心的な課題となっており、次のような意欲的な目標が掲げられている。
- 燃料電池自動車(FVC)の目標:2020年までに5,000台、2025年までには5万台、2030年までには100万台を目標とする。
- 水素充填ステーションの目標:2020年までには100基、2025年までには300基、2030年までには1,000基以上を目標とする。
〔3〕水素や燃料電池と関連分野の研究開発
また、水素や燃料電池に関する研究開発とともに、業界と協働して水素製造技術や水素貯蔵技術、水素の輸送方法などについても開発を行っていく。現在、中国では水素の多くは石炭火力からつくられているが、これからは再エネを利用して、カーボンフリーのグリーン水素を目指していく。
〔4〕燃料電池自動車などに関する地域的な計画
図13は、2020年までの、地方における燃料電池自動車の台数と水素充填ステーション(HRS:Hydrogen Refueling Station)の設置計画である。例えば上海では、2020年までには燃料電池自動車を3,000台、水素充填ステーションは5〜10基を設置する目標を掲げている。また上海のすぐ隣の蘇州では、同じく燃料電池自動車800台と水素充填ステーション10基を目標にしている。さらに武漢(ブカン)では、2020年までに燃料電池自動車を2,000〜3,000台、水素充填ステーションは5〜20基を目標にしており、この3つの都市だけでも燃料電池自動車の導入目標を達成できれば、中央政府の目標を達成することができる。
図13 2020までの地方における燃料電池自動車(FCV)台数と水素充填ステーションの設置計画
出所 「国際水素・燃料電池パートナーシップ(IPHE)横浜フォーラム」、2018年5月8日
また、図13の地図にはないが、広州や北京でも、独自の計画に活発に取り組んでいる。
〔5〕中国における補助金制度
表3は、燃料電池自動車と水素充填ステーションの普及を促進するための、国家レベルと地方レベルの補助金を示している。表3の左側に補助金の対象となる燃料電池自動車の車種を、右側に補助金の規模を示している。
表3 中国における水素充填ステーションと燃料電池自動車の補助金
出所 「国際水素・燃料電池パートナーシップ(IPHE)横浜フォーラム」(2018年5月8日)のスライドをもとに編集部作成
表3の下段には、補助金を出す各都市の名前を挙げている。例えば、上海市の補助金には中央政府の補助金よりも大きいものがあるが、これは、上海市のほうが中央政府よりも、水素・燃料電池の取り組みが積極的であることがうかがえる。上海市以外にも積極的な都市があるが、多くは大都市による取り組みになっている。
表3で注目すべき点は、燃料電池の補助金には、国家レベルと地方レベルとがあること、国と地方それぞれで決められた補助金は、2020年までは変わらないということである。
〔6〕中国における水素製造の現状
中国では、2017年に3,400万トンの水素を製造したが、これは世界一の量である。しかし前述したように、このほとんどは石炭燃料をベースとした製造になっている。したがって、炭素フリー(石炭を使わない)水素を製造していきたいという中国政府の強い方針のもとに、現在、10MWパワー・ツー・ガス(PtoG)プラントを河北省に建設中である。
これまで、小規模な風力発電によって水素を製造する実証実験が行われてきたが、これらは終了した。
〔7〕中国の燃料電池自動車と水素充填ステーション(HRS)の現状
中国における燃料電池自動車と水素充填ステーションの現状を図14に示す。2018年5月現在、乗用車60台、バス150台、トラック500台を所有している。
図14 中国の燃料電池自動車(FCV)と水素充填ステーション(HRS)の現状
出所 「国際水素・燃料電池パートナーシップ(IPHE)横浜フォーラム」、2018年5月8日
また、水素充填ステーションは、
- オンサイト方式(その場で水素も製造しFCVに充填する)では、70MPa(メガパスカル)が1基(充填圧力:70MPa≒700気圧)、35MPaメガパスカルのものが1基
- オフサイト方式(Delivered、水素を製造所などからステーションに運搬しFCVに充填する)では、70MPaが1基、35MPaメガパスカルのものが7基
となっている。
この数字は、日本やドイツ、EU、米国に比べると少ないが、2018年は、中国にとって、燃料電池や水素充填ステーション関連産業の元年となるのでは、と期待されている。
〔7〕北京に水素と燃料電池の国家アライアンスを設立
このような新しい動きを背景に、2018年2月、中国・北京に、学際的な組織や産業間組織、省庁間の国家同盟などによって、水素と燃料電池の国家アライアンスが設立された。
現在、20〜30のメンバーが参加しており、その構成員の一部を図15に示す。
図15 中国における水素・燃料電池産業の動きと国家アライアンス
出所 「国際水素・燃料電池パートナーシップ(IPHE)横浜フォーラム」、2018年5月8日
例えば、国家能源集団は、発電設備容量では世界最大の巨大な電力会社である。中国国电集团公司(China Guodian Corporation)は、中国最大の送電網関係の会社である。东风汽车(とうふうきしゃ)は中国で一、二を争う大手自動車メーカーで、中船重工(中国船舶重工集団公司、CSIC)は中国で最大の造船会社である。このように、中国の最大企業、最大組織がアライアンスに参加しており、中国の水素・燃料電池自動車関連産業に対する期待は大きい。