[急展開するエネルギー分野のブロックチェーン]

急展開するエネルギー分野のブロックチェーン

— 第3回 ブロックチェーン技術は再エネの大量導入に役立つのか? —
2018/08/01
(水)
大串 康彦 株式会社エポカ 代表取締役

再エネ資金調達/投資プラットフォーム

 ここで、再エネ資金調達/投資プラットフォームの事例を取り上げてみる。

 これは、FITの有無に関わらず事業環境が整っているという前提で、再エネ発電所の建設に必要な資金調達や再エネ案件に対する投資を、より容易にするためのものである。図1の枠組みには、ぴたりとははまりにくいが、収益モデルを作ることができる環境で再エネの導入を促進するものであり、今回は、これについて詳しく見ていくことにする。

 2018年6月現在では、表1に記載した、少なくとも7つの再エネ資金調達/投資プラットフォームが世界中で確認されているが、このうちザ・サン・エクスチェンジ(The Sun Exchange、南アフリカ共和国)、およびウイパワー(WePower、リトアニア)の取り組みを紹介する。

表1 ブロックチェーン技術を使った再エネ資金調達/投資プラットフォームの主な事例(順不同)

表1 ブロックチェーン技術を使った再エネ資金調達/投資プラットフォームの主な事例(順不同)

※ICO:Initial Coin Offering、(デジタルトークンや暗号通貨など)仮想通貨を発行して資金調達を行う方法
出所 各種資料もとに著者作成

〔1〕ザ・サン・エクスチェンジ(南アフリカ)

 2015年から南アフリカで活動しているザ・サン・エクスチェンジは、太陽光発電所のクラウドファンディングである。同社のWebサイトにはプロジェクトが並び、投資家が投資したいプロジェクトを選んで投資を実施する仕組みが紹介されている(図2)。現在のところ、これらのプロジェクトは、ザ・サン・エクスチェンジの運営メンバー自身によって組成されているようだ。

図2 ザ・サン・エクスチェンジ(The Sun Exchange)のプロジェクト(一部)

図2 ザ・サン・エクスチェンジ(The Sun Exchange)のプロジェクト(一部)

出所 https://thesunexchange.com/se-projects、2018年6月22日時点

 出資者が太陽光パネルを所有し、ザ・サン・エクスチェンジがシステムの残りを所有し、それぞれがプロジェクトごとに設立された特別目的会社に設備をリースする。太陽光発電システムのユーザーは、特別目的会社と20年の契約を締結し、合意したkWh単価で電気料金を特別目的会社に支払う。

 このように、出資者が、売電収入を原資とするリース料を20年間受け取るという仕組みである。出資およびリース料の支払いは、法定通貨(南アフリカランド)またはビットコインで行われる。この仕組みを図3に示す。

図3 ザ・サン・エクスチェンジ(The Sun Exchange)の仕組み

図3 ザ・サン・エクスチェンジ(The Sun Exchange)の仕組み

出典 Nioro Plastics Project Information Documentをもとに著者作成

 では、ブロックチェーン技術は、何に使われているのだろうか。電気料金の支払いやリース料の配分は、スマートメーターで自動取得される電力消費量データおよびスマートコントラクト(契約の自動執行)によって、リアルタイムで自動的に行われる。1kWhの電力が消費されれば、ユーザーのアカウントから資金が自動的に移動・分配されるというイメージだ。また、運転データおよび取引データは、ブロックチェーン上に安全に記録される。

 2018年6月現在、5件のプロジェクトが資金調達を完了し、そのうち2件が稼働中である。それ以外にも、出資を募集しているプロジェクトが1件ある。プロジェクトは、15〜473kWと小型である。

 また、ザ・サン・エクスチェンジは、通常のクラウドファンディングとは別にICO注13を実施し、追加プロジェクトの事前資金調達および保険ファンドの組成を行おうとしている。

〔2〕ウイパワー(リトアニア)

 リトアニアに本社があるウイパワー(WePower)は、再エネプロジェクトのための融資を金融期間から得ることが難しくなっていることを解決するための資金調達方法として、WePowerプラットフォームを提案している。

 前述のザ・サン・エクスチェンジが今のところ投資家を対象にしているのに対して、ウイパワーは再エネ発電所開発事業者(オーナー希望者)と投資家の両方を対象とし、資金調達と電力取引の2つの機能をもつプラットフォームを提供する。

 再エネ発電所の開発事業者は、将来発電する電気の一部を「エネルギートークン」として、引き取り手(小売事業者、需要家、電力トレーダー、投資家など)に販売することによって資金調達を行い、発電所を建設することができる。発電所建設後は、エネルギートークン保有者は、そのトークンと引き換えに、投資した発電所で発電された電気を購入することができる。

 この方法では、WePowerプラットフォームを使うことによって仲介事業者と仲介プロセスを減らし、再エネ開発案件の資金調達を簡単にすることができる。また、ブロックチェーン技術、およびトークン化技術を用いてスピードや透明性を担保し、投資家に対しては投資対象および流動性(取引可能性)を提供できることもメリットである。前述のザ・サン・エクスチェンジと同様に、売電収入の配分は、スマートメーターのデータを基にスマートコントラクトによって自動的に行われる。これらを図4に示す。

図4 WePowerプラットフォームの仕組み

図4 WePowerプラットフォームの仕組み

出典 WePower Whitepaperをもとに著者作成

 初期のターゲットはエストニアで、エストニアの送電事業者であるエラーリング(Elering)と実験プロジェクトを開発中である。また、スペインで、最初の商用プロジェクトを予定している。


▼ 注13
ICO:Initial Coin Oering、(デジタルトークンや暗号通貨など)仮想通貨を発行して資金調達を行う方法。

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