ブロックチェーンを使ったソリューションのジレンマ
今回紹介した再エネ資金調達/投資プラットフォームは、いくつかのジレンマを抱えるソリューションのように見える。
〔1〕地域エネルギーの目的と整合しない恐れ
テクノロジーを用いた資金調達の特徴として、国や地域に縛られずに、世界中の投資家から資金を調達できるという利点がある注14。
一方、現在、日本で起こっている地域新電力をはじめ、地域エネルギーシステム構築の動きの大きな動機は、地域外への資金流出の防止であり、さらには自治体新電力の条件として、出資は自治体と地元企業に限るという主張があるほどだ注15。したがって、今回紹介したようなソリューションを単純に適用するだけでは、地域エネルギーの目的と整合しない恐れがある。
ブロックチェーンを導入するなら、国や地域を限定せずに、資金調達できるというメリットが生かされる投資対象を、慎重に選ぶ必要があるのではないだろうか。
〔2〕中央の信頼が必要
また、ブロックチェーン技術の特徴として、特定の人や組織の信頼を基点とせずに、安全に取引を行えることが挙げられる。しかし、これはブロックチェーンの中の話であり、その外で起こっていることには当てはまらない。再エネ案件に投資する場合にも、デューデリジェンス注16が必要だが、デューデリジェンスのプロセスは、ブロックチェーンの外の話である。
例えば、日本からアフリカの案件に投資する場合、投資家が再エネの知識をもち、なおかつ現地に行くことができればよいが、そうでなければザ・サン・エクスチェンジのような組織に頼らなければならない。
非中央集権的な取引を可能とした革新的なブロックチェーン技術が、中央の信頼を必要とする、という問題を解決できていないのは非常にもどかしい注17。
したがって、今回紹介した再エネ資金調達/投資プラットフォームを、日本での再エネ普及に役立てるのには工夫が必要となりそうだ。
* * *
次回は、本連載の最終回になる。最終回では、エネルギー分野のブロックチェーンの展望と課題をまとめる。
なお、第3回の記事執筆には、株式会社スマートエナジー研究所 ファウンダー 中村良道氏、およびブロックチェーンによる分散エネルギー情報基盤アライアンス(DELIA注18)メンバーの皆様にご協力いただいた。ここに感謝の意を示す。
(第4回につづく)
◎プロフィール(敬称略)
大串 康彦(おおぐし やすひこ)<
株式会社エポカ 代表取締役
1992年荏原製作所入社、環境プラントや燃料電池発電システムの開発を担当。2006年から2010年までカナダの電力会社BC Hydro社に在籍し、スマートグリッドの事業企画担当・スマートメータインフラ入札プロジェクトチームに参加。その後、日本の外資系企業で燃料電池・系統要蓄電池等のエネルギー技術の事業開発を担当。
yasuhiko.ogushi@epoka.jp
▼ 注14
これは一般的な話であり、各国・地域の規制は別に考える。
▼ 注15
一般社団法人太陽光発電協会主催 第34回太陽光発電シンポジウム講演予稿集(1日目)p19
▼ 注16
デューデリジェンス:Due Diligence、投資対象(物件)を精査し、投資判断の材料とすること。
▼ 注17
仮想通貨の取引所にも同じことが言え、京都大学公共政策大学院の岩下直行教授は、「トラストレスの中のトラスト」という表現を使っている。