5Gにおけるネットワークスライシングとエッジコンピューティング
サムスンのエリック・グットマン氏(Erik Guttman、3GPP TSG-SA 議長)とKDDIの中野 裕介氏(同副議長)は、3GPP SA(サービスとシステム・アスペクト)の動向について述べたが、ここではそのうち、mMTC(超多数端末の同時接続)やURLLC(超信頼性・低遅延通信)を中心に紹介する。
IoT時代を迎えて、人以外の通信をカバーするためには、既存の4Gネットワークと比較して大幅に多様なサービスを可能にする技術が求められる。そのために、5Gで標準仕様化されたのがmMTC(超多数端末の同時接続)である。
5GのmMTCは、LTEの10〜100倍の数のIoTデバイスの接続を可能にして、その接続機器数の密度は実に100万台/km²となっている。
図9は、5G環境においてマッシブIoT(IoTデバイスの超多数同時接続)が求められる背景を示す。5G環境では、e-ヘルスから商業、農業、スマートハウス、産業(工場)、自動車、エネルギーに至るまで、既存の4Gネットワーク環境と比較して大量のデバイスが接続されるため、多様なサービスが期待されている。
図9 5G環境におけるIoTに超多数端末の同時接続(マッシブIoT)
出所 「New use cases with 3GPP 5G」、サムスン・エリック・グットマン(3GPP TSG-SA 議長)、KDDI・中野 裕介(3GPP TSG-SA副議長)、2018年10月17日
このようなマッシブIoTを効率的に実現するため、5GのURLLC(超高信頼性・低遅延通信)では、
- ネットワークスライシング〔ネットワーク機能の仮想化技術(NFV)で実現〕
- エッジコンピューティング〔基地局の近くに汎用サーバ(分散クラウド)を設置して実現〕
などの技術を導入した。
〔1〕ネットワークスライシング
図10は、URLLCを実現するネットワークスライシングの例である。
図10 超信頼性・低遅延通信(URLLC)を実現するネットワークスライシング
出所 サムスン・エリック・グットマン (3GPP TSG-SA 議長)、KDDI・中野 裕介(3GPP TSG-SA副議長)、「New use cases with 3GPP 5G」(2018年10月17日)をもとに一部修正
(1)図10の上部のスライスは、例えば、4K動画像などを大量に送受信するeMBB(大容量・超高速通信)のスライスAとし、(2)図10の下部のスライスBは、自動運転車などの制御を行うURLLC(超信頼性・低遅延通信)のスライスとする(スライスはいくつでも可能であるが、ここでは2つのスライスとした)。
スライスAとスライスBは、図10の中央の共有ネットワーク機能サーバで分離(絶縁)されており、それぞれ独立している。このため、スライスAのトラブルがスライスBに影響を与えることはない。
これまで4G(LTE)などのネットワークでは、1つのネットワーク内ですべてを処理していたが、5Gでは、このようなネットワークスライシングによって、例えば、映像用サービス群、医療用サービス群、製造業用サービス群ごとにネットワークスライスとして切り出し、それぞれにスライスを割り当てて通信することが可能になる。
〔2〕エッジコンピューティング
図11は、URLLC(超信頼性・低遅延通信)を実現するエッジコンピューティングの構成例である。これは、低遅延サービスを実現するときに威力を発揮する技術である。通常は、スマートフォンから、5G基地局(gNB)を介して中央に位置するネットワークセンターにあるコアネットワークに接続し、そこからインターネット(クラウド)に抜けていく(接続される)のがこれまでのネットワークの姿であった。
図11 超信頼性・低遅延通信(URLLC)を実現するエッジコンピューティング
出所 サムスン・エリック・グットマン (3GPP TSG-SA 議長)、KDDI・中野 裕介(3GPP TSG-SA副議長)、「New use cases with 3GPP 5G」(2018年10月17日)をもとに一部修正
今後、5G時代に超低遅延の通信が可能になれば、スマートフォンに近い基地局(エッジ側)の中に、コアネットワークの一部を配置する技術が、5Gで実現できるようになる。これによって、エッジ側にクラウド(分散クラウド)が置けるようになり、このような技術を使って、エッジコンピューティングが実現できるようになったのである。