3GPPリリース16:5G RAN(無線アクセス網)の特長機能
NTTドコモの永田 聡(ながた さとし)氏注2は、「リリース16 RANの特長機能概要」と題し、3GPP リリース16のRAN(Radio Access Network、無線アクセス網)に関して解説した。
- システム性能や効率の向上にむけて、MIMO注3の拡張、モビリティ(移動通信の範囲)の拡張、端末消費電力の削減
- URLLC(超高信頼性・低遅延通信)や産業用IoT(IIoT)、スライシング、車車間通信(V2X)、置局の柔軟性等のユースケースやサービスの拡張
図1は、リリース16のRANについて仕様化された主な拡張内容「eMBB」「mMTC」「URLLC」を示している。
図1 3GPPリリース16で仕様化された主な機能
出所 永田 聡、「Rel 16 コア 特長機能概要」、TTCオンラインセミナー、2020年10月27日
図1に示す利用シナリオの例として、
- アンライセンスバンド(免許不要な周波数帯)の利活用(5GHzや6GHz帯等)
- モバイルバックホール(中継回線)の活用(5G NRを無線バックホールに適用し、リレー基地局を実現)
- 下り回線の256QAM注4に高周波帯のFR2(Frequency Range 2)注5で対応
- 高速列車向け性能規定(最大500km/h)
- (LTE)IoT適用領域の拡大(eMTC、eNB-IoT)
等々の仕様が策定されている。
eMBB向けの拡張技術
次に永田氏は、eMBB(大容量・高速通信)向けの拡張技術(通信品質の改善や性能向上)について説明した。
〔1〕5G NR MIMOによる機能拡張
ここでは、eMBBにおいて、通信の品質や性能の向上を目指した、MIMO(マイモ)という複数の送受信アンテナを用いた機能拡張について見ていく。
図2は、リリース15とリリース16のMIMOの利用形態を比較したものである。
図2 5G NR MIMO機能の拡張(分散MIMO)
CC:Component Carrier、コンポーネントキャリア(キャリア:データを乗せて送受信する周波数帯の1つの単位のこと)。例えば、4G(LTE)では、キャリアアグリゲーション(CA:Carrier Aggregation)という「複数の周波数帯(上り、下りとも各最大20MHz幅を使用)を束ねることによって、通信速度を高速化する技術」が開発された。この周波数帯域(20MHz)をコンポーネントキャリア(CC)と呼び、CC(20MHz)を複数同時に用いて通信を行うことで、例えば、最大100MHz(20MHz×5)までの広帯域化(高速化)を実現している。
出所 永田 聡、「Rel 16 コア 特長機能概要」、TTCオンラインセミナー(2020年10月27日)をもとに編集部で一部加筆・修正
基地局側で、場所の異なる複数の送受信点(TRP:Transmission and Reception Point)からの信号を送信可能とする「分散MIMO」注6によって、例えば、端末が同時に2つのTRPから異なるMIMOレイヤのデータを受信し、通信のMIMOランク(通信路数の増大や通信品質の向上の指数)を向上させたり、端末がそれぞれのTRPから繰り返し同一信号を受信したりすることで、信頼性の向上(パケットデータの送信成功率の向上)を実現することができる。
具体的には、図2(1)の右図に示すように、基地局側には場所の異なる2つのTRPに、アンテナまたはアンテナパネル注7を設置して通信する。
また図2(2)の右図は、伝搬の方向を絞った電波の束である「ビーム」の制御を改善することによって、低遅延や低オーバーヘッド(付加的処理を少なくする)を実現し、適切なビーム利用を実現可能としている例である。
以上のほか、永田氏は、5G NR端末の消費電力の低減方法や、5G NR端末の位置測位の仕組みなどについても紹介した。
〔2〕5G NRのアンライセンス周波数帯への対応
次に、永田氏は、eMBB向けの利用シナリオの拡張技術として、5GHz帯と6GHz帯のアンライセンス周波数帯(免許不要周波数帯)への対応について紹介した。
これは、Wi-Fiと同じLBT注8に基づくチャネルアクセスによって、5G NRがWi-Fiをはじめ他の無線アクセス技術(RAT)と共存可能とする仕様である。
具体的には、図3に示すように、5150~5350MHz帯、5470~5725MHz帯をはじめとする多数の周波数帯が審議されている。
図3 5G NRのアンライセンス周波数帯(NR-U:NR Unlicensed )への対応
LAA:免許不要の周波数帯(例:Wi-Fiの周波数帯(5GHz帯等))を用いて5G通信を行う方式
置局:基地局の設置場所
出所 永田 聡、「Rel 16 コア 特長機能概要」、TTCオンラインセミナー、2020年10月27日
また、図3下段に示すように、5G NRでは、基地局と端末間において、
- スタンドアロンNR-U(NR Unlicensed、NRアンライセンスバンドのみの通信)
- LAA(Licensed Assisted Access、同一基地局においてNRアンライセンスバンドとNRライセンスバンドを同時に用いる通信)
- DU(Dual Connectivity、複数基地局間におけるLTE/NRライセンスバンドの通信およびNRアンライセンスバンドの通信を組み合わせた通信)
の3つの方式が可能となる(注:4G LTEの場合は、アンライセンス周波数帯の利用は図3の下段中央に示すLAA方式のみが可能)。
〔3〕NR-IAB(アクセス回線とバックホール回線の統合)
また、図4に示すように、5G NR無線インタフェースを、アクセス回線とバックホール回線の両方に利用できる、「NR IAB」(New Radio Integrated Access Backhaul)の無線仕様化も進められている。
図4 NR-IAB(アクセス回線とバックホール回線の統合)の仕組み
CU:Centralized Unit、集約基地局 DU:Distributed Unit、リモート局
MT:Mobile Termination、モバイルターミネーション。IAB-MTは、IABドナーノードもしくは親ノードのDUと、NRの無線アクセス回線によってバックホール回線として接続するための機能
IAB-DU:UEおよび子ノードをアクセス回線で接続させるための機能
出所 永田 聡、「Rel 16 コア 特長機能概要」、TTCオンラインセミナー(2020年10月27日)をもと一部加筆・修正して編集部で作成
これによって、置局(基地局の設置)の柔軟性が向上し、通信エリアの拡大やネットワークの高密度化が可能となる。また、アクセス回線とバックホール回線の周波数は、同じ周波数でも、異なる周波数でも利用可能となっている。
さらに、バックホール回線のNR DC(Dual Connectivity)/CA(Carria Aggregation)の機能拡張も行われており、これらによって置局の柔軟性が拡大できるようになる。
▼ 注1
TTCオンラインセミナー5G最新機能(3GPP リリース16)」、2020年10月27日(ウェビナー)
▼ 注2
永田 聡氏:株式会社NTTドコモ ネットワークイノベーション研究所 担当課長。3GPP TSG-RAN 副議長。
▼ 注3
MIMO:Mutipule Input Multipule Output、多入力・多出力。送信側と受信側(基地局側と端末側)にそれぞれ複数のアンテナを設置して通信し、通信容量の増大や通信品質の改善を行う技術。
▼ 注4
QAM(クァム):Quadrature Amplitude Modulation、直交振幅変調方式。1回の変調〔デジタル情報を電波(搬送波)に乗せること〕で、多くの情報量を送信して高速化する多値変調のこと。
互いに独立しているデータを運ぶ2つの搬送波(同相の搬送波と直交位相の搬送波)に個別に振幅変調行い、データを伝達する変調方式。例えば16QAMでは、1シンボルで4ビット(2の4乗=16種の状態)、64GAMでは6ビット(2の6乗=64の状態)、256QAMでは8ビット(2の8乗=256の状態)のデータを送信できる。
▼ 注5
3GPPの標準仕様で使用される周波数範囲は、大きく(1)FR1〔450~6,000MHz(450MHz~6GHz)〕、(2)FR2〔24,250~52,600MHz(24.25GHz~52.6GHz)〕の2つに分類されている。このうちFR1は、既存の4G(LTE)と同じ周波数帯、および5G向けに新規に割り当られた周波数帯で構成される。日本で2019年4月に5G用に新たに割り当てられた周波数帯は「3.7GHz帯」「4.5GHz帯」「28GHz帯」である。
▼ 注6
分散MIMO:Distributed-MIMO、場所の異なる複数のTRPが連携して端末と通信する技術。
▼ 注7
アンテナパネル:高周波を用いる5Gシステムにおいて、5G基地局に設置される複数のアンテナ素子からなるパネルのこと。
▼ 注8
LBT:Listen-before-talk、無線端末が通信を行う場合に、使用する周波数帯域が他の通信に使用されていないことを確認(キャリアセンス)してから通信を開始する仕組みのこと。