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3GPPリリース16完成!本命の「5Gコアネットワーク」が離陸へ<前編>

― 動き出した5GAA(C-V2X)・5G-ACIA(NPN)・5G-MAG(放送) ―
2020/12/10
(木)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

5Gのコアネットワークを含む5Gフル仕様となる「3GPPリリース16」が、2020年7月に完成したタイミングを受けて、TTCオンラインセミナー「5G最新機能(3GPPリリース16)〜仕様概要、実現ソリューションと産業連携〜」(TTCおよびARIBによる共催)(注1)が開催された(表1)。セミナーでは、最前線で活躍する講師陣によって、移動通信システムの国際標準仕様を策定する3GPPの歴史的経緯から、3GPPのリリース15(5Gフェーズ1:基本仕様)、5G無線の性能向上や5G NPN(5G非公衆網)対応などの機能拡張を含むリリース16(フェーズ2:フル仕様)、更なる機能拡張に向かうリリース17までの最新動向が、幅広く紹介された。ここでは、5Gの先進的な内容と新しい業界動向を、前/後編でレポートする。

3GPP標準仕様策定の発展史

〔1〕3GPPと3つの技術仕様化グループ(TSG)

 TTC 5Gセミナーのトップバッターとして登壇した、ソフトバンクの横田 大輔(よこた だいすけ)氏注2は、「3GPP 5Gシステム仕様検討の経過、及びRel 16の役割」というテーマで講演した。

 最初に5Gの標準仕様を策定している3GPPのプロフィール注3や、組織構成(後述)、歴史的な経緯を解説し、続いて標準仕様策定のステップとして、5Gに関する3GPPのリリース14からリリース17までの全体の流れを概観した注4

〔2〕歴史的な経緯:ITU-Rの「IMTビジョン勧告」

 歴史的に見ると、2015年9月に、無線通信部門の国際標準組織であるITU-R(表2)は、5Gの実現を目指して「IMTビジョン勧告」(ITU-R勧告M.2083)を発表した。このIMTビジョン勧告には、5Gの有名な3つの利用シナリオ(eMBB、mMTC、URLLC。表3)や5Gの要求条件、5Gの開発の方向性などが盛り込まれた。

表2 ITU-Rと3GPPの関係

表2 ITU-Rと3GPPの関係

ITU-R:ITU(International Telecommunication Union) Radiocommunication Sector、国際電気通信連合の無線通信部門
出所 各種資料をもとに編集部で作成

表3 5G(IMT-2020)の3つの利用シナリオの概要

表3 5G(IMT-2020)の3つの利用シナリオの概要

MTC:Machine Type Communication、3GPPにおけるマシン(機器)通信(モノの通信)の呼称
出所 各種資料をもとに編集部で作成

〔3〕3GPPにおける標準仕様の策定

 このIMTビジョン勧告を受けて、移動通信システムの標準技術仕様を策定する3GPPで、5Gの仕様策定の作業が開始され、まず、5Gの基礎的な調査などを含めたリリース14が、2016年6月に策定された。

 続くリリース15では、5Gの新無線インタフェース「NR」(New Radio、NSA/SAなど。表4)や5Gコアネットワーク(5GC)を含む5Gの基本仕様(フェーズ1)が、2018年6月に策定された。

表4 5Gの標準仕様を策定している3GPPのリリース状況と「NSA」「SA」

表4 5Gの標準仕様を策定している3GPPのリリース状況と「NSA」「SA」

※EPC:Evolved Packet Core、LTE(4G)対応の無線端末などを収容する4Gのコアネットワークのこと
出所 各種資料をもとに編集部で作成

 さらに、リリース16で5G無線(NR)の性能向上や5Gコアネットワークの機能拡張を含む要求条件に対応した、5Gのフル仕様(フェーズ2)が、2020年7月に完成した(表5、図1)。

表5 3GPPにおける5Gに関する各リリースの標準仕様の主な内容

表5 3GPPにおける5Gに関する各リリースの標準仕様の主な内容

総務省「5G・ローカル5Gの普及・高度化に向けた取組」、2020年10月の5~6ページ参照
PNI-NPN:Public Network Integrated Non-Public Network、公衆5G網統合型NPN。公衆5Gと統合され、共有された形で構築される非公衆5G網(ローカル5G)。MNO(5Gを提供する移動通信事業者)から提供される。
SNPN:Stand-alone Non-Public Network、公衆5Gから完全独立型のNPN。外部の公衆5G環境から完全に独立した、スタンドアロンな自営5G網(ローカル5G)。
出所 横田 大輔、「3GPP 5Gシステム仕様検討の経過及び Rel 16 の役割」、TTCオンラインセミナー、2020年10月27日をもとに編集部で作成

図1 5G標準化のステップ

図1 5G標準化のステップ

フィージビリティスタディ(Feasibility Study):実現の可能性を事前に調査すること
インプット:提案のこと
出所 横田 大輔、「3GPP 5Gシステム仕様検討の経過及びRel 16の役割」、TTCオンラインセミナー、2020年10月27日


▼ 注1
TTC:Telecommunication Technology Committee、一般社団法人情報通信技術委員会。ARIB:Association of Radio Industries and Businesses、一般社団法人電波産業会

▼ 注2
横田 大輔 氏:ソフトバンク株式会社 コアネットワーク本部
コアネットワーク制御開発部 部長。TTC移動通信網マネジメント専門委員会 委員長

▼ 注3
3GPP:Third Generation Partnership Project、第3世代携帯電話システム(W-CDMA)の国際標準仕様を策定のために設立された標準化団体(パートナー)間のプロジェクト。その後、4G(LTE)や5G(NR)へと領域を拡大している。
パートナーは次の7標準化団体(SDO:Standards Development Organization):①TTC(情報通信技術委員会、日本)、②ARIB(電波産業会、日本)、③ATIS(米国)、④CCSA(中国)、⑤ETSI(欧州)、⑥TSDSI(インド)、⑦TTA(韓国)。2020年10月27日現在、3GPPへの参加企業数は714社。
https://www.3gpp.org/about-3gpp

▼ 注4
3GPPのリリース(Release):3GPPでは、策定される標準技術仕様それぞれに(一定期間を定めて)リリース(Release)番号が振り分けられ、発行される。各リリースの検討期間は15〜18カ月で、例えば次のような仕様が盛り込まれている。
・リリース15:5Gのフェーズ1の内容。[例]5Gの新無線方式のNR(New Radio)、5Gコアネットワーク(5GC)等。
・リリース16:5Gのフェーズ2の内容。[例]無線性能の向上や非公衆網(5G NPN)への対応等の機能拡張)等。

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