3GPP RAN(無線アクセスネットワーク)の動向
ノキアのバラツ・ベルティーニ氏(Balazs Bertenyi、3GPP TSG-RAN 議長)とNTTドコモの永田 聡 氏(同副議長)は、リリース15で仕様化されたNSA(ノンスタンドアロン)のシステム構成とSA(スタンドアロン)のシステム構成や、現在開始されているリリース16の概要を解説した。
〔1〕3GPPリリース15
図4は、3GPPリリース15で標準仕様化された、(1)5Gの新無線インタフェースNR(New Radio)の(1)NSA(ノンスタンドアロン)構成と(2)SA(スタンドアロン)のシステム構成である。
図4 3GPPリリース15のNSA 5GとSA 5G
EPC:Evolved Packet Core、LTEのコアネットワーク。 E-UTRAN:LTEのアクセスネットワーク。
en-gNB:NRのノンスタンドアローン(NSA)向けのRAN(無線アクセスネットワーク)において、NR無線を提供する無線基地局。
ng-eNB:NRのSA(スタンドアロン)環境に対応したLTE基地局(eLTE:enhanced LTE、NRと協調できるLTE基地局で、5Gシステムの構成要素と位置付けられる)。
eNB:eNodeB、LTE基地局。 gNB:gNodeB、 NRのスタンドアローン(SA)向けのRANにおいてNR無線を提供する5G NR基地局。
5GC:5G Core Network、5Gコアネットワーク。
NG-RAN:Next Generation‐Radio Access Network、 5Gコアネットワークに接続される無線アクセスネットワーク。無線アクセス技術としてNR(5G)、E-UTRA(LTE)を使用できる。
出所 「5G NR standards - from vision to reality」、ノキア・バラツ・ベルティーニ(3GPP TSG-RAN 議長)、NTTドコモ・永田 聡(3GPP TSG-RAN 同副議長)、2018年10月17日
(1)NSA(ノンスタンドアロン)のシステム構成
図4(1)は、5GシステムにおけるNSAの場合のシステム構成であり、4G(LTEコア:EPC)と5G(NR)を連携させた(混在させた)システムである。
具体的には、4G(LTE)のコアネットワークである既存のEPCと、5Gの基地局(en-gNB注1)の双方を組み合わせた構成になっている。
接続するためのインタフェースも4Gで使用されているS1やX2をそのまま利用できるため、通信事業者や通信機器ベンダにとって導入する場合の障壁が低いことが、NSAの特徴だ。
このとき、3GPP標準のキャリアアグリゲーション注2やデュアルコネクティビティ注3などの技術が使用される。NSAシステムでも、4GのLTE基地局(eNB)と5GのNR基地局(gNB)の双方をXインタフェースでつなげて(これをLTE-NRデュアルコネクティビティと言う)、双方の基地局間で信号を送受信し、4G基地局(LTE)と5G基地局(NR)の双方が、既存のLTEコアネットワーク(EPC)と接続し通信できるようになっている(いくつかオプションがあるがここでは省略する)。
(2)SA(スタンドアロン)のシステム構成
図4(2)は、5GシステムにおけるSA(スタンドアロン)の場合のシステム構成であり、5GC(5Gコアネットワーク)とNG-RAN(5Gコアネットワークに接続される無線アクセスネットワーク)を連携させたシステムである。すべて5Gシステム(既存の4G基地局も5G対応に機能拡張されている)で構成されているところから、スタンドアロン(5G単独)と言われる。
5Gの基地局(4G基地局のen-gNBも含む)は、NGというNR用の新インタフェースを活用して、5Gのコアネットワーク(5GC)と接続する構成となっている。
〔2〕3GPPリリース16
3GPPリリース15に続くリリース16では、2019年12月の完成を目指して、IoTや低遅延にも対応した5Gのフル仕様が策定されている。図5と図6に、リリース16の全体的なビジョンを示す。
図5 3GPPリリース16:5Gの拡張の分野
出所 「5G NR standards – from vision to reality」、ノキア・バラツ・ベルティーニ (3GPP TSG-RAN 議長)、NTTドコモ・永田 聡(同副議長)、2018年10月17日
図6 3GPPリリース16:5Gの効率性
出所 「5G NR standards - from vision to reality」、ノキア・バラツ・ベルティーニ(3GPP TSG-RAN 議長)、NTTドコモ・永田 聡(同副議長)、2018年10月17日
(1)3GPPリリース16:5G機能を拡張
図5は、5Gの拡張機能を中心に示したものである。具体的には、V2X(Vehicle to Everything)、第4次産業革命を推進するインダストリー4.0などを推進する産業向けのIIoT(Industrial IoT)、URLLC(超高信頼性・低遅延通信)の機能拡張、5GにおけるWi-Fiなどに使用されているアンライセンス周波数帯との連携と利活用などが検討されている。
通信衛星向けの5Gや52.6GHz以上の周波数帯を利用する5Gなどは、リリース17で検討される予定となっている。
(2)3GPPリリース16:5G機能の効率性
図6は、リリース16における5Gの効率の向上を中心に示したものである。具体的には、使用する電波干渉の軽減、5GにおけるSON注4
やビッグデータの解析、5G MIMOの拡張、5Gのローケーションやポジショニング機能などのほか、電力消費の改善、デュアルコネクティビティの拡張、デバイス能力の改良、モビリティの拡張などが検討される。
なお図6の最後に示す、mMTC(超多数端末の同時接続)向けに、5Gの上り回線向けとして新しくNOMA(Non - orthogonal Multiple Access、非直交多元接続)をサポートする検討も行われる予定(リリース17)となっている。
表4 V2X関連の用語
出所 資料をもとに編集部で作成
(3)5GAAにおける5GとC-V2X
ここで、前述の図5に示したV2Xについて、紹介しておこう。
2016年9月に設立された5GAA「5G Automotive Association、5G オートモーティブ・アソシエーション」は、自動車に関して、5Gを利用したコネクテッドサービスの開発や通信ソリューションの開発、テストなどのほか、標準化のサポートや商業化の可能性の追求や、グローバルな市場展開も行っている国際団体である。
5GAA のCTOであるマキシム・フラメント(Maxime Flament)氏は、図7(用語は表4参照)に示すC-V2X(Cellular to V2X。LTEやNRを使用するV2X)について、5GAAと3GPPの取り組みを講演した。
図7 C-V2X(Cellular Vehicle to Everything)
出所 「Path towards 5G for the automotive sector」、マキシム・フラメント(5GAA CTO)、2018年10月17日
C-V2Xは、V2Xサービスを提供するために3GPPによって開発された技術(2017年3月:LTE-V2X)であり、2018年6月には、リリース16で5G対応のNR-V2Xが作業項目としてスタートし、2019年12月までに完了する予定となっている(図8)。
図8 5GAAと3GPPのV2Xの取組み
出所 マキシム・フラメント、5GAA CTO、「Path towards 5G for the automotive sector」(2018年10月17日)をもとに一部修正
また5GAAは、リリース16のパートであるNR-V2Xを、自動運転をサポートするための改善技術と位置付けている。このため、5GAAでは、NR-V2XはLTE-V2Xを補完し共存していくものであり、NR-V2Xだけをサポートすることは考えていないと表明している。
▼ 注1
en-gNB:5G NRのNSA向けの無線アクセスネットワークで、NR無線を提供するE-UTRAN(eLTE)基地局。これも5G基地局と呼ぶ。
▼ 注2
キャリアアグリゲーション:複数の周波数帯域を束ねることによって通信速度を高速化する技術。
▼ 注3
デュアルコネクティビティ:4G(LTE)の基地局と5G(NR)の基地局という異なる基地局間におけるデータの結合を可能にする技術。
▼ 注4
SON:Self Organizing Networks、5G通信おいて、端末や基地局からデータを収集・分析し、自律的にネットワークを最適化するシステム(ネットワーク)のこと。