みんな電力が世界初の「P2P電力取引システム」
みんな電力株式会社(表3)は、電力ユーザーが電源を指定して(例:後出の図5参照)、直接電力の取引を可能とする、独自のブロックチェーン(分散型台帳技術)によるP2P注10電力取引システム「ENECTION2.0」の開発を完了した注11。
表3 みんな電力株式会社のプロフィール
出所 http://minden.co.jpをもとに編集部で作成
〔1〕P2P電力取引プラットフォーム
今回、開発されたP2P電力取引プラットフォーム「ENECTION2.0」(図4)は、次のような仕組みとなっている。
①図4左に示す複数の電源オーナー
②図4右に示す複数の電力ユーザー
を、バランシンググループ(BG。実際にP2Pによる電力の取引を行うグループ)注12とし、BGにおける各発電所の30分ごとの発電量(30分値)をリアルタイムにトークン注13化し、あらかじめ定めた優先順位に従って、実際の電力ユーザーに配分した結果を、ブロックチェーン技術を活用して記録する。
図4 ブロックチェーンによる電源の由来証明のイメージ
出所 https://minden.co.jp/personal/wp-content/uploads/2018/11/1c7b78b1e8dce246d128bd0f56938f8f.pdf
これによって、「顔の見える再エネ電力」となり、各発電所の電力がどのユーザーにどれだけ消費されたか(購入されたか)を、個別にトレース(追跡)できるようになっている。
〔2〕電気事業法に基づく売買に関する法的な制約
P2P電力取引プラットフォームを利用した電力の売買は、電気事業法に基づき、電力小売事業者である「みんな電力」のENECTION 2.0を介し、系統の送電線や配電線を使用して発電事業者(電源オーナー)と電力需要家(電力ユーザー)間で行われる。
現在の法律では、個人の電気自動車(蓄電池に貯められた電力)と個人の需要家間の電力の売買はできない状況となっており、今後の法整備が求められている。
(1)電源由来が特定できる
このP2P電力取引システム「ENECTION 2.0」では、前出の図4に示すように、発電した「電気トークン」の電力ユーザーへの配分が記録されるため、ユーザーが、特定の電源でつくられた電力と同量の電力を消費したこと(30分同時同量)が、確認可能となる。 ただし、物理的な電気そのものは系統に流れ込んでしまうため、太陽光による電力か風力による電力かは識別(色分け)できない。あくまでも仮想的に電力の消費量と発電量が一致していることを確かめる仕組みとなっている。
これによって、例えば、RE100企業が、非化石証書注14の利用に合わせて、電源の由来証明(企業がどのような電源の電力を購入したかの証明)を発行することも可能となる。
(2)電力シェアリングが可能に
また、「ENECTION2.0」では、電気の販売価格を相対(当事者同士。P2P)で自由に設定して、電力を売買することが可能となる。これによって、2019年7月から家庭用太陽光のFIT期限切れの再エネ電源所有者が、自ら発電した電気を、例えば「みんでんトークン」(仮称)として価格を決めて販売する「電力のシェアリング」(電力を共有して利用する仕組み)なども可能となる。
さらに、今後は蓄電池の所有者がトークンを売買する、あるいは電気自動車のユーザーがトークンで、低コストに電気を購入するなどの利用も想定されている。
▼ 注10
P2P:Peer to Peer、端末同士が対等に通信する方式。参加者同士で、直接・相対で取引を行うこと。
▼ 注11
Aerial Lab Industries(A.L.I.、エー・エル・アイ。東京都港区)と協同で開発。
▼ 注12
バランシンググループ(BG):複数の発電事業者や需要家を1つのグループにまとめ、グループ内全体で電力の需要と供給のバランスを取ること(30分ごとに一致させること。30分同時同量)が求められる。そのため、小売電気事業者が電力を販売するに当たっては、電気の仕入れ量と販売量を30分ごとに一致させるため、送配電事業者から参加事業者に、管理アカウント(ログインするための認証ID)が付与される。
▼ 注13
トークン:価値を含んだ媒体でデジタル化されたもの。例えば、仮想通貨のようなもの。
▼ 注14
非化石証書:2018年5月に創設された「非化石価値取引市場」において取引される証書。小売電気事業者が自ら供給する電気の非化石電源比率を2030年までに44%とすることがエネルギー供給構造高度化法において求められている。この目標の達成を後押しするために非化石価値を取り出し、小売電気事業者が証書として購入可能とする非化石価値取引市場が2018年5月に創設された。
http://www.meti.go.jp/press/2018/12/20181217001/20181217001.html