[クローズアップ]

卒FIT時代へ! 再エネの主電力化に向けて新ビジネスがスタート

— 世界初のブロックチェーンによるP2P電力取引システムが商用化へ —
2019/01/08
(火)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

発電事業者4者と需要家4者で先行試験が成功

 すでに、次の8者がみんな電力と契約し、2018年9月から「ENECTION2.0」を使用したシステムの先行的な利用試験が行われてきた(図5)。

図5 先行利用試験に参加した4発電事業者と4需要家

図5 先行利用試験に参加した4発電事業者と4需要家

出所 https://minden.co.jp/personal/wp-content/uploads/2018/12/release_20181205.pdf

  1. 発電事業者:エコパワー(青森県)、上越エネルギーサービス(新潟県)、NPO法人 野間土太陽光発電(福島県)、川崎バイオマス発電(神奈川県)
  2. 需要家:新宿マルイ本店(東京都・新宿)、サエグサ本館ビル(東京都・銀座)、ビームスジャパン(東京都・新宿店舗)、アミタ リサイクル工場(茨城県)

 その結果、バランシンググループ(BG)内での発電量と需要量を30分ごとにマッチング(突きわせて照合)し、取引として約定(やくじょう。売買の成立)させることに成功した。約定結果は、パブリックブロックチェーン注15上に記録されるため、「どの電源からどれだけ電気を買ったか」の証明が可能となる。この結果をもとに、みんな電力では、世界で初めて「電力トレーサビリティ」注16システム(その電力がいつ、どこで、どのように作られたのかを追跡するシステム)の商用化をスタートした。

 企業が再エネを100%使用して企業活動を行う「RE100」の進展を受け、欧州を中心に電力トレーサビリティはすでにスタートしているが、これまでは年間単位の取り引きが中心となっていた。

 今回開発されたシステム「ENECTION 2.0」では、30分単位で、より精緻に電力のトレーサビリティを行うことができ、なおかつブロックチェーンを活用して、低コストてで電力トレーサビリティを実現している。

 また、オープンなプラットフォームであるため、誰もが同システムを活用できる環境を整えることによって、日本の電力トレーサビリティを世界で最も低コストで精度の高いものにしていくことが可能となっている。

〔1〕新宿マルイ本館などで先行利用試験に成功

 前述した発電事業者4者と需要家4者が参加したシステムの先行利用試験(図5)ではBG内に接続された再エネ電源8カ所と6カ所の需要を、あらかじめ指定した順位でマッチングさせ、30分単位で、どの電源と需要がどれだけ紐付いた(約定:売買の成立)したかを示すことに成功した。

 例えば、丸井グループの新宿マルイ本館施設では、青森県の卒FIT風力や新潟県にある小水力などを指定した結果、2018年9月度の供給量のうち71%が指定先の再エネ電源から約定したものとなった。

〔2〕今後提供されるサービスの内容

(1)2019年から次々にリリース

 需要家から、クリーンな再エネ電力を購入したいというニーズが高まってきているが、これまでは、電気とは別の形態で、環境価値を取り引きする再エネ証書やクレジットを購入するしか方法がなかった。このため、RE100企業や自治体、個人などのユーザーを対象に、直接再エネ電源にアクセスし、容易に購入できる仕組みが求められていた。

 みんな電力では、ENECTION2.0によって、電力の生産者と需要家が直接取引して電力を購入することが可能となるため、今後、再エネ電力取引のプラットフォームとして、再エネ電源と需要家をつなげることによるサービスを順次リリースしていく(表4、一部は前倒しして、先行的に実施されているものもある)。

表4 ENECTION2.0プラットフォームを利用したサービスの提供予定

表4 ENECTION2.0プラットフォームを利用したサービスの提供予定

PPA:Power Purchase Agreement、電力購入契約。再エネの電力を購入(調達)する手段として、電力小売事業者(みんな電力)が発電事業者(Developer)と電力購入契約(Power Purchase Agreement、PPA)を締結すること。発電事業者は、この買取契約を裏付けにして、資金調達を行い、新たな電源開発が可能となる
SaaS:Software as a Service、利用者が必要なときに必要なソフトウェア機能をインターネット経由でサービスとして提供され、利用できるクラウドの一形態
出所 https://minden.co.jp/personal/wp-content/uploads/2018/12/release_20181205.pdf

(2)ENECTパワープールを開設

 また、同プラットフォームを利用して、再エネ電源をプールし需要家とつなぐ、前出の「ENECTパワープール」が開設された。すでに大手発電事業者などを中心に、2018年度末までに約300MW(30万kW)の再エネ電源が参加する予定となっている。RE100企業を中心とした再エネ供給ニーズが高いことから、引き続き参加する再エネ電源(FIT、卒FITなども含む)を募集していく予定だ。

 ENECTパワープールでは、図6に示すように、RE100系の企業や自治体などが、希望する電源を指定して、電力を購入することもできる。

図6 ENECTパワープール:再エネ電源をプールして需要家が相対で取り引きできる

図6 ENECTパワープール:再エネ電源をプールして需要家が相対で取り引きできる

出所 https://minden.co.jp/personal/wp-content/uploads/2018/12/release_20181205.pdf


▼ 注15
パブリックブロックチェーン:中央管理者がおらず、ネットワークへの参加が自由なため、不特定多数が参加できる。これに対し、プライベートブロックチェーンは、中央管理者がおり、許可されたものだけが参加できる。

▼ 注16
トレーサビリティ:トラッキング(追跡)とも言われる。電源の由来(太陽光由来か、風力由来かなど)を特定し、需要家が特定の電源由来の電気を消費したことを確認できる仕組みを電力トレーサビリティと言う。

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