[特集]

米国と欧州の事例に見る日本のデマンドレスポンスの将来

次世代の日本型エネルギーシステムの構築を目指して ─
2014/11/01
(土)
浅野 浩志

欧州単一電力市場と再生可能エネルギー統合に向けて

 米国に先んじて、風力発電などの再生可能エネルギー電源を大量に連系している欧州においても、デマンドレスポンスをさまざまな目的で導入している。

〔1〕EDF社とRTE社の事例

 限界費用原理に基づく時間帯別料金のパイオニアであるフランス電力公社(EDF)は、ピークロードプライシング(電力需要が最大時の電気料金)など動的料金の適用や、電気自動車の普及でもリードしている。 そのEDFから分離された、フランスのTSO(Transmission System Operator、送電系統運用事業者)であるRTE社は、伝統的なピークロードマネジメントのほか、電気自動車向け充電サービスなど、新しい負荷変化への対応も行っている。太陽光発電や風力発電による間欠性電源注11の出力の不確実性に対応する、短期バランシングの目的でデマンドレスポンスを展開している。

〔2〕欧州のデマンドレスポンスの動向

 欧州では2003年から周波数調整サービスの一部(FRR-M :Manual Fre-quency Restoration Reserve、RR:Replacement Reserve)として、バランシングメカニズムにデマンドレスポンスが参加可能となっている。

 また、2014年からは、追加で自動化周波数回復予備力(FRR-A:Automatic Frequency Restoration Reserve)にも参加できるようにルールを更新している注12

 さらに、新規に導入される容量メカニズムに、2015年からデマンドレスポンスが参加可能となる。米国と同様に、アグリゲータ(Energy Poolなど)が主に産業用など大口需要家の資源を集約して、市場に投入している。

日本における小売全面自由化への対応:行動変容プログラムの導入

 再生可能エネルギーの本格利用に加えて、新しい顧客サービスとしてのデマンドレスポンスも国内でも展開され始めている。

〔1〕高圧一括供給を利用した実証研究

 例えば、我が国では、集合住宅向けに行われている高圧一括供給注13の枠組みを利用したスマート料金メニューなどを手はじめに、一般需要家にも受け入れやすいメニューが実際に適用され始めている。また、高圧一括受電マンションの居住世帯を対象に、情報提供システムや消費者に負担のない料金体系による電力ピーク需要抑制効果の実証研究が実施されている注14

 この実証研究では、30分逓増型料金体系注15や宅内インジケータ(表示装置)などの見える化システムに加え、省エネアドバイスレポート自動生成システム(図3)の省エネ・ピーク需要抑制効果を検証している。

 このレポートは、閲覧者が自ら家庭における電力消費量や、時間ごとの電力需給量などを調べる探索コストを低減する。同時に、近隣世帯・省エネ世帯の電力使用平均を併せて表示し、他世帯との比較を可能にすることによって、省エネ・ピーク需要抑制の効果を増大させる。

 これまでのデータから、建物の電力需要のピーク時間帯における省エネアドバイスレポートの中で「追加的効果がありそうである」ことを確認している。今後、適用する需要家数を増やして、より統計的な有意性を高めていく予定である。

図3 省エネアドバイスレポートにおけるストーリーの一例

図3 省エネアドバイスレポートにおけるストーリーの一例

〔出所 エネルギー・資源学会「高圧一括受電マンションにおける電力ピーク抑制策の実証研究:2013年夏のピーク抑制・意識変容効果の検証」より、http://www.jser.gr.jp/journal/journal_pdf/2014/journal201407_2.pdf

〔2〕ビッグデータを利用したサービスの重要性

 2016年から家庭用需要家も含めた電力の小売全面自由化が始まると、電気事業者の運営は、収益性の高い需要家の離脱を避けることが大きな目的になる。

 これに対して、新規参入する新電力側は、既存サービスと比較して、いかに魅力的なエネルギー利用のサービスを提供するかが鍵となる。

 スマートメーターやHEMS注16の普及に伴い、詳細なデータが以前より低コストで利用可能になってきた。これを利用して、いわゆるビッグデータ的なアプローチも駆使した、消費者心理に踏み込んだ研究(行動科学)が盛んになりつつある。これらの活用によって、エネルギーの利用や選択の面での人間行動をモデル化して予測し、受け入れやすいサービスを開発し、リアルタイムで改良していく能力の獲得が重要になる。


▼ 注11
間欠性電源:太陽光発電や風力発電のように、気象条件そのほかによって、出力が一時なくなったり、あるいは変動する電源のこと。

▼ 注12
FRR-M(Manual Fre-quency Restoration Reserve)は13分前通告、RR(Replacement Re-serve)は30分前通告の予備力。合計で400MW近くがデマンドレスポンスで調達される。
自動化周波数回復予備力(FRR-A:Automatic Frequency Restoration Reserve)は、欧州で定義された15分程度で応答する予備力を指す。従来、二次予備力と呼ばれていたものに相当する。

▼ 注13
高圧一括供給:マンションなどの集合住宅で、各戸が個別に電力会社と契約するのではなく、集合住宅でまとめて高圧の電力を契約し、集合住宅の敷地内で低圧への変圧と各戸への配電を行うシステムのこと。各戸の契約をまとめることにより電気料金を下げるメリットがある。

▼ 注14
[参考文献]向井登志広、他、「高圧一括受電マンションにおける電力ピーク抑制策の実証研究:2013年夏のピーク抑制・意識変容効果の検証」、第30回エネルギーシステム・経済・環境コンファレンス、2014年

▼ 注15
30分逓増型料金体系:30分ごとに、使用した電力量によって電気料金の単価を変化させる仕組み。当該30分内に使用した電気料が多いほど、電気料金の単価を高く設定し、省エネ意識を高める狙いがある。

▼ 注16
HEMS:Home Energy Management System、家庭内のエネルギー管理システム。

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