[特集]

IECにおけるスマートグリッドの国際標準最前線

─ NIST/IEEEとも連携しダイナミックな標準づくりへ ─
2014/11/01
(土)
SmartGridニューズレター編集部

NISTのモデルにIEC標準をマッピング

〔1〕スマートグリッドの対象領域と標準の内容

 次に、このようなNISTが提唱するスマートグリッド「概念参照モデル」と「IEC標準規格」の対応を整理してマッピング(対応付け)し、各標準の位置づけを明確にしたのが、図4である。

図4 IECにおけるスマートグリッド対象領域と標準

図4 IECにおけるスマートグリッド対象領域と標準

〔出所 電気学会SGTEC「スマートグリッド国際標準化動向」、2014年5月〕

 図4は、少し複雑な図面となっているが、IECにおけるスマートグリッド対象領域と標準の図である(バックの概念的参照モデルはNISTリリース2.0を使用)。

 図4に示す各標準は、青字がIEC TC 57関係の標準(「点線のワク」は新規)、緑字がISO/IEC関係の標準、茶色が米国関係(ANSI・IEEE)標準となっており、表4には図4に登場する各標準規格がどのような内容かを簡単に説明している。

表4 スマートグリッドの対象領域と標準(IEC TC 57標準・ISO/IEC・US標準)

表4 スマートグリッドの対象領域と標準(IEC TC 57標準・ISO/IEC・US標準)

 例えば、図4の最上位に、IEC 62357 Reference Architectureと書かれているが、IEC 62357標準が、スマートグリッドに関する全体的な参照アーキテクチャの標準であることを示している。また、右下には、ホーム関係のZigBeeやKNX、ECHONET(ECHONET Lite)などを示すが、これらも標準化の対象として審議されている(一部標準化を完了し拡張機能が審議されているものもある)。

スマートグリッドのIEC TC 57の標準化体系

 図5は、このようなNISTの7つのスマートグリッドの対象領域や「概念的参照モデル」など考慮しながら、電力システムに関する情報・通信システムの標準化を行っているIEC TC 57の標準化の体系を示したものである。

図5 スマートグリッドの基本となるIEC TC 57の標準化体系

図5 スマートグリッドの基本となるIEC TC 57の標準化体系

〔出所 田中立二/山岡和雄「スマートグリッドに係わる情報・通信の国際標準化動向」2011年3月、http://www2.iee.or.jp/ver2/honbu/jec/jec100/doc/jec100-15.pdf

 具体的には、図5に示すように、

  1. 給電・制御システム(図5の電力会社のA、B制御所)
  2. 配電システム(図5の電力会社のA配電システム)
  3. 変電所の自動化システム(図5の変電所)

などが標準化の対象となっている。

 図5には、前出の表3に示した各ワーキンググループが策定したIECの各標準を対応させて示している。図5の上から順にいくつか例を挙げて見ていくと、

  • WG7(現在は解散している):IEC60870-6 TASE.2(電力システムの監視制御)
  • WG13:IEC 61970〔エネルギー管理システムAPI(EMS/API)〕
  • WG14:IEC 61968(配電管理システム)
  • WG10:IEC 61850(変電所自動化システム)

のような標準が対応している。

IECとNIST、IEEEの標準化における連携

〔1〕NISTからOpenADRやSEP 2の提案

 以上、NISTの概念的参照モデルとIEC標準の関係を見ながら、とくに電力システムに関する情報・通信技術(ICT)の標準化を担当しているIEC TC 57を中心にその標準化体系を解説してきた。

 一方、NISTがスマートグリッドの相互接続性標準を開発するために設置したSGIP注5も、スマートグリッド関連の標準開発の優先順位を決めるPAP(Priority Action Plan、優先行動計画注6)によって、OpenADRやSEP 2をはじめ、サイバーセキュリティに至るまで多くの成果が策定されてきた。

 このような動きを背景に、デマンドレスポンス(電力の需給調整)分野ではOpenADR2.0、ビルエネルギー管理(BEMS)関係のFSGIM(Facility Smart Grid Information Model)、エネルギー利用情報を簡単・安全にダウンロードし活用できる仕組みであるグリーンボタン(Green Button)や需要家(消費者)のエネルギー消費量データ形式を標準化したEUI(Energy Usage Information model)など、需要家領域について策定された標準が、市場に適用され始めている。これらの成果は、国際標準化を目指して、IECやISOにも提案され始めている。

〔2〕IEC標準と連携するIEEE標準

 さらに世界最大の電気電子学会であるIEEEでは、例えば中核的な標準のひとつである「スマートグリッドの相互運用に関する標準:IEEE 2030」については、

  1. 電力システムの観点(PS-IAP)
  2. 通信からの観点(CT-IAP)
  3. 情報からの観点(IT-IAP)

の3つの観点からシリーズ化され整理されてきており、IECの標準化を推進していくうえでのベースのひとつになってきている(IAP:Interoperability Architectual Perspective)。

 IECでは、このような動向をとらえ、前述したSG 3で2010年に策定された、スマートグリッドの標準化戦略に基づいて、既存の標準の拡張や新たな標準化、他の標準機関との連携などの取り組みが活発に行われている。


〔出所 DRAFT NIST Fra-mework 3.0 Overview 、November 5, 2013、http://members.sgip.org/apps/group_public/download.php/2142/Plenary%20Session%201-NIST%203.0-2

▼ 注5
SGIP:Smart Grid In-teroperability Panel、スマートグリッド相互接続性委員会。2009年に600社以上が参加して設立された。

▼ 注6
PAP:Priority Action Plan、優先行動計画。NISTやSGIPにおけるスマートグリッド関連の標準規格の策定を行う、テーマ別に立ち上げられたワーキンググループのような組織。PAP0からPAP24まで、25個のPAPが設置され、その成果は2014年9月に発行された最新版のNISTリリース3.0に盛り込まれ、NISTリリース3.0の中核的な内容のひとつとなっている。

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