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【‘Blockchain 2 Energy Asia’レポート】活発化する電力分野におけるブロックチェーン技術の活用

— 中核技術としてのブロックチェーン実用化の現状と課題 —
2019/02/01
(金)
久田 雅之 株式会社会津ラボ 取締役

10年単位で浸透していくブロックチェーン技術

 アジア地域を中心としたブロックチェーン&エネルギーの投資分野、今後の見込みについての説明も注目できる内容であった。

 例えば、参考までにエネルギー分野への投資額を見ると、TEPCOベンチャーズ:650万ドル(約7億4,100万円)注4、EDP:170万ドル(約1億9,380万円)、SUMMER CAPITAL:104万ドル(約1億5,960万円)などであった。

 ラックス・リサーチ(Lux Research)社シニアアナリストのエン・セイ・ユ(Yuan-Sheng-Yu)氏は、「エネルギー分野におけるブロックチェーン関連のスタートアッププロジェクトは、主に電力のP2P取引、卸売り、環境価値取引、EV(電気自動車)充電である」と述べた。

 同氏は、電力のP2P取引や卸売り、再エネなどの環境価値取引はブロックチェーン技術と親和性が高く、また他の技術に比べて、データの透明性および改ざん耐性の視点において優位性が高いが、既存の電力卸売事業者は保守的でもあり、新技術の受け入れには時間がかかる(もしくは難しい)と述べた。さらに、P2P取引に関して、すでに電力卸売を実施している事業者から見れば、世の中には規制がたくさんあることから、P2Pは簡単に始められることではないということ、またブロックチェーン特有のデータの透明性によって電力使用状況が明らかになると、セキュリティやプライバシーの視点で問題が発生し得る、などの意見もあった。

 ユ氏は、図1のように、ブロックチェーン技術は、時系列的には環境価値取引、電力卸売事業、P2P電力取引の順に10年程度かけて浸透していくと述べた。

図1 10年単位で浸透していくブロックチェーン技術

図1 10年単位で浸透していくブロックチェーン技術

出所 Lux Research - State of the Market - The Blockchain-Energy Intersection in Asia

ブロックチェーンを中核技術としたタイのエネルギー取引プラットフォームの開発

〔1〕ブロックチェーンを活用した電力システムを実現するために必要な新たな法施行・規制

 タイのEGAT(Electricity Generating Authority of Thailand、タイ発電公社)に所属するセッタシット・チャドガルーン(Setthasit Chardgaroon)氏からは、同国の現状について報告があった。

 タイでは、発電事業はEGATを始め数社が受け持っており、送電事業に関してはEGAT transmission system(EGAT送電システム)が100%担っている。発電量の割合はEGATが38%、独立系発電事業者(IPP)が37%、小規模発電事業者(VSPP)が15%、輸入(購入)7%となっている。

 図2に、従来型の電力供給システムとブロックチェーンを活用した電力システムの違いを示すが、従来型の電力供給システムがより分散化され、ブロックチェーンを活用した電力システムを実現するためには、新たな法施行・規制が必要と考えられる。

図2 従来型の電力供給システムとブロックチェーンを活用した電力システムの違い

図2 従来型の電力供給システムとブロックチェーンを活用した電力システムの違い

出所 EGAT - Utilities and Regulation in Asia

 電力システムは、図3に示すように、下位から上位に、①エネルギー層、②ICT層、③市場層と大きく3つの階層に分けられているが、エネルギー層とICT層においては適正なルール化・規制が、市場取引(市場層)においては適切な管理が必要となる。

図3 3つの階層に分けられた電力システム

図3 3つの階層に分けられた電力システム

出所 EGAT - Utilities and Regulation in Asia

〔2〕タイの新エネルギー取引プラットフォーム

 タイ国内では、NETP(National Energy Trading Platform、図4)と呼ばれるエネルギー取引プラットフォームの開発が始まっている。

図4 エネルギー取引プラットフォームの構成

図4 エネルギー取引プラットフォームの構成

出所 EGAT - Utilities and Regulation in Asia

 同プラットフォームはEGATとMEA(Metropolitan Electricity Authority、首都圏配電公社)およびPEA(Provincial Electricity Authority、地方配電公社)の三者によって開発され、タイランド4.0(Thailand 4.0)注5と呼ばれる政策の一部となっている。これは、従来のEGATによる一括発送電の仕組みから、MEAおよびPEAが運営する配電システムへと移行する計画である。NETPを構築する理由としては、

  1. 第1に、電源がより小規模に分散化されていること
  2. 第2に、脱炭素化運動
  3. 第3に、IoTなどの技術発展によって、電力がより細かくリアルタイムにデジタル管理できること

などが挙げられる。また、BTS(Bangkok Mass Transit System、高架鉄道)やMRT(Mass Rapid Transit、地下鉄)といった主要な交通、さらにはEVの普及も理由の1つに挙げられる。NETPの取引プラットフォームには、図4のように、ブロックチェーンが中核技術として活用されている。


▼ 注4
2018年11月現在、1ドル約114円で換算。

▼ 注5
タイランド4.0とは、2015年に示されたタイの新経済政策の長期ビジョン。
「次世代自動車」「スマートエレクトロニクス」「医療・健康ツーリズム」「農業・バイオテクノロジー」「食品」「ロボティクス」「航空・ロジスティクス」「バイオ燃料・バイオ化学」「デジタル技術」「医療ハブ」の10の産業に注力し、短・中期、長期に区分して育成するとしている。
https://thaiembdc.org/thailand-4-0-2/

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