2019年のテーマは「インテリジェントコネクティビティの到来」
モバイルの祭典MWCは、過去に何度も名称を変更している。主催は英GSMアソシエーションで、2G時代からモバイルを扱う老舗の業界団体だ注1。MWCは同団体が1990年代から開催しているイベントである(写真1)。
写真1 MWC19Barcelonaの会場入口の様子
MWC19 Barcelonaは、バルセロナのグラン・ビア会場など2カ所で開催された。2019年のテーマは‘Intelligent Connectivity’。柔軟で高速な5Gネットワーク、IoT、AI、ビッグデータの組み合わせによって、高度化かつパーソナライズ化された体験ができ、必要に応じた仕様のネットワークを自在に構築し入手できる、という新しい時代の幕開けを示した。
出所 筆者撮影
2019年からイベントの名称は「MWC + 西暦下2桁 + 地名」となった。今回のイベントは「MWC19 Barcelona」である。ほかに、上海とロサンゼルスでMWC19が予定されている。
MWC19 Barcelonaには、198以上の国と地域から2,400社以上の企業、10万9,000人以上の来場者があった(参加者の55%以上が、7,900人を超えるCEOを含む経営層)。
今回のテーマは、‘Intelligent Connectivity’(インテリジェントコネクティビティ時代の到来)。柔軟で高速な5Gネットワーク、IoT、AI、ビッグデータの組み合わせによって、高度化かつパーソナライズ化された体験ができ、必要応じた仕様の通信網を自在に構築する、新しい時代の幕開けを示した。
並ぶ5Gスマートフォン
写真2 会場内の至るところで見られた5Gスマートフォン(写真はLG電子ブース)
出所 筆者撮影
2019年1月にラスベガス(アメリカ・ネバダ州)で開催されたCES(主催は米CTA)では、動作状態の5Gスマートフォンは1台見られただけだった。それから1カ月半、MWC19 Barcelona会場の至るところに5Gのスマートフォンがあった。いよいよ5Gの準備が整ったことがうかがえる(写真2)。
5Gでは「とてつもなく高い周波数」とされるミリ波(5Gでは23GHz以上の周波数)と従来の6GHz以下(サブ6)が使われる。超高速には、使える帯域幅が広いミリ波が有利だ。ただし、ミリ波は非常に直進性が強く、また遮蔽物による減衰が大きい。このため「使いにくい」とされていた。今回、いくつかのメーカーはミリ波機能を搭載しない5Gスマートフォンを出展した。いずれも中国メーカーだが、中国国内でミリ波が当面使えないことを考えれば現実的な製品と言える。
ミリ波が使える国でビジネスを行う企業は、当然ながらミリ波対応の5Gスマートフォンを出展した。同じ5G機であっても、購入前にはミリ波対応かどうかを確認したほうがよい。
MWCに見る新傾向:トラックや列車の遠隔運転と工場の無線化
5Gというと「超高速」が話題になるが、5G機器業界の注力先は「機械を相手にした通信」に移っている。遠隔運転や工場の無線化だ。
遠隔運転では、遠くのものを人間が運転する。従来は、車両(トラックや列車)が行った先に運転者も運ばれていた。そのため、人のやりくりが行えずに、運行できない車両が生ずることもあった。しかし、人は移動せずに車両だけが移動するのならば、効率は大いに高まる。運転者の交代も容易になり、勤務の引き継ぎに関わるオーバーヘッドも削減される。適正な休憩が保証されるように運用すれば、安全性も向上すると考えられる。
工場の無線化は、産業用ロボットの情報用の配線を、すべて無線化するというものだ。この結果、配線の必要がなくなり、容易に製造ラインを組み替えられる。さらには、自走する産業用ロボットも考えられるようになる。
このような構想が出てくるのは、5Gに高速性だけでなく、低遅延性、高信頼性があるからだ。現行のLTE(4G)が無線区間で50ms(ミリ秒)程度の遅れがあるのに対して、5Gではそれを10ms以下に抑えられる。また、遅れ(遅延量)のブレ(ジッタ)も小さく、安定した伝達ができる(写真3)。これが、遠隔操縦やロボット操作に使えると期待される理由だ。
写真3 エリクソンのデモで見た遅延量のブレの様子
5Gでは、遅延時間が短いうえに、遅延量のブレ(ジッタ)も小さく抑えられている。
出所 筆者撮影
工場の無線化のために、5G関連メーカーは、製造装置関連企業との連携を強めている。また、運転関連では運輸、鉄道企業との連携がなされている。
▼ 注1
GSMとは第2世代方式(2G)を指す。