[特集]

発送電の法的分離直前!電力市場は何が変わったのか

― 電力レジリエンス小委員会が発足し新・電力網への課題も ―
2019/05/01
(水)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

新しい電力網の構築に向けた審議がスタート

 電力システム改革の進展に伴い、電力システムには多面的な課題解決が求められている。「電力・ガス基本政策小委員会」では「新たな電力網の構築に向けた制度・運用」についての審議も開始された。

〔1〕新しい電力網の構築に向けた見直し

 電力・ガス基本政策小委員会委員会は、これまで、電力システム改革のうち、送配電網(NW:ネットワーク)の環境の変化を受けて、

  1. 再エネの大量導入への対応、系統電力の需要の減少、送配電網の高経年化(老朽化)などの課題
  2. IoTやAI、クラウドなどによるデジタル化をはじめとした新技術の進展による、電力システムの新しい可能性(VPP、V2Hなど)の拡大への課題

に対応するため、新しい電力網の構築に向けた見直しが検討されてきた。

 以降では、上記のうち、電力・ガス基本政策小委員会内で、前述した「次世代技術を活用した新たな電力プラットフォームの在り方研究会」(以下、プラットフォーム研究会)の内容をベースに検討されてきた新たな電力網の構築に向けた制度・運用に焦点を当てて紹介する。

〔2〕プラットフォーム研究会が目指すもの

 現在、日本における電力網が直面している課題は、①系統需要の伸び悩みによる収入の低迷、②系統設備の高経年化対策(老朽化対策)の本格化に加え、③大規模災害対応を含むレジリエンスの強化、④再エネの「主力電源化」(大量導入)への対応などの課題があり、多様化・複雑化している(図5)。

 このため、現在、既存の系統システムを最大限に活用(日本版コネクト&マネージの具体化など)しながら、2011年3月11日に発生した福島第一原子力発電所事故の教訓から、安全性(Safety)を前提としたうえで、電力の安定供給(Energy Security)を第一とし、環境適合(Environment)、経済効率性(Economic efficiency)の向上、すなわち「3E+S」をさらに高度化させ、新たな電力網へと転換させることが必要な状況にある。

 今後、新しいビジネスを展開していくうえで、「3E」については具体的に、

①安定供給(E):系統のIoT化やデータ活用による電力の需給管理の高度化、レジリエンスの強化
②環境適合(E):EVや蓄電池などの新たな分散電源を活用した脱炭素化
③経済効率(E):アグリゲーション(VPP)やP2P電力取引システム(例:ブロックチェーンによるシステム)などの新ビジネスによる多様・低廉な電力供給

という課題を実現していくことが期待されており、これらを実現し支える新たな基盤(プラットフォーム)が求められている。この課題に取り組んでいるのが、「プラットフォーム研究会」である。

〔3〕2020年の発送電分離後のエネルギー産業の変革ドライバー:5つのD

 プラットフォーム研究会では、2030年の実現を目指す「第5次エネルギー基本計画」をベースに、2050年におけるUtility 3.0の実現に向け、前出の表2に示すエネルギー産業の変革のドライバーとして「5つのD」に注目し、大局的なビジョンが論議されている。

〔4〕UtilityとMobilityが融合するUtility3.0の世界

(1)再エネが必要以上に発電した場合

 図6に、Utility3.0の世界でUtility(電気⇒分散化電源)とMobility(EV⇒運輸の電化)が融合する新しいビジョンの概念を示す。

図6 Utility3.0の世界:UtilityとMobilityの融合(2050年の負荷持続曲線)

図6 Utility3.0の世界:UtilityとMobilityの融合(2050年の負荷持続曲線)

出所 第2回 次世代技術を活用した新たな電力プラットフォームの在り方研究会:資料2
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/denryoku_platform/pdf/002_02_00.pdf
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/denryoku_platform/pdf/005_02_00.pdf

 図6には、いくつか前提(ここでは省略)があるが、2050年になると、図6右に示すような負荷持続曲線注19となる。これは、太陽光や風力発電の設備が「必要とされる以上に発電してしまう時間帯」が多くなる例である。

 電力と需要の関係は同時同量を基本としてバランスを取っているため、必要とされる以上に再エネが発電した場合、その電力について、①再エネの発電を抑制する、②どこか需要のあるところに流す、③蓄電池あるいはEVに貯める、などの対策が求められる。

 このため、つくり過ぎた電気を蓄電し、必要なときに使えるようにすることが重要となってくる。そこで、EVの蓄電能力(蓄電池)を活用することへの期待が高まっている。

(2)2050年の負荷持続曲線(Duration Curve)

 図6に示す2050年の負荷持続曲線(Duration Curve)とは、年間(8,760時間=365日×24時間)における負荷(消費電力)が多い順(時系列)に、年間8,760点のデータを並び替えたものである。例えば、日本で消費電力(kW。負荷)が最も多いのは真夏であり、図6の一番左(横軸=0)の最も消費電力が多いところに位置する。以下順次、降順に並べていった曲線となっている。

 具体的に見ると、図6の青色は、従来の火力発電などによる供給力であり、緑色は太陽光や風力など再エネによる供給力である。右下の黄色部分は再エネによって必要以上に電気をつくってしまった時間である。この余剰の電気を蓄電(家庭の蓄電池やEVの蓄電池などに)しておき、夏のピーク時(図6左上の黄色部分)に使うようにすれば、従来の電力設備をピークに合わせて増設しなくても済むようになり、経済的な電力設備の運用が可能となる。

 今後、新たな電力網の構築に向けて、スマートメーターを活用した具体的な需要家へのサービスや卒FIT後の電力取引システム、電気計量制度のあり方などの、速やかな課題解決が求められている。


▼ 注19
負荷持続曲線(Duration Curve):日・週・月・年等を対象とする期間の負荷(消費電力)について、その発生した時間とは無関係に大きい順にならび替えた曲線のこと。図7は年を対象とした負荷持続曲線の例である。電力需要(消費)の大きさとその持続時間との関係を示すために使用される。

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