ソニーグループの世界的な取り組み
図2 再生可能エネルギーの地域別導入量[2017年度、単位:t(トン)]
出所 https://www.sony.co.jp/SonyInfo/csr_report/environment/site/re_energy.html
─編集部 再エネの導入に関して、ソニーではワールドワイドで実行されているそうですが、現況を教えていただけますか。
佐藤 欧州では2002年度から再エネを導入し、2008年度以降は100%、つまり使用電力のすべてを再エネとしています注4。英国の
ソニーUKテクノロジーセンターは、そのうちの1つで、約147MWhの電力を自社の太陽光発電設備で賄い、残りは再エネ証書を利用しています。
米国では2008年から再エネ証書注5の契約を行い、2017年度には米国およびカナダの事業所において、合計30,705MWh以上の再エネ証書を利用しました。また、ソニー・ピクチャーズエンタテイメント(SPE)本社では、約256MWhの電力を自社の太陽光発電設備で賄いました。
ソニー全体としては、2017年度に使用した電力のうち、約5%を再エネによる電力で賄いました。CO2排出削減量に換算すると、全世界で約7.8万トン、地域別には日本・東アジアで約5万トン、北米で約1.5万トン、欧州で約1.3万トンとなっています(図2)。
再エネ100%への道筋
〔1〕なぜRE100に加盟したのか
─編集部 ソニーがRE100に加盟した理由と、その目標を教えてください。
佐藤 再エネ由来電力の利用率100%を目指すというRE100の理念は、ソニーがこれまで取り組んできたRoad to Zeroとベクトルが同じです。また、グローバルなイニシアチブですので、各国の企業とこのような取り組みを推進することで、気候変動を抑える動きに勢いを生み出したいと考えました。
目標は、すべてのソニーの事業所の使用電力に占める再エネの割合を2030年度に30%、2040年度までに100%という目標を設定しています(図3)。Road to Zeroで2050年までに環境負荷ゼロを目指すには、2040年までに再エネ化100%を達成しておきたいという狙いがあります。
図3 RE100達成への道筋
出所 「ソニーの環境計画Road to Zero -2050年までに環境負荷ゼロを目指して-(2019/2/1)」P16「RE100達成への道筋」
日本では、2032年からFITの終了を迎えると注6、再エネ発電事業所は自社で発電した再エネの販売先を探すことになります。そうなると市場原理が働き、今より再エネがよりリーズナブルなコストで潤沢に調達できるのではないかと期待しています。またその頃には、再エネの発電量や効率もさらに高まっているという予測もあります。とはいえ、2030年からの10年間で、30%から100%まで再エネの割合を急激に増やすことができるか、確かに高いハードルといえます。目標達成に向けて、全力で取り組みたいと考えています。
〔2〕再エネ100%達成に向けた新たな太陽光発電設備の導入
─編集部 2040年に再エネ100%という目標達成に向けて、どのような施策をお考えですか。
佐藤 各地の自社施設に太陽光発電設備の導入を進めています。2019年1月に熊本のテクノロジーセンターで、年間発電量約1,240MWhのメガソーラーを新たに稼働させました(写真1)。また、タイのテクノロジーセンターでも同様の設備を導入します。
写真1 2019年1月に新たに稼働した熊本テクノロジーセンターのメガソーラー(年間発電量約1,240MWh)
1号棟の屋上に太陽光パネル5,760枚を敷設している。
出所 https://www.sony.co.jp/SonyInfo/csr/eco/initiatives/
さらに、電力会社から再エネの直接購入も進めています。100%水力由来の電力を東京電力グループと契約(アクアプレミアム注7)し、2017年から本社ビルの電力として導入しています。この電力は再エネとしてRE100が求める基準を満たしたもので、今後RE100達成の有力な手段となっていくと考えています。
また、グリーンエネルギー証書(REC)注8の活用も進めています。2017年度は17,640MWhのグリーン電力証書を利用しました。これは約9,808トンの温室効果ガス削減に相当します。そのほか、再エネ由来のクレジット注9も活用しています。これにより、計約38,552トン分のCO2に相当する再エネを導入しています(2017年度)。さらに、2018年から制度が始まった、再エネ指定の非化石証書注10の利用も検討しています。
〔3〕電力の自己託送など新たな取り組み
─編集部 いまお聞きした施策のほかに、今後、展開を考えていらっしゃる施策はありますか。
佐藤 電力の自己託送(図4)注11を始めたいと考えています。先ほどご説明しましたように、ソニーには太陽光発電設備をもつ事業所があります。ある事業所で発電して余った電力を、別の事業所に送電して利用することで、グループ全体で再エネの利用率を高めることが目的です。そのためには電力会社と系統利用のための新たなルールの制定が必要で、現在、どのような制度にするか話し合いを進めているところです。できれば、2019年度内のテスト運用を開始したいと考えています。
図4 自己託送の概念図
出所 「ソニーの環境計画Road to Zero -2050年までに環境負荷ゼロを目指して-(2019/2/1)」P19「自己託送活用による再エネ導入の試み①」
また、ブロックチェーンなどIT技術を活用した電力取引の基盤の開発も進んでいます。そうした外部の開発会社とも関係を深
め注12、再エネ調達の選択肢を増やしていきたいと考えています。
▼ 注4
ISO 14001認証取得の事業所において
▼ 注5
この証書における再エネとは、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスなど永続的に利用できるエネルギーを指す。
▼ 注6
FIT(Feed-in Tariff)は再エネの固定価格買取制度のこと。再エネで発電した電気を、電力会社が一定価格で一定期間買い取る制度。電力会社が買い取る費用の一部を電気利用者から集め、コストの高い再生エネの導入が支援されている。2009年から10年固定買取価格でスタートした住宅用FITは、2019年11月以降、買取期間が順次満了となる。また、2012年から20年固定買取価格でスタートした事業所用FITは、2032年7月以降、買取期間が順次満了となる。
▼ 注7
アクアプレミアム:CO2を排出しない水力発電所の電気を届ける国内初の料金プラン。CO2や対流圏オゾンなどの国内温室効果ガス(GHG:Green House Gas)排出量検証を行う一般財団法人日本品質保証機構により、発電源の属性(水力)、運用状況についてRE100 Technical Criteriaの推奨事項等の確認がされている。
▼ 注8
REC:Renewable Energy Certificates。2001年、ソニーが電力会社と共同開発したシステムで、日本各地の発電所の電気や熱などの再エネの環境価値を証書化し、グリーン電力証書、グリーン熱証書として取り引きすることで、遠く離れた場所でもその再エネを使用したとみなされる。
▼ 注9
再エネ由来のクレジット:再エネを自家消費するプロジェクトから創出されたクレジット。RE100達成のための再エネ調達量として報告可能。
▼ 注10
再エネ指定の非化石証書:非化石電源により発電された電気について、非化石価値を分離し証書にしたもの。非化石電源には再エネと原子力があり、非化石証書には「再エネ指定(FIT含む)」と原子力を含んだ「指定無し」の2種類がある。このうち、再エネの属性情報の付いた非化石証書はRE100で認められている。
▼ 注11
自己託送:自己託送制度。企業が自家発電した電力を、電力会社の送配電ネットワークを利用して、離れた場所にある事業所へ供給できる。2014年4月1日から利用可能になった。この制度の適用を受けられるのは、電力供給を受ける相手が同じ企業グループに属するなどの場合に限られる。
▼ 注12
ソニーは2019年2月、電力取引基盤を開発しているデジタルグリッド(東京都千代田区)に出資している。