[RE100加盟企業に聞く!]

アサヒグループのカーボンゼロへの挑戦!

─ 原料生産から販売までのバリューチェーン全体で展開へ ─
2021/11/05
(金)
篠田 哲/インプレスSmartGridニューズレター編集部

「スーパードライ」「ニッカウヰスキー」などの酒類、「カルピス」「三ツ矢サイダー」など馴染み深い飲料、さらに「和光堂」「ミンティア」といった食品事業を幅広く展開し、欧州・オセアニア・東南アジアなどグローバルにビジネスを拡大しているアサヒグループホールディングス株式会社(以下、アサヒグループ。表1)。その製品は、いずれも水や農作物原料などの「自然の恵み」をかたちにしたものであることをビジネスの基本に、環境の保全やサステナビリティに向けた数々の挑戦を行っている。その一環として、2020年にはRE100イニシアティブ(以下、RE100)に加盟している。
ここでは、「アサヒグループ環境ビジョン2050」「アサヒカーボンゼロ(Asahi Carbon Zero)」を掲げ、バリューチェーン全体までも包含したアサヒグループカーボンゼロへの挑戦を、同社 Sustainability Managerの原田 優作(はらだ ゆうさく)氏にお聞きした。

「自然の恵み」をビジネス資源とするからこその環境戦略

表1 アサヒグループのプロフィール(敬称略)

表1 アサヒグループのプロフィール(敬称略)

出所 右記のURLを参考に編集部で作成、https://www.asahigroup-holdings.com/company/

〔1〕2020年10月にRE100に加盟

―編集部 アサヒグループは2020年10月、国内飲料業界では初めてRE100に参画されました。カーボンニュートラル時代を迎え、急速に進む地球温暖化の環境をどのように考え、活動しているのでしょうか。

原田 アサヒグループでは理念として「Asahi Group Philosophy(AGP)」(2019年1月から実施)注1を掲げ、①「期待を超えるおいしさ、楽しい生活文化の創造」のミッション(Our Mission)のもとに、②グループが目指すビジョン(Our Vision)、③そのビジョンを実現するための価値観(Our Value)、④ステークホルダーへの行動指針・約束(Our Principles)を掲げています。

 それらを達成するため、前述したAGPをベースに中期経営方針を策定していますが、その中で事業や経営内容のほかにESG注2へも深くコミットし、数々の施策を重ねてきました(表2)。

表2 アサヒグループの環境関連(ESG)の主な取り組み(2021年10月現在)

表2 アサヒグループの環境関連(ESG)の主な取り組み(2021年10月現在)

出所 右記のURLを参考に編集部で作成、https://www.asahigroup-holdings.com/pressroom/

 中でも環境への取り組みは、「自然の恵み」を享受して商品・サービスを生み出しているアサヒグループ企業にとって、重要な課題の1つです。私たちはさまざまな環境課題に対し、積極的な取り組みを推進していくことで、「自然の恵み」を守り、次世代に引き継いでいきたいと考えています。

〔2〕「アサヒグループ環境ビジョン2050」「アサヒカーボンゼロ」とは?

―編集部 「自然の恵み」を守るための戦略はどのようなものでしょうか。

原田 取り組みのコンセプトとなるのが図1に示す「アサヒグループ環境ビジョン2050」で、そのキーワードとして「ニュートラル&プラス」があります。

図1 アサヒグループ環境ビジョン2050

図1 アサヒグループ環境ビジョン2050

出所 アサヒグループ提供資料

 「ニュートラル」(図1左側)は、環境負荷ゼロにしていく取り組みです。これには2つの項目があり、1つ目は気候変動への対応です。アサヒグループでは、CO2排出量ゼロの目標として「アサヒカーボンゼロ(Asahi Carbon Zero)」(図2)を策定し、その目標達成に向けて取り組みを行っています。

図2 アサヒカーボンゼロ(Asahi Carbon Zero)

図2 アサヒカーボンゼロ(Asahi Carbon Zero)

出所 アサヒグループ提供資料

 2つ目は持続可能な資源の利用です。「農産物・生産地」において、環境リスク・人権リスクのない農産物原料調達をはじめ、3R(リデュース・リユース・リサイクル)による持続可能な容器包装の追求、また主要な事業会社の全工場における持続可能な水資源利用100%という目標を掲げ、持続可能な水資源利用の実現を目指しています。

 一方、「プラス」(前出図1右側)は、さまざまなシーンで環境価値を加えていくことを目指します。当社の強みである微生物や発酵技術を活用した新たな価値創出や、バイオメタンガス燃料電池システム(後述)などのプロセスイノベーション(画期的な技術・仕組みの創出)など、新たな環境価値を創出する取り組みとして位置づけています。

 

―編集部 RE100以外にもSBT注3やTCFD注4にも参画されていますね。

原田 はい。アサヒカーボンゼロの活動を推進し、その信頼性を高めるために、環境関連の国際的なイニシアティブに各種参加しています(図3)。

図3 アサヒカーボンゼロとSBT、RE100

図3 アサヒカーボンゼロとSBT、RE100

出所 アサヒグループ提供資料

 RE100は、アサヒグループが2050年までにCO2排出ゼロを目指す目標を達成するにあたり、事業で使用する電力を100%再生可能エネルギー(以下、再エネ)にすべきであるという判断から、2020年10月にRE100に参加しました。これは日本の飲料業界では初めてのことでした。

 また、アサヒカーボンゼロの、2050年までにCO2排出量ゼロを目指し、2030年までにScope1・2(後述)のCO2排出量を2019年比50%削減する目標は、SBTi(SBT initiative)からパリ協定注5の目標である「1.5℃目標」認定を取得しています。

 さらにアサヒグループでは、気候変動によるリスクなどに関連する事業インパクトの評価および対応策の立案が、持続可能な社会の実現および事業の持続可能性に不可欠であると認識し、TCFD提言への賛同を表明しています。2019年にビール事業、2020年には飲料事業およびビールを除く酒類事業に対象を拡大してシナリオ分析を行い、気候変動が当社ビジネスに与える影響を財務的に評価しています(後述)。


▼ 注1
アサヒグループホールディングスは、従来の経営理念を刷新し、新グループ理念“Asahi Group Philosophy”(以下、AGP)を制定(2018年12月5日)し、2019年1月より施行した。

▼ 注2
ESG:Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の総称。企業が長期的成長を目指すうえで重視すべき観点。

▼ 注3
SBT:Science Based Targets、企業のCO2排出量削減目標が科学的な根拠(例えばIPCC報告書など)と整合したものであることを認定する、国際的なイニシアティブ。2014年設立。

▼ 注4
TCFD:Task Force on Climate-related Financial Disclosures、気候関連財務情報開示タスクフォース。気候変動を考慮した経営/財務計画の開示方法を検討する国際組織。金融システムの安定化を図る「金融安定理事会」(FSB:Financial Stability Board)がG20(金融・世界経済に関する首脳会合)の要請を受けて2015年に設立。

▼ 注5
パリ協定:気候変動による世界の平均気温上昇を産業革命前と比べて1.5℃未満に抑えるという目標。世界の平均気温上昇を産業革命前と比較して、2℃より充分低く抑え、1.5℃に抑えることを努力目標とし、今世紀後半に世界全体の温室効果ガス排出量を実質的にゼロ(脱炭素化)にする。

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