電力インフラに影響するメガトレンドとゲームチェンジ
〔1〕世界の潮流は脱炭素化、再エネシフト
現在の電力・エネルギー市場は、パリ協定の順守を目指した世界的な脱炭素化への動きが進んでいる。再エネの利用を推進する国際イニシアチブ「RE100」への加盟は世界で194社、日本企業も23社となっている注4。
さらに世界全体のESG(Environment:環境、Social:社会、Governance:ガバナンス)投資額は2016〜2018年で34%増加し、2018年の投資額は約31兆ドル(約3,400兆円)となるなど、脱炭素化と持続可能な社会への動きは、急ピッチで進んでいる。
〔2〕ゲームチェンジへの企業対応
藤田氏は、電力システム改革と企業環境の変化について、欧州のエネルギー企業のE.ON(エーオン)とRWEの例を挙げ、電力自由化後の10年間は勝ち組であった両者が、20年後の今日、原子力や火力発電の採算性が悪化したため事業再編が行われている(2019年中に完了予定)ことなどを述べた。
一方、デンマークのオイル&ガス企業のØrsted A/S(オルステッド)は、風力発電による業態転換に成功し、現在では、再エネ企業として世界の洋上風力で約25%のシェアをもつようになった事例も挙げた。
シーメンスのデジタル化:シーメンス工場の事例
シーメンスは、3D CAD(図7)による開発期間の短縮、3Dプリンティングなどによる施策期間の短縮、シミュレーション型建設ソフトで短縮する建設、現場作業のシミュレーションモデル、遠隔監視「Remote Diagnostics Solution(RDS)」などさまざまなデジタル化への取り組みを行っている。
図7 シーメンスのCADモデリングの例
出所 編集部撮影(シーメンス株式会社、2019年9月24日記者会見より)
自社のアンベルク(Amberg)工場におけるデジタル化の事例(図8)では、1990年の製造開始以来、現在も当時とほぼ同じ従業員数であるが、製造開始時に比べて、生産性が13倍も伸び、120種類以上の製品バリエーションを1日で組み替えることが可能である。また製品にはほとんど欠陥がなく、99.9999%という高い品質が維持されている。
図8 シーメンスのAmberg(アンベルク)工場のデジタル化
出所 編集部撮影(シーメンス株式会社、2019年9月24日記者会見より)
アンベルク工場がそれを実現できているのは、工場がフルデジタル化され、工場内のデータをすべてリアルタイムにモニタリングし、制御しているからだと藤田氏は説明する。
他にも、すべて1箇所で遠隔制御するフリートセンターのソリューションなどの事例も挙げた(図9)。
図9 発電所の最適管理の事例
出所 編集部撮影(シーメンス株式会社、2019年9月24日記者会見より)
藤田氏は、「事業環境の変化予測×新技術が、業界イノベーションを乗り切る事業戦略方程式となる」と、最後に締めくくった。
2020年のガス&パワー事業の分社化もその1つの解(施策)と見ることができよう。
▼ 注4
2019年9月12日現在。