[COP25に見る脱炭素社会への警告]

COP25に見る脱炭素社会への警告 ≪前編≫

― 深刻な地球温暖化:気候変動から気候危機へ ―
2020/02/06
(木)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

 グテーレス氏は、COP25開催前の2019年9月に、気候行動サミットを招集し、すべてのリーダーに対して、今後10年間で温室効果ガス排出量を45%削減し、2050年までにCO2排出量正味ゼロを達成するために、2020年までに自国が決定する貢献(NDC)を強化するための具体的かつ現実的な計画をもって、9月23日にニューヨークで開かれる国連気候行動サミットに参集するよう呼びかけている注2

 また、「世界は“重大な気候の緊急事態”に直面している」と題したスピーチを行い、現状は「①気候変動から気候危機・崩壊へ、②温暖化から過熱化へ、③生物多様性の損失から第6次大量絶滅期へ」と変化していると、厳しい警告も発している(図2)。

 グテーレス氏はCOP25の開会式挨拶においても、改めて政府や地域、都市、企業、市民社会に対して呼びかけている。

「今世紀末までの地球の気温上昇を必要な1.5℃に抑えるためには、2030年までに排出量を対2010年比で45%削減するとともに、2050年までに気候中立性(クライメイト・ニュートラリティー)を達成せねばなりません。UNEP(国連環境計画)による最新の『排出ギャップ報告書2019(Emissions Gap Report 2019)』によると、温室効果ガス排出量は直近の10年間にわたって、年1.5%増大しています。このペースが続けば、今世紀末までに3.4℃から3.9℃の地球温暖化が起きることになるでしょう。

そうなれば、私たちを含む地球上のあらゆる生物に、壊滅的な影響が及ぶことでしょう。

これを避けるためには、政府や地域、都市、企業、市民社会が一丸となって、共通の目標達成を目指し、急速かつ野心的でしかも転換につながる行動を起こすしか解決策はありません。」

〔出所 COP25開会式におけるアントニオ・グテーレス国連事務総長の挨拶(マドリード、2019年12月2日)より

〔2〕スウェーデンのグレタ・トゥーンベリさん

 COP25では、16歳(当時。現在17歳)の高校生でスウェーデンの環境活動家である、グレタ・トゥーンベリさん(写真2左)も、次のようなスピーチを行い、注目を集めた。

「この1年、地球の炭素予算が急速に減っていることを、何度も何度も訴えてきましたが、いまだに無視されているので、言い続けるしかありません。

昨年(2018年10月)、IPCCから発表された1.5℃特別報告書の108ページに、67%の確率で、世界の気温上昇を1.5℃未満に抑えたければ、2018年1月1日時点で、今後排出できるCO2の上限は、420ギガトン(420GtCO2)しかありません(図3、図4参照)注3。その後、毎年42ギガトンを排出しているから、現時点(2019年12月時点)ではさらに減って、340ギガトンを切っています。この数字は、現時点で最も科学的な信頼できるIPCCのデータなのです。

図3 IPCC「1.5℃特別報告書」の分析

図3 IPCC「1.5℃特別報告書」の分析

≪最大2030年代には1.5℃を超えると想定。1.5℃に抑制するには、2030年までに、CO2排出量を45%削減、2050年頃には正味ゼロが必要≫
■工業化以降、人間活動は約1.0℃の地球温暖化をもたらしている
■現在の進行度では、地球温暖化は2030~2050年に1.5℃に達する
■地球温暖化を1.5℃に抑制するには:
 ・CO2排出量を2030年までに45%削減
 ・2050年頃には正味ゼロにする
 ・メタンなどの排出量も大幅に削減
■地球温暖化を2℃、または1.5℃に抑制することには、明らかな便益(※)がある
※便益:例えば、地球温暖化を1.5℃に抑制する過程でもたらされる大気質の改善は、人々の健康面に直接的および即時的な便益を与えることが示されている

※1 総カーボンバジェット:工業化以前の期間から人為起源のCO2排出量が正味ゼロに達する時点までに推定される、世界全体の正味のCO2累積排出量
※2 残余カーボンバジェット:所与の起点から人為起源のCO2排出量が正味ゼロに達する時点までに推定される、世界全体の正味のCO2累積排出量
参考URL⇒http://www.env.go.jp/earth/ipcc/6th/ar6_sr1.5_overview_presentation.pdf
出所 太陽光発電協会(JPEA)「第36 回太陽光シンポジウム」、2019 年11 月6日〜 7日

図4 IPCC「1.5℃特別報告書」の分析と残余炭素予算(残る炭素予算は、8年でなくなってしまう)

図4 IPCC「1.5℃特別報告書」の分析と残余炭素予算(残る炭素予算は、8年でなくなってしまう)

※1 1876年1月1日:人類によるCO2排出量の計量が歴史的に可能な累積排出量の起点。
※2 残余炭素予算の推定値: 420ギガトン(GtCO2)。現在までのCO2累積排排出量2200ギガトン。
現在の1年あたり42±3ギガトン(GtCO2)の排出
(参考:下記URLの11ページあるいは本誌2019年12月号の13ページ図1を参照)
出所 http://www.env.go.jp/earth/ipcc/6th/ar6_sr1.5_overview_presentation.pdf

このままのペースでは、残る炭素予算(残余カーボンバジェット)は、8年でなくなってしまいます。なぜ、気温の上昇を1.5℃未満に抑えることが重要なのか? たとえ1℃の変動でも、気候が変化し、人命が失われるからです。また、氷河や極地の氷が消え、永久凍土が解けています。

世界のCO2排出量の71%は、企業100社によるものです。G20の加盟国が総排出量の約80%を占めています。最も豊かな世界の10%の国から全排出量の半分を生んでいます。最も貧しい50%の国からの排出量は10分の1にすぎません。このような状況を分析し、全体的な危機の解決を見つけることがCOPの目的です。(中略)希望はあります。民主主義があるからです。希望の源は、政府や企業ではなく、目覚めた人々にあります。歴史上の偉大な変化の発端は、常に人々でした。世論が世界を動かすのです。今、すぐ変化を起こせます。私たち人々の力で。」

〔出所 グレタ・トゥーンベリさんによるCOP25でのスピーチ(日本語字幕版、スペイン・マドリード、2019年12月12日)より、https://www.youtube.com/watch?v=m_lu6zFz5-Y&list=PLNe0pDYSfDitzltO8s8ed8FqikCJNOkZH&index=2&t=0s
https://www.unic.or.jp/texts_audiovisual/audio_visual/videos/environment/

 炭素予算とは、カーボンバジェット(Carbon Budget)ともいわれ、人間活動を起源とする気候変動による地球の気温上昇を一定のレベルに抑える場合に想定される、温室効果ガスの累積排出量(過去の排出量と将来の排出量の合計)の上限値をいう注4

 グレタさんの、IPCC特別報告書という最新の科学的分析に裏付けられた論理的なスピーチは、このままでは、やがて来る自分たちの時代とそれ以降の世代は、希望が持てない社会(地球環境)になってしまう、という危機感あふれる警告でもあり、訴えでもあった。


▼ 注2
https://www.unic.or.jp/news_press/features_backgrounders/34275/

▼ 注3
IPCC「1.5℃特別報告書」(環境省:2019年7月版)47ページ参照

▼ 注4
・総カーボンバジェット:工業化以前の期間から人為起源のCO2排出量が正味ゼロに達する時点までに推定される、世界全体の正味のCO2累積排出量。
・残余カーボンバジェット:所与の起点(例:図3の2018年)から人為起源のCO2排出量が正味ゼロに達する時点までに推定される、世界全体の正味のCO2累積排出量。

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