東北電力の成果:V2Gで3つのビジネスモデルを展開
〔1〕3つのビジネスモデルとサービス開発
現在、東北電力は、地球温暖化対策の新しい枠組みである「パリ協定」の実現に向けた動きを背景に、洋上・陸上風力発電を軸に、再エネの主力電源化を目指して、新たに東北・新潟エリアを中心に200万kW(大型火力2基分相当。2024年度以降の順次運転開始を予定)の開発を推進している。
VPP構築実証事業において東北電力は、平成31(2019)年度 V2Gアグリゲーター事業(B-2事業)『東北電力V2G実証プロジェクト』として参加した。日産自動車、三井物産、三菱地所、リコージャパンの協力を得て同プロジェクトを推進し、2020年3月、その成果報告書を公開した(表5、図8)。
表5 東北電力V2G実証プロジェクト:3つのビジネスモデル
出所 https://sii.or.jp/vpp31/uploads/B_2_4_tohoku-epco.pdf
https://jp.ricoh.com/release/2019/1023_1
図8 東北電力V2G実証プロジェクトのシステム全体の構成
写真1 仙台ロイヤルパークホテルのEV(NISSAN e-シェアモビを活用)
注:仙台ロイヤルパークホテルの地下駐車場に設置したEVは、NISSAN e-シェアモビを活用した。
NISSAN e-シェアモビ:日産自動車と日産カーレンタルソリューションが提供するカーシェア事業
出所 https://sii.or.jp/vpp31/uploads/B_2_4_tohoku-epco.pdf
図8は、EVの蓄電池を活用し、蓄電池を電力系統に接続して充放電する技術(V2G:Vehicle to Grid)の構築に向けて、2019年10月23日〜2020年3月31日に行われた、実証プロジェクトのシステム構成である。
このVPP実証プロジェクトでは、技術の実証に加えて、多様なビジネスモデルを検討するため、それぞれ事業形態の異なる「①カーシェアモデル(写真1)」「②観光施設モデル」「③事業所モデル」の3つに分類し、実証が行われた。
〔2〕実証メニュー(1):再エネの出力抑制回避の対策
V2Gを活用した実証メニューとして、
①電力の需要のピークシフト(kWh価値)、
②再エネを最大限活用するための出力抑制回避の対策(kWh価値)、
③調整力の提供(ΔkW価値)への可能性
の実証が行われた。
実証では、動的周波数対応の更なる短周期化(動的調整力)、三次調整力①②注6相当を実施した結果、追従性や応動性が良好であることが確認された。
一方、A社製のEVPS(EV用の充電スタンド)については、「放電出力を0(ゼロ)kWにせよとの指令時」に放電出力してしまうなどが発生し、計画値と実績に乖離が起きることが確認され、改善点が発見された。
〔3〕実証メニュー(2):積極的にEVを誘致すべきエリア
(1)約7,000のフィーダー(配電線)を見直し
再エネの導入拡大に伴う出力抑制の問題解決は、再エネの主力電源化の実現に向けて、大きな課題の1つである。そこで、図9に示すように、V2G導入の実現性を把握し、風力発電など再エネの導入拡大の可能性を実証する視点から、配電系統(フィーダー。配電線のこと)の見直しが行われた。
図9 積極的にEVを誘致すべきエリア
図10に示すように、東北電力管内にある配電系統(全フィーダーは約7,000)のうち、V2Gを電圧管理などに活用できる配電系統(電圧降下の大きい系統・小さい系統)の割合を推計し、V2G導入の実現性を把握する実証が行われた。
図10 2020年度における配電系統に関する詳細なシミュレーション
(2)V2G活用のエリアを特定
これによって、電圧降下が大きく、その改善のためにEV普及が見込めるフィーダーを把握し、V2Gを活用する価値の高いエリアを特定することができる。
この結果、その場所(価値の高いエリア)に、EVを積極的に誘致するなどして系統側への貢献を高めることができれば、EVユーザーと再エネ事業者と配電系統運用者の3者が、Win-Winの関係を構築できるため、それを目指す実証が行われている。
〔4〕実証メニュー(3):配電系統(フィーダー)に関するシミュレーション
2018年度は、大型風力(定格容量:1,999kVA)が配電系統の末端(変電所からの距離が約6km)に設置され、電圧管理が難しくなっている特徴的な系統を抽出してシミュレーションした。
続く2019年度では、より大局的な視点から、東北電力管内でV2Gを電圧管理などに活用できる系統がどの程度の割合で存在するのかを調査し、V2Gの可能性とその導入実現性について考察を得ることを中心に据えた。
そこで、東北電力管内全体におけるマクロな目線での傾向を分析するため、EVによる負荷が新たに加わることによる電圧降下の目安について、全配電系統を対象に確認し、電圧降下の大きい系統と小さい系統の割合を把握した。
2020年度は、電圧降下が大きい配電系統について、詳細なシミュレーション(図10)を実施するなど、さらに分析していく予定となっている。
今後の展開:ビジネスモデルのさらなる発展
V2Gを活用したビジネスモデルについては、制度面や技術面などから、まだ多くの課題はあるが、昨年度(2019年度)の実証において、事業形態の異なる「カーシェアモデル」「観光施設モデル」「事業所モデル」のデータを収集し、それぞれの特徴やEVの使い方の傾向がわかってきた。
このことから、今後、需給調整市場向けや送配電事業者向けサービスの対象として、リソースのポートフォリオ(組み合わせや対象)を検討していく。
今年度(2020年度)については、V2G向けのEV台数の拡大よりも、引き続きEVの多様なユースケースを踏まえた新規の実証場所の確保に注力し、幅広いビジネスモデルの検討を深めて発展させていく。
本記事で登場する用語(キーワード)解説
出所 各種資料をもとに編集部で作成
▼ 注6
三次調整力①②:調整力には、
(1)周波数を制御(周波数の上昇/低下を制御)する一次調整力(応動時間:10秒以内と速い)、
(2)周波数を基準周波数(例:50Hz)に回復させる二次調整力①と二次調整力②(制御方法によって異なる:応動時間はともに5分以内)、
(3)電力の需給バランスを調整する三次調整力①(応動時間は高速15分以内)と三次調整力②(応動時間は低速:45分以内)がある。
調整力は指令に対して、時間的に速く対応できるかできないか(応動時間)によってランク付けされており、応動時間が早いほうが価値が高く、調達価格も高くなる。