VPP構築実証事業の具体的な目標
〔1〕2020年度までのVPPの構築実証目標
現在、日本全体で展開されているVPP構築実証事業は、IoT技術などを駆使して、2016年度から2020年度までの5年間、次の内容を目標に推進している(具体的な構築実証事業の状況は後述)。
- 50MW以上の調整力をもつVPPの遠隔制御技術を確立する。
- エネルギーリソースの制御時間の短縮化(DR時間の短縮化)を確立する。
- EVなどの車載用蓄電池を新たなエネルギーリソースとして実用化する。
- 太陽光・風力などの再エネの導入を拡大する。
- 省エネルギー・電力負荷の平準化の促進やDRなどの取り組みを強化する。
〔2〕2020年度のVPP実証事業の内容
このような目標の実現を目指すVPP構築実証事業は、最終年度の2020年度を迎え、次のような取り組みを展開する。
日本では、東日本大震災(2011年3月11日)後、大規模集中電源に依存した硬直的なエネルギー供給システムを脱却するとともに、急速に普及している再エネを安定的かつ有効に活用することが喫緊の課題となっている。
また、最近では、普及拡大が見込まれる電動車(EV)の蓄電池容量は、家庭用蓄電池に比べて容量当たりの価格が安く、また容量も大きいため、これをエネルギーリソースとして需給バランスの調整(調整力)に活用することは、効率的な電力システムの構築にもつながる。
このような電力システムの構造変化を踏まえ、2020年度の事業では次の実証を行う。
- 引き続き、需要家側のエネルギーリソース(蓄電池や電動車、発電設備、デマンドレスポンスなど)を、①IoT技術によって遠隔で統合制御し、②あたかも1つの発電所のように機能させ、③需給バランス調整に活用する技術(VPP)の実証に加え、④令和2(2020)年度は広く導入・普及させることを前提に、蓄電池などの導入支援や制御技術・セキュリティ対策の確立を行う(図2)。
- ダイナミックプライシングによる電動車の充電シフトの実証を、令和2(2020)年度から、卸売電力価格に連動した時間別料金(ダイナミックプライシング)を設定することによって、図3に示すように、電動車の充電のタイミングを「電気料金が高い時間帯から安い時間帯に誘導(ピークシフト)する」。
図3 ダイナミックプライシング(時間別料金)に基づき、充電するイメージ
出所 https://www.env.go.jp/earth/ondanka/bunsan/r2gaisanyoukyu_r1hoseiyosan.pdf
これらの実証によって、再エネ導入の拡大を図り、調整力の確保を容易にし、系統増強(系統電力の出力を増大させること。すなわち焚き増し)を回避させる、などを実現する。
表1 需要家側エネルギーリソースを活用したVPP構築実証事業補助金(予算)
備考① 実証事業期間:2016年度~2020年度の5年間の事業
備考② 2019年度に災害時に活用可能な家庭用蓄電システム導入促進費補助金38.5憶円を追加(2019年度臨時・特別措置の追加予算)
出所 各種資料をもとに編集部で作成
〔3〕VPP構築実証事業:総予算は5カ年で約230憶円へ
次に、VPP構築実証事業を推進するために、これまでに使用された予算と今年度の予算を見てみよう。
表1に、VPP構築実証事業を推進するための政府の予算(2016年度〜2020年度)の推移を示す。
(1)2019年度は38.5億円の追加
2019年度は、2019年9月に発生した北海道胆振(いぶり)東部地震による影響で、一時、北海道全域が停電(ブラックアウト)し、家庭の空調や冷蔵庫、情報通信機器が使用できないなど、住民の生活に多大な影響を与えた。
このような災害は、今後も全国で発生する可能性があるため、停電が長期化した場合でも、太陽光発電とともに家庭用蓄電システムが設置されていれば、非常時でも家庭で再エネを自律的に活用できるようになる。
VPP構築実証事業では、災害時における需要家の電力レジリエンス(回復力)の強靭化を実現するため、「災害時に活用可能な家庭用蓄電システム導入促進事業費補助金」(2019年度予算案額:臨時・特別の措置)として、新規に38.5億円が組み込まれた。
(2)2020年度予算は50億円
最終年度の2020年度予算は、50億円となった。さらに、前述したように、令和2(2020)年度から令和4(2022)年度までの3年間の事業を通じて、時間帯別料金(ダイナミックプライシング)による充電のピークシフトを行い、電動車(EV/PHEV)を活用した効率的な電力システムの構築を目指すことになった。50億円には、その初年度の予算も包含されている。
以上をまとめると、5カ年計画の総予算は約230億円(229億円)となった(表1)。