[特集]

次世代型の気候変動対策と新型コロナ・パンデミック対策

― 環境重視の「日本版グリーンディール」の導入を ―
2020/06/05
(金)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

日本版グリーンディールの導入の提唱

 国際的な新しい動向を背景に、IGES(地球環境戦略研究機関)の松下氏は、「日本版グリーンディール」の導入を提唱した。

 松下氏は、「現在、新型コロナのパンデミックによって、リーマンショックの時以上の経済不況が全世界を襲い、一時的にCO2排出量が減少している。このような経済不況の脱却を意図した経済復興政策を推進する場合、CO2排出量を考慮しない従来型視点の経済復興策政策では、短期的に経済回復になったとしても、長期的視点からは脱炭素社会への転換や構造変化は望めない。そこで、これらを考慮した新しい経済復興策を策定し、経済不況からの脱却と同時に、脱炭素社会への移行と転換を促進することが重要となる」と述べた。

 具体的には、次のような内容を含む日本版グリーンディールの導入を示した。

  1. 技術や社会システム、ライフスタイルの転換(ニューノーマル)によって、ゼロカーボンで持続可能な経済への移行を目指し、それらを、次のような社会のあらゆる分野で導入することを挙げた。
    ①持続可能なエネルギー(再エネ)への転換
    ②エネルギー効率の改善
    ③資源効率の改善
    ④物的消費に依存しないライフスタイルへの転換
    ⑤コンパクトシティによる既存都市の活性化や人口減少と高齢化社会に対応した公共交通の見直し
    ⑥最先端のIoT/AI/5Gの活用
  2. 交通インフラをはじめ、電力システム、産業設備、建物などの長期的な大規模インフラについては、長期的方向性を早急に明らかにし、これらのインフラ施設を更新する際に、将来社会の変化を見据えて大幅に転換する必要がある。
  3. (1)や(2)は、日本のすべての利害関係者が連携し、民主的プロセスを経て形成・実施すべき国家戦略である。

 松下氏は、「このような日本版グリーンディールを導入する前提として、2050年に向けて、日本の脱炭素によるレジリエント(回復力のある強靭な)な社会構築に向けたビジョンが求められ、現在、IGESで検討が開始されている」と続けた。

今後の新型コロナ・パンデミックと日本の課題

〔1〕米国ミネソタ大学の「シナリオ2」が最悪のシナリオ

 2020年4月23日のIGESプレスセミナー直後、米国ミネソタ大学から、図6に示す、今後の新型コロナの動向を分析した報告書「COVID-19:CIDRAP注18の視点」(パート1:2020年4月30日、パート2:5月6日)が発表され、注目されている。

図6 米国ミネソタ大学の感染症研究および政策センターが発表した報告書「COVID-19:CIDRAPの視点」の表紙と概要

図6 米国ミネソタ大学の感染症研究および政策センターが発表した報告書「COVID-19:CIDRAPの視点」の表紙と概要

『COVID-19:CIDRAPの視点』の概要
≪パート1≫
COVID-19パンデミックの未来:パンデミックインフルエンザから学んだ教訓(2020年4月30日発表、全8ページ)(Part 1: “The future of the COVID-19 pandemic: lessons learned from pandemic influenza”
≪パート2≫
効果的なCOVID-19危機コミュニケーション(2020年5月6日発表、全11ページ)(Part 2: “Effective COVID-19 crisis communication”

CIDRAP:Center for Infectious Disease Research and Policy at the University of Minnesota、ミネソタ大学の感染症研究および政策センター
出所 https://www.cidrap.umn.edu/covid-19/covid-19-cidrap-viewpoint

 同報告書の「パート1」では、今後のCOVID-19の普及について、COVID-19によるパンデミックの波を予測して3つのシナリオ提示し、解析している(図7)。

図7 COVID-19の3つの可能なパンデミック波のシナリオ(2020年1月〜2022年1月)

図7 COVID-19の3つの可能なパンデミック波のシナリオ(2020年1月〜2022年1月)

出所 https://www.cidrap.umn.edu/sites/default/files/public/downloads/cidrap-covid19-viewpoint-part1_0.pdf

 図7に示す3つのシナリオのうち、特に【シナリオ2】に示す第2波の大きな波の発生によるパンデミックは、医療崩壊を起こす可能性がある「最悪のシナリオ」といわれており、その対策を強化することが重要であると、報告書では警鐘を鳴らしている。

 その理由は、歴史的に、COVID-19と類似したパターンが、すでに発生しているからだ。例えば、1918〜1919年のスペインインフルエンザ(スペイン風邪)注19をはじめとする、アジアインフルエンザ、香港インフルエンザなどが挙げられている。

 また、第2波が到来する時期は、北半球に位置する日本は季節的に、秋から冬にあたり、毎年発生する「インフルエンザウイルス」と「第2波の新型コロナウイルス」が重なり、2種類のウイルスが混在してしまい、その判別が複雑な時期となるため、それに対応した医療体制の準備も求められている。

〔2〕日本版グリーンディールの策定に期待

 現在の新型コロナ・パンデミックは、人間の生存にかかわる危機であり、現在、それを克服するシステムをもたない政治や経済システムの危機であり、まさに複合的な危機である。

 2020年5月25日に、日本における新型コロナの緊急事態宣言(2020年4月7日発令)は、1カ月半ぶりに全面解除されたものの、間近かに迫った2020年秋から冬に予測される第2波のパンデミックへの対応は待ったなしである。

 先進国・地域では、新型コロナ対策に向けた医療対策(新型コロナ用ワクチンや治療薬開発なども含む)とともに、経済効果と室温ガス排出削減効果を両立させた「グリーンディール」政策を展開し始めている。

 松下氏は講演の最後に、「新型コロナ後の経済対策の適切な設計を行い、それを実施することによって、将来の世代が直面する地球温暖化などによる環境危機を緩和し、安全で充実した暮らしができる社会を目指していく。これらによって、パリ協定の目標である『2050年に脱炭素化』を実現し、日本でも、レジリエントな社会を構築していくビジョンを策定していく必要がある」と締めくくった。

 現在、IGESで検討されている「日本版グリーンディール」に期待したい。


▼ 注18
CIDRAP:Center for Infectious Disease Research and Policy at the University of Minnesota、米国ミネソタ大学の感染症研究および政策センター

▼ 注19
スペインインフルエンザ:第一次世界大戦中の1918年(大正7年)に始まったスペインインフルエンザのパンデミックは、被害の大きさできわだっている。WHOによれば、全世界で感染患者数は約5億人、死亡者数は4,000万人と推定されている。日本では、約2,300万人の患者と約38万人の死亡者が出たと報告されている(内務省統計)。
http://idsc.nih.go.jp/disease/influenza/pandemic/QA02.html
https://www.cas.go.jp/jp/influenza/kako_10.html

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