日本では、2020年4月7日に発令された新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)対策の緊急事態宣言が、1カ月半ぶりの5月25日に全面的に解除された。新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)流行の第2波に向けてなお警戒しながら、経済復興政策と新NDC(国別の温室効果ガス(CO2)削減目標。以下、CO2削減目標)(注1)を策定してどのように連携させるかが、パリ協定を実現するうえで、重要な課題となっている。
特集2では、COP25(2019年12月)以降の、各国の新NDC取り組みの最新動向を紹介しながら、日本の新NDCについて4つの注目ポイントを整理していく。さらに、2008年のリーマンショック時の教訓などを見ながら、コロナ収束後の経済復興とNDC引き上げの連携の重要性を見ていく。
ここでは、去る2020年4月23日に開催されたIGES(地球環境戦略研究機関)プレスセミナー(注2)における、IGESの気候変動とエネルギー領域ディレクター 田村 堅太郎 氏による講演「各国の国別削減目標(NDC)の引き上げ状況と新型コロナウイルスの影響」をベースに、その後の展開も含めてレポートする。
各国のNDC取り組みの最新動向
〔1〕COP25の合意とその後の進展
2019年12月2日〜15日の14日間、スペインのマドリードで開催されたCOP25(気候変動会議)では、「各国が可能な限り野心注3を強化する」(国別のCO2削減目標を更新する)という合意がなされた。
このため、2020年は、
- 更新した2030年までの短期的なCO2の新・国別削減目標「NDC」
- 2050年までの各国の長期戦略
を提出する年となっているが、新型コロナ禍の影響もあり遅れ気味となっている。
〔2〕120カ国が「2050年ネットゼロ宣言」を表明
現在、図1に示すように、グテーレス国連事務総長の呼びかけもあり、70カ国以上が2020年末までの野心の引き上げを表明し、120カ国が「2050年ネットゼロ宣言」を表明した。
図1 2020年はパリ協定実現向けた、NDC引き上げサイクルの第一歩
出所 田村堅太郎「各国の国別削減目標(NDC)の引き上げ状況と新型コロナウイルスの影響」、IGESプレスセミナー、2020年4月23日
しかし、2020年4月23日時点で、実際にNDCを更新して新NDCを提出した国は7カ国、長期戦略においても17カ国・地域が提出するに留まっている。また、新型コロナ禍の影響によって、各国の提出がさらに遅れることが懸念されている。
加えて、2020年11月に予定されていたCOP26(開催地:英国グラスゴー)が、2021年に延期されたこともあって、新NDCの提出をCOP26まで延期する国も出ている。
中国は、当初は2020年9月に開催される予定だった欧州連合(EU)とのサミット(首脳会議)に合わせて、NDCの更新や長期戦略を発表すると見られていたが、COP26が延期されたことを考慮しながら、2020年11月初頭の米国大統領選の結果を見た後でNDCの更新を提出するのではないか、と観測されている。
▼ 注1
NDC:Nationally Determined Contribution、各国のCO2削減目標。パリ協定に基づいて、各国が自主的に決定する温室効果ガス(GHG:Greenhouse Gas、CO2)の削減目標。その目標を各国が国連の気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局へ提出する。UNFCCC:United Nations Framework Convention on Climate Change、国連気候変動枠組条約。
▼ 注2
・IGESプレスセミナー 地球環境課題と国際動向 解説シリーズ2020、第1回「2020年重要イベントと押さえておくべきポイント-新型コロナウイルスの影響を踏まえて-」
・IGES(Institute for Global Environmental Strategies)は、公益財団法人 地球環境戦略研究機関。設立は1998年3月31日
▼ 注3
COP25(第25回国連気候変動会議)では、CO2削減目標の引き上げに関する取り組みを強化することを、「野心(Ambition)の強化」と呼んでいる。COP25では、参加国間の意見の対立から、「新たに再提出するCO2削減目標に、可能な限り野心を反映させる」ということで合意した。