[特集]

次世代型の気候変動対策と新型コロナ・パンデミック対策

― 環境重視の「日本版グリーンディール」の導入を ―
2020/06/05
(金)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

気候変動対策と新型コロナ対策の比較

 次に、このような地球の生態系に影響を与えている気候変動への対策(脱炭素社会実現)と新型コロナ対策の「共通点と相違点」を整理してみよう。

 両者の共通点として、主に次の4点を挙げることができる。

  1. 科学的根拠のない希望的な観測ではなく、信頼できる科学的根拠に基づいたデータなどの知見が重要であること。
    【例】各種検査データ等の整備:気候変動対策ではCO2排出量のデータ、COVID-19ではPCR検査注4などのデータに基づく知見。
  2. 従来の日常生活や経済のあり方を大きく変える必要があること。
    【例】外出の制限や自粛、オンライン会議などを利用したワークスタイル等(ニューノーマル、後述)。
  3. 国際社会による協調的対策が非常に重要であること。
    【例】CO2排出削減技術の開発や、新型コロナ用のワクチン・治療薬の開発、開発途上国への支援などの国際協力等。
  4. 社会全体での取り組みと、それを支える大規模な財政出動が必要であること。
    【例】財政出動の規模は、①IEA(国際エネルギー機関)の場合、世界で約30兆円/年(2016〜2050年の電力部門脱炭素化費用が必要と試算)、②IMF(国際通貨基金)の場合、報告書(2020年4月15日時点)によると、各国政府による新型コロナ対策の規模は7兆8,000億ドル(約830兆円)にのぼると発表。

 一方、気候変動対策と新型コロナ対策の主な相違点をまとめると、表2のようになる。

表2 気候変動対策と新型コロナ対策の比較

表2 気候変動対策と新型コロナ対策の比較

出所 松下 和夫、「気候変動問題と新型コロナウイルス」、IGESプレスセミナー(2020年4月23日)をもとに編集部で作成

新型コロナ対策による経済活動の変化

〔1〕短期的にCO2排出量は大幅に減少

 現在、新型コロナ対策によって世界各国の経済活動は大幅に縮小(世界的にGDPの大幅な低下)しているが、その一方で、これによって、短期的には自動車や工場から排出される大気汚染物質や、温室効果ガスの排出量は大幅に減少している。例えば、図3は中国におけるNO2(二酸化窒素。自動車や工場から排出される大気汚染物質)排出量の減少状況(2020年1〜2月)を表している。

図3 中国のNO2汚染の改善状況(2020年1~2月)

図3 中国のNO<sub>2</sub>汚染の改善状況(2020年1~2月)

出所 松下 和夫、「気候変動問題と新型コロナウイルス」、IGESプレスセミナー、2020年4月23日

 しかし、このような環境改善は一時的なものであり、過去のリーマンショック注5の際と同じように、パンデミックが収束し、経済活動が元に戻ると、汚染物質や温室効果ガスの排出量もリバウンド(元に戻る)してしまうと見られている。

 また、新型コロナ対策による経済の停滞と縮小によって、気候変動対策の実施を遅らせてしまうことが危惧されている。すでに、COP26(国連気候変動会議)は、当初の2020年11月に英国グラスゴーでの開催予定が、2021年へ延期されている。

〔2〕ニューノーマルの始動

 新型コロナ対策による経済活動や日常生活の変化(在宅勤務、時差通勤、遠隔会議など)は、世界各国で「ニューノーマル」として起こり始めている。

 ニューノーマルとは、「新しい日常」「新たな生活様式」ともいわれ、世界経済はリーマンショックから回復しても、以前の姿には戻れないとの見方から生まれた言葉である。

 具体的には、環境負荷の少ない経済活動(省エネ、再エネの採用、効率化等)や新ライフスタイル(マスク、手洗い、消毒、検温)、新ワークスタイル(在宅勤務、時差通勤、テレワーク)が導入されてきている。

 これらの動きは、新型コロナ収束後も制度化し、日常的に普及させていくことが期待されている。

〔3〕IEAの最新報告書『世界エネルギー・レビュー』

 これらを裏付けるかのように、今回のセミナー後の2020年4月30日、IEAは、全54ページにわたる最新の報告書『世界エネルギー・レビュー』を発表した(図4)。

 同報告書は、COVID-19のパンデミックによって、次に示すように、世界のエネルギー需要量も、エネルギー関係の年間のCO2年間排出量も記録的に減少する、という見通しを示した。

  1. 世界のエネルギー需要量の減少幅は、過去70年以上もの間(第二次世界大戦:1939〜1945年以前から)で最大となり、2020年に6%減少すると予測。この下げ幅は、2008年に発生したリーマンショック時の7倍に達する。これは、世界第3位のエネルギー消費国であるインドのエネルギー需要全体に匹敵するほどの大きな落ち込みである。
  2. (1)の結果、エネルギー関係分野の年間のCO2排出量は、約8%減となることが判明。これも記録的な減少となる見込みである。

▼ 注4
PCR検査:Polymerase Chain Reaction検査法、ポリメラーゼ連鎖反応検査法。COVID-19を診断(陽性か陰性かの判定)する検査方法。米国の生化学者「キャリー・バンクス・マリス氏」(Dr.Kary Banks Mullis、1944〜2019年)によって開発された。同氏はその功績によって、1993年にノーベル化学賞および日本国際賞を受賞した。

▼ 注5
2008年9月15日、米国の投資銀行リーマン・ブラザーズの経営破綻を契機に、世界的に起こった金融危機のこと。

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