[特別レポート]

需給調整市場/特定計量制度を見据えビジネス化に進むVPP

― NTTスマイルエナジーがVPP構築実証の成果を発表 ―
2020/11/07
(土)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

リソースアグリゲーターとしてのビジネスモデル

 それでは、リソースアグリゲーター(RA)は、どのようなビジネスモデルで利益を出すのだろうか?

 図4は、NTTスマイルエナジーのRAとしてのビジネスモデル例を示したものであり、次のように、大きく2つのモデルがある。

図4 リソースアグリゲーターとしてのビジネスモデル

図4 リソースアグリゲーターとしてのビジネスモデル

出所 川村 暢、「NTTスマイルエナジーにおける家庭用蓄電池を用いたVPP構築実証事業の取組み」、2020年9月11日

〔1〕コスト削減分をシェアする

 1つは、図4の右上に示すように、RAは小売電気事業者のコスト削減に向けて、次のようなことを行う。

  1. ピーク電力を制御(ピークkW制御)することによって、容量拠出金の配賦基準となる7〜9月(夏季)および12〜2月(冬季)の各月の最大電力需要を緩和して平準化することで、小売電気事業者の容量拠出金注10などを最小化する。
  2. デマンドレスポンス(DR)の「上げDR制御」や「下げDR制御」(図5)によって、インバランス注11を回避して、小売電気事業者のインバランスリスクを最小化し、電力コストを削減する。
  3. 家庭用蓄電池の充放電時間を電力需要のピーク時間帯からずらして(タイムシフトして)、小売電気事業者のJEPX(日本卸電力取引所)からの電力の調達コストを最小化する。

図5 需要制御のパターン(上げDR/下げDR)の仕組み

図5 需要制御のパターン(上げDR/下げDR)の仕組み

DR(デマンドレスポンス)発動:リソースアグリゲーター(例:NTTスマイルエナジー)が契約している一般家庭などの需要家に、真夏の電力消費のピーク時に電力が不足するときは「クーラーの温度を2℃上げて消費電力を減らしてください」、あるいは、電力の余剰が発生したときは「蓄電池を充電してください」というようなDR指令を出すこと。
出所 https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/advanced_systems/vpp_dr/about.html

 これらによって、小売電気事業者は電力コストを削減できるため、RA(NTTスマイルエナジー)は、小売電気事業者の電力コスト削減分の中から一部を、図4の上部に示す「①コスト削減分シェア」として還元して(支払って)もらう。

 〔2〕容量市場や需給調整市場

 もう1つは、現在、立ち上がってきている容量市場(2020年度開設。2024年度を見据えた第1回オークションを実施、本誌2020年10月号参照)や、需給調整市場(2021年度開設予定)に対して、

  1. kW価値〔容量(供給力):発電することができる能力〕を容量市場へ、
  2. ΔkW(デルタキロワット)価値〔調整力:短時間で需給調整できる能力〕を需給調整市場へ、

直接売電して、その「②売電収入」(図4の下部参照)を得る、というビジネスモデルである。このとき、リソース(家庭用蓄電池)は基本的に家庭が保有し、RAであるNTTスマイルエナジーは制御を行っているだけのため、収入の一部を家庭に「インセンティブ」(報奨金)として還元する(図4の左下部)。

VPP制御の重要な4つのキーワード

 次に、NTTスマイルエナジーが取り組んでいるVPP構築実証事業の内容の一部を紹介しよう。電力を「発電」「消費」「蓄電」している家庭が、家庭の電力制御(すなわちVPP制御)を行う際には、図6に示す次の4つのキーワードが重要となる。

  1. ベースライン(Baseline):家庭で通常使用されている総電力消費量(kW。自然体の総需要ともいう)。
  2. 可能量予測値:蓄電池の充放電によって、家庭の電力消費量をどの程度増やせるか(あるいは減らせるか)という予測値(kW)。すなわち、VPP制御可能量のこと。
  3. 指令値:ACからRAへ指示する消費電力の増加量(kW。DR指令値。減少量の場合もある)。
  4. 制御量(VPP制御量):RAからACに伝える、実際に可能な電力の制御量(kW。家庭で増加可能な蓄電池の充電用電力量)。

図6 VPP構築実証事業におけるVPP制御の流れ

図6 VPP構築実証事業におけるVPP制御の流れ

AC:Aggregation Coordinator、アグリゲーションコーディネーター(関西電力)
RA: Resource Aggregator、リソースアグリゲーター(NTTスマイルエナジー)
※①計測電力データの「kWh<30分値>」は30分間の積算値を、kW<1分値>は1分間の平均kW値を示す。
出所 川村 暢、「NTTスマイルエナジーにおける家庭用蓄電池を用いたVPP構築実証事業の取組み」、2020年9月11日


▼ 注10
容量拠出金:2020年度からスタートした容量市場では、国全体で確保した必要な中長期的な供給力(kW価値)への対価(容量確保契約金額)は、供給能力の確保が求められている小売電気事業者と一般送配電事業者が費用を負担することとなった。この費用を容量拠出金という。ピーク電力を平準化することによって、供給力の最大値を抑制でき、容量拠出金を最小化できる。託送料金部分は、一般送配電事業者が負担する。

▼ 注11
インバランス:電力の需要量と供給量を常に同じにする(同時同量)ことによって、バランスをとることが求められる。このとき、需要量と供給量の間で発生してしまう差分を「インバランス」という。インバランスが発生すると、バランスをとる役割を担っている一般電気事業者は、新たに差分(インバランス)の電力量を調達する必要がある。このため、小売電気事業者は、一般送配電事業者にペナルティ料金(インバランス料金)を支払う必要が生じる。
天気に左右される太陽光発電や風力発電は、小売電気事業者にとってペナルティ料金は大きなリスクとなっている。

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