VPP制御における各種データの流れ
図6は、VPP制御環境で、DR指令の発動によって、家庭側の電気の需要量を増やす「上げDR」の場合の、各種データの流れを示す。次に、図6の①〜⑦に沿って解説する。
〔1〕「計測電力データ」と「可能量予測値」
図6上部に示すように、通常、RAであるNTTスマイルエナジー(NSE)は、同社と契約している家庭が、
- 30分毎の「買電量(kWh)」(どれだけ電気を購入しているか)
- 「売電量(kWh)」(どれだけ電気を売っているか)
- 「電池残量(kWh)」(家庭用蓄電池にどれだけ電気が貯まっているか)
などの「①計測電力データ」を、スマートメーター経由で定期的に取得している。その取得したデータを分析し、AC(関西電力)に対して、家庭の電力需要を増加できる「②可能量予測値」(注:後にACからの予測値となる)を、1日1回のペースで日常的に報告している。
図6を見ると、RAはACに「現在(今日)は100kWの電力需要量を増加することが可能です」という、「②可能量予測値」を報告している。
〔2〕ACからの「指令値」:「100kWを増やしてください」
次に、ある日、前述したRAからの報告(需要100kW増加可能という予測)をもとに、ACがRAに、「3日後に、電気の需要量(消費量)を100kW増加してほしい」と、「③指令値」を出したとする。
この間に、家庭では、図6右の黄色の吹き出し内に示すように、蓄電池が増設されたり、EV(電気自動車)を購入したり、エコキュートなどが設置されたりするなど、家庭の環境が変化しているとする。
〔3〕「ベースライン予測値」と「蓄電池制御」
RAはACからの「③指令値」を受けて、ACに対して、
- 現在の「④ベースライン注12予測値」(現在、家庭における自然体の需要は500kWという予測値)を送信すると同時に、
- RAは、制御量を維持・調整する「蓄電池制御ロジック(装置)」によって、家庭に対してACからの「③指令値」に対応できるように「⑤蓄電池制御」を行い、蓄電池を充電(上げDR)するよう指示する。
- RAは、(2)に続けて、家庭から最新の「⑥計測電力データ」を取得する。
- (3)の⑥計測電力データから、
現在、家庭における買電力は900kWで、売電力は300kWあるので、
⇒900kW−300kW=600kW
すなわち、600kW(=自然体の需要500kW+指令値100kW)の電気を買っていることがわかる。
- ここで、前述したRAがACに通知した、「④ベースライン予測値」は500kWとしていたので、(4)の購入した600kWとの差分は「600kW−500kW=100kW」の増加となる。この差分の100kWが、実際にVPP制御された値(上げDRによって家庭で増加した電力量)となる。
- 差分100kWは、ちょうど図6の「③指令値」(例:需要100kW増加と指示)と一致することになる。
以上は、説明の都合上、典型的な例を挙げて、きれいにACからRAへの「③指令値」(100kW)と、RAからACへの「⑦制御量算出」(100kW)が一致するパターン(予測精度が極めて高い)としている。
このように、「AC」「RA」「家庭」の3者間で制御を行うのが、VPP制御の基本的な流れである。このとき、重要なのが、図6に示されている「A. 予測精度の向上」と「B. 蓄電池制御ロジック(装置)」の役割である。
▼ 注12
ベースライン:アグリゲーターからDR指令などがない場合の、需要家側の自然体の(通常の)電力需要量のこと。