[特別レポート]

需給調整市場/特定計量制度を見据えビジネス化に進むVPP

― NTTスマイルエナジーがVPP構築実証の成果を発表 ―
2020/11/07
(土)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

需給調整市場を見据えた発想の転換とビジネス展開

〔1〕2020年度のVPP実証では前提条件を考え直す

 ここまで、2019年度までのVPP構築実証事業の内容を中心に見てきたが、2020年度の実証事業では、

  1. 2021年4月に開設される需給調整市場(短時間で電力の需給調整を可能とする市場)や、
  2. 2022年4月に施行される「特定計量制度」注18(アグリゲーターなどが分散型リソースの活用を進める際に、計量法に基づく検定を受けない計量器の使用のニーズが高まっていることに対応する制度)

を見据えて、これまでの前提条件から発想の転換を行い、新しい視点から具体的なビジネス展開に向けたVPP実証の取り組みが行われている。

 このような新しい動きと連動して、例えば、関西電力はVPP技術を活用して、2021年4月から開設される需給調整市場ビジネスに参入する(2020年10月9日)注19

〔2〕従来は需給点をベースにVPP制御

 「これまでの前提条件から新しい発想の転換による」VPP構築実証の仕組みについて、見てみよう。

 まず、図10右端の「需給点」と図10中央右の「機器点」に注目してみる。

図10 VPP制御を需給点ではなく機器点で行う場合

図10 VPP制御を需給点ではなく機器点で行う場合

NSE:NTTスマイルエナジー
出所 川村 暢、「NTTスマイルエナジーにおける家庭用蓄電池を用いたVPP構築実証事業の取組み」、2020年9月11日

 現在、RAは、各家庭に設置されたスマートメーター(スマメ)を通して、計量法に基づいた発電量や電力消費量、買電、売電等々のデータを取得して測定している。

 ここで、現在、RAが家庭に指示するのは、ゲートウエイ(GW)を経由して家庭用蓄電池である(このイメージは前出の図3を参照)。この指示を受けて家庭用蓄電池を充放電するのは、現在は、図10の右端に示す「需給点」である。

 この「需給点と蓄電池」の2者間で充放電させる場合、この2者の間には太陽光パネルがあったり、エアコンや照明器具、家電機器など、いろいろな機器が存在している。このため制御(指令)を行う場合、これらのベースラインを考慮して、現状ではこれまで説明してきたように、「ベースライン+制御量(指令値)」という形で制御が行われてきた。

 すなわち、図10左上に示すように、「VPP制御量=需給点での計測値−ベースライン」として、制御されてきた。

 このように、これまでは需給点での計測値で、家庭のベースラインを引く(マイナスする)ことによって、蓄電池をどれだけ制御したか(VPP制御量)を測る仕組みであった。

〔3〕発想の転換:機器点をベースにVPP制御

 そこで、図10に示すように、リソース(蓄電池)がつながっている機器点で測れば、「VPP制御量=機器点計測値−通常時の充放電量」となり、VPP制御量は簡単に算出できる。

 このように、機器点で測ればベースライン予測が不要になるため、

  1. 可能予測量と蓄電池制御は非常に容易となり、
  2. VPPリソースとしての家庭用蓄電池の活用は、飛躍的に増加する、
  3. 無線通信を使用する「スマートメーター経由でない」ため、無線通信の不確実性から、Bルート(前出の表3参照)のデータが取りにくかった問題も解決できる、

と期待されている。

 このように簡単に計測できれば、家庭用蓄電池を使ったVPP制御は、今後、広く普及しやすくなる。実際、2022年4月から「特定計量制度」による計量法が緩和される予定のため、これまでの測定方法の制約から解放されることが期待されている。

〔4〕不正がないことをどう担保するか

 顧客サイド(需要側)は、送配電側に電力を充放電することで、その寄与した分の対価を、RAからインセンティブとして受け取る。

 しかし、機器点での計測の場合、蓄電池が充放電した電力を家庭内の用途として使用することもできる。そのため、機器点での計測電力(例:100kW)が、そのまま送配電側への寄与分とならず、100kWのうちの一部(例:40kW)が家庭で消費されてしまう可能性がある。このとき、RAは100kWと計測してしまうので、40kWの損失となる。

 このように、新たな「特定計量制度」のもと、機器点での計測値が正しい場合はよいが、顧客サイドでの不正をどのように防止して、機器点での計測値の正確性をどう担保するか。それらの対応も含めて、今後の課題となっている。


▼ 注18
改正電気事業法に基づいて、国の定める基準に従い、国に事前に届出を行うことを前提に、計量法に基づく検定を受けない計量器(特例計量器)の使用を可能とする「特定計量」制度が創設される予定(2022年4月施行)。
資源エネルギー庁「特定計量制度及び差分計量に係る検討について」(2020年9月4日)22ページ参照

▼ 注19
関西電力プレスリリース「バーチャルパワープラント(VPP)技術の活用による需給調整市場への参入について」、2020年10月9日

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