[特別レポート]

需給調整市場/特定計量制度を見据えビジネス化に進むVPP

― NTTスマイルエナジーがVPP構築実証の成果を発表 ―
2020/11/07
(土)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

予測精度の向上と蓄電池制御をどう向上させるか

 前出の図6に示した、RAからACに通知する2つの予測値(図6の「②可能量予測値」と「④ベースライン予測値」)の予測精度は重要である。それをいかに向上させるか、その取り組みを解説しよう。

〔1〕予測精度を向上するための取り組み

 図7は、予測精度を向上するための2つの例(図表1と図表2)を示している。

図7 予測精度を向上するための取り組み

図7 予測精度を向上するための取り組み

出所 川村 暢、「NTTスマイルエナジーにおける家庭用蓄電池を用いたVPP構築実証事業の取組み」、2020年9月11日

 前述したように、予測には「可能予測量」(これは先に述べた「後にACからRAへの指令値になる」)と、その基準となる「ベースライン予測」がある。

〔2〕上げDRの場合の必要条件(要件)

 図7の図表1は、上げDRによって家庭側で増加させる電力需要量について、ACがRAに出す指令値の例を示している。

 つまり、DRの要請がなかった場合に想定されるベースライン(通常の電力需要量。前出の図6では500kW)をもとに、ACから要請された指令値(図6では需要を100kW増加させる指令値=制御量)に対して、許容誤差が指令値(需要100kWの増加)の10%以内、すなわち0〜10kWの範囲に収まれば、制御が成功したとみなされる。

 このとき、ACが上げDRの指令値を出すときの必要な条件(要件)は、図6に示したRAからACへ提供する「⑦制御量」が、ACからRAへの「③指令値」の90〜100%(許容誤差が10%以内)となる必要がある。

 例えば、誤差が25%にもなってしまうと、オーバーした15%(25%-10%)分の電力を別途調整しなければならない。10%以内の誤差であれば、電力量は調整可能である。

 図7左の図表1に示すように、許容誤差を10%以内、すなわち、90〜100%の間に制御しないと、RAはACから、「あなた(RA)の制御は失敗でした」ということになり、RAはACからインセンティブをもらうどころか、逆にACにペナルティ注13を払ったりする場合もあるので、この制御は非常に厳しいことになる。

〔3〕予測精度を上げるための3つの方法

 RAは制御に失敗しないよう、その予測精度を上げるために、どのような方法を考案したのだろうか。次に、NTTスマイルエナジーが行った、予測精度向上への3つの取り組みを見てみよう。

(1)制御リソース数を増加させる

 まず、顧客側(家庭)の蓄電池やEVなどの制御リソース(分散電源)の数を増やした。

 1軒や数軒あるいは10台や20台の分散電源(蓄電池やEVなど)の環境で予測すると数が少ないので、1つの家庭の電力消費を増大させるとその影響度合いが大きくなってしまう。そこで100〜500軒、さらに1,000軒のグループに増大してサンプリング数を増やすと、1つの蓄電池(分散電源)が全体に与える影響が小さくなるため、正規分布注14に従った予測が可能となる。

(2)データ収集を短周期化させる

 次に、各家庭の電力消費量や発電量(kWh)のデータを、短い周期で収集してきめ細かく制御した(短周期化。同じくサンプリング数を増やす)。

(3)天気予報を活用する

 さらに、図7の図表2に示すように、ベースライン算出には、各家庭の電力消費量と太陽光発電などの発電量に大きく左右されるため、天気予報を活用した。

〔4〕代替ベースラインの採用

 図7の図表2には、ベースラインによる算出の例を示している。

 図表2に示す、資源エネルギー庁のガイドライン注15に示されている「標準ベースライン」の場合は、「High 4 of 5」(直近5日のうち、需要の多い4日分の平均値をとる)と規定されている。しかし、需要家の需要パターンによっては、必ずしも標準ベースラインが妥当でない場合もある注16

 そのため、NTTスマイルエナジーでは、ガイドラインでも認められている、代替ベースラインとして同社独自の「High 4 of 5」を使用している。この代替ベースラインでは、「DR発動時(DR指令を出した時)とほぼ同じ天候」の直近5日のうち、需要の多い4日の平均値を使用している。

 独自の「High 4 of 5」を使用している理由は、家庭用蓄電池の充放電の場合、天候に左右される太陽光発電の影響が非常に大きいからだ。すなわち、ACがRAにDR発動をした当日は、どのような天候だったのか、そのときの天候と同じ状況のものを、数百件の家庭用太陽光発電グループの中から選択して集め、その直近5日のうち需要の多い4日の平均値を活用した。これによって、実態に近づけることができるようにした。


▼ 注13
RAのDR制御は1家庭ごとに実施するが、制御量は当該エリアにおける全VPP制御内容をもって判断するので、1家庭が失敗であってもトータルとして成功すれば問題ない(一般家庭はペナルティを払うことはない)。

▼ 注14
正規分布とは、確率論や統計学で用いられる連続的な変数に関する確率分布の1つで、データが平均値の付近に集積するような分布を表す。サンプリング数が少ないと、きれいな分布にならないため、毎回予測値が変化して予測精度が悪くなってしまう。

▼ 注15
資源エネルギー庁「エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネスに関するガイドライン」改定、令和2(2020)年6月1日

▼ 注16
一般家庭の場合、蓄電池設置ユーザーはほぼ太陽光パネル(PV)を設置しており、PVの発電量が昼間帯の家庭の電力購入量に大きく影響することから、PV発電量を考慮しない「High 4 of 5」はベースライン算出には妥当でない。

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