VPP実証におけるベースラインの結果とその分析
〔1〕第3期と第4期のVPP実証内容
次に、NTTスマイルエナジーが、実証事業を通して行ってきた内容の一部を紹介する。
図8は、左の図表1にVPP実証第3期(2018年度)の実績とベースライン結果を、右の図表2にVPP実証第4期(2019年度)の実績とベースライン結果を示している。
図8 VPP実証におけるベースライン予測の結果と分析
出所 川村 暢、「NTTスマイルエナジーにおける家庭用蓄電池を用いたVPP構築実証事業の取組み」、2020年9月11日
さらに、第3期と第4期の需要家側のリソース数(蓄電池数)やデータ収集周期などの違いを、図8の下段に示す。
- 第3期実証(2018年度:2019年1月9日)では、需要家側のリソース数(蓄電池数)は14台であったところを、第4期実証(2019年度:2020年3月18日)では、その約20倍の274台に増やして実証した。
- 需要家(家庭)からのデータ収集についても、30分周期であったものを1分周期にするなど、データ収集を大幅に短周期化(1/30に短縮)し、リソース数と同じようにサンプリング数を増大し、きめ細かく実証した。
- さらに、ベースラインの算出方法も、天候予測なしの「標準High 4 of 5」(標準ベースライン)から、天候予測ありの「NSE独自High 4 of 5」(代替ベースライン)を採用して実証を行った。
〔2〕VPP実証「第3期」の実績とベースラインの結果
まず、VPP実証第3期の実証(図8図表1)から得られた、
- RAが需要家側(家庭)から実際に受け取った橙色の「刻々と連続的に変わる電力データ」(自然体の電力容量:実績)と
- RAが需要家側(家庭)からの(1)の電力データをもとに分析・予測して、ACに送る青色の30分周期のベースライン予測値(30分周期)
を比較すると、実績(橙色)に対してベースライン(青色)は追従できていない。
例えば、図表1の12:28前後(部分)では、まったく追従できず大きな乖離が生じている。
〔3〕VPP実証「第4期」の実績とベースラインの結果
一方、VPP実証第4期(図8図表2)では、橙色で示す電力データの実績と青色のベースライン予測値(1分周期)は、ほぼ重なっており、ベースライン予測値が実績値を、ある程度追随できていることがわかる。ただし図表2では、緑色の点線で囲った12:00〜14:00に、大きな乖離が発生している。
この原因については、次のようなことを検討する必要がある。
- リソース数(蓄電池数)を274台に増やしたが、それでも不足なのか。
- データ収集の時間を1分周期に短縮したが、それでも長いのか(もっと短い30秒周期がよいのか)。
また図表2では、天気予報をもとにベースライン予測をしたが、予測よりも需要側の発電実績が少なかったのは、晴れるという天気予報であったが急に曇ってしまったのが、原因ではないかと推定できる。今後、このような場合も含めて、どのように予測精度を上げていくかが課題である。
〔4〕VPP実証第4期における制御量の予測
図9は、VPP実証第4期における、制御量(RAからACに提供する家庭側で増加できる消費電力量)の実績値を、目標値に近づけるように制御を行った結果を示している注17。この結果は、2020年2月13日に行われた、九州エリアにおける「上げDR」の結果(ACからRAへの指令の結果)を示している。
①赤色は目標値(ベースライン+指令値)を示しているが、これはベースライン予測に指令値(家庭側の消費電力の増加分)を加えた電力量。
②橙色は実証における実績値。
③青色の点線はベースライン予測。
前述したように、実績値が指令値の許容誤差(10%以内)に収まっていれば制御量の予測は成功したことになる。
(1)12:00〜13:00の前半部分の分析
図9左側の点線で囲んだ「12:00〜13:00」に着目すると、青色(ベースライン)と赤色(目標値)の間に橙色(実績値)が入っていて、実証がうまくいっているように見える。しかし、図9の左下に示すように、次のような結果となった。
図9 VPP実証第4期におけるVPP制御量の予測
出所 川村 暢、「NTTスマイルエナジーにおける家庭用蓄電池を用いたVPP構築実証事業の取組み」、2020年9月11日
①12:00〜12:30の期間は、116%の制御(橙色が、目標値の赤線を16%も超えてしまっている)
②12:30〜13:00の期間は、69%の制御(橙色が目標値の赤線よりも31%も不足している)
前述したように「上げDR」のときは、許容誤差を10%の範囲内に収める必要があることからすると、この結果ではうまく制御できていないことがわかる。
(2)13:00以降の後半部分の分析
次に、図9の13:00以降の後半部分に着目してみると、そもそも制御する前からすでに橙色(実績値)が赤色(目標値)よりも超えてしまっている。
ここでは、上げDRをしようとしているが、これ以上げると目標値と実績値の差が広がる一方となってしまう。これでは、下げDRをしないと目標値に近づけないことになり、これは「制御不能な状態になってしまった」と判定されることになる。
このため、その後、VPP制御を改善するため、ベースラインをあらかじめ高めに通知した場合の制御量の実証など、いくつかのトライアルも行われた(ここでは誌面の都合から省略)。
2019年度までのVPP構築実証結果をまとめると、表3のようになる。
表3 2019年度までのVPP構築実証の結果からのまとめ
ベースライン:リソースアグリゲーターからDR要請がなかった場合の、需要家側の自然体の(通常の)電力需要量のこと。
Bルート:家庭のスマートメーターと屋内の機器等を管理するHEMS(家庭向けエネルギー管理システム:空調機器や照明機器、家電機器、太陽光発電等を接続管理)をWi-SUN(無線通信規格)で接続し、データをやり取りする通信経路(ルート)のこと。
出所 川村 暢、「NTTスマイルエナジーにおける家庭用蓄電池を用いたVPP構築実証事業の取組み」、2020年9月11日
▼ 注17
図9は上げDR〔電力を消費する(買電する)方向の制御〕結果であるが、目盛がマイナス(縦軸が−600kWや−700kWなど)になっているのは、発電(売電)していることを表している。