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3GPPリリース16完成!本命の「5Gコアネットワーク」が離陸へ<前編>

― 動き出した5GAA(C-V2X)・5G-ACIA(NPN)・5G-MAG(放送) ―
2020/12/10
(木)
インプレスSmartGridニューズレター編集部

【MPR 事例2】5G-ACIAとスマート・マニュファクチャリング

 ドイツを発祥とする、製造分野におけるスマート・マニュファクチャリングのコンセプト「Industrie4.0」の取り組みが活発化している。

 これを実現するうえで、産業用IoT(IIoT:Industry IoT)とデジタルトランスフォーメーション(DX)は、製造業にとって中核的な技術として注目されている。特に、前述した5Gの主要な3つの機能のうち、mMTCとURLLCの2つは、IIoTを実現可能にするうえで不可欠な推進技術(イネーブラー)である。

〔1〕5G-ACIAの誕生

 MRP(市場代表パートナー)の事例2として、5G-ACIA(5Gエイシア)注9を紹介する。

 5G-ACIAは、5Gの産業用利用のあり方を検討することを目的として、2018年4月に結成されたグローバルフォーラムである(会員メンバー数は2020年11月現在で61社)。

 ドイツを中心に発足し、現在では日本の主要企業をはじめ、オートメーションやロボットなどの製造技術系の企業だけでなく、IT系や通信系企業など、さまざまなグローバル企業が参加している。

 5G-ACIAでは、5Gの産業利用における規制や標準化、ユースケースなどについて議論を進めている。例えば、ICT(情報通信技術)とOT(Operational Technology、制御技術)の共通言語や策定や、最適な産業用5Gのエコシステムの開発などの検討が行われている。

〔2〕適用分野とユースケースのマトリックス

 図7に、3GPPで規定されている、スマートファクトリー適用分野とユースケースのマトリックスを示す。

図7 3GPPが規定するスマートファクトリー適用分野とユースケースのマトリックス

図7 3GPPが規定するスマートファクトリー適用分野とユースケースのマトリックス

HMI:Human Machine Interface、ヒューマン・マシン・インタフェース。人間と機械との間で情報のやりとりを行うインタフェース
〔原典〕3GPP TS 22.104 V17.4.0(2020-09)、以下のURLより22104-h40.zipを選択
出所 住田 正臣、「3GPP Release 16特長紹介〜~産業連携と自動化の促進」、TTCオンラインセミナー(2020年10月27日)をもとに編集部で日本語化

 図7では、左側に適用分野を、右側上にユースケースを示し、左側の適用分野が右側のどのユースケースに適合するかを表している。

 例えば、ファクトリーオートメーションの場合は、右側に「×印」が付いている、

  • モーションコントロール(機械設備の動作制御)
  • 制御間の通信・連携
  • 移動ロボット(自動搬送車)

などのユースケースとなることを示している。

〔3〕5G-ACIA:非公衆網(NPN)の構築

 現在、移動通信事業者が提供する5G(公衆網としての5G)とともに、日本でもローカル5G向けの周波数割当が開始されたところから、ローカル5Gを企業網として利用することへの関心が高まっている注10(本誌2020年10月号の特集も参照)。

 この背景には、3GPPがリリース16で、5GのNPN(Non-Public Network、非公衆網)の仕様が策定されたことが挙げられる。

 3GPPリリース16仕様では、一般に提供される公衆網(パブリックネットワーク)としての5Gだけでなく、ローカル5Gの概念を含む「非公衆網(NPN)」の構築シナリオとして、いくつかのオプションが用意されている。

 そこで5G-ACIAでは、図8の(1)に示す、公衆網とは接続されない、完全に独立した自己完結型タイプから、(4)に示す、すべて公衆網事業者が提供するタイプまで、代表的な4つの構成例を紹介している。

図8 5G-ACIA : 4つの代表的な非公衆網(NPN)のタイプ

図8 5G-ACIA : 4つの代表的な非公衆網(NPN)のタイプ

出所 住田 正臣、「3GPP Release 16特長紹介〜産業連携と自動化の促進」、TTCオンラインセミナー(2020年10月27日)をもとに編集部で一部日本語化

 このような非公衆網(NPN)を構築するには、次のような注意深い分析が必要なため、5G-ACIAでは導入に向けたガイドラインを作成している。例えば、

  1. どのユースケースがビジネスに不可欠なタイプであるか、また、それらユースケースにはどのようなサービス要件があるか
  2. NPNの構築と運用に投資する労力とリソースはどの程度必要か
  3. 長期にわたるミッションクリティカル(基幹業務)なデータに必要なセキュリティの強度はどの程度必要か

などの分析が必要である。

今後、連携が進展する産業分野の例

 住田氏は講演の最後に、今後、5Gによるブロードキャスト(放送)/マルチキャスト/メディアなどの分野について、「次の3GPPリリース17では、5Gブロードキャストに関連した課題の検討が行われています。特に欧州では、5G-MAG(5Gマグ。5G Media Action Group)という業界団体が設立され、放送事業者をはじめICTメーカー、通信事業者などが加入しています。放送・通信業界はもとより、さらに自動車業界からのユースケースや要求条件をもとりまとめ、推進しています。

 この5G-MAGは、近く3GPP MRPへの加入申請が提出される予定となっていますが、新たにヘルスケア業界からも、5Gに関して大きな関心が寄せられるなど、3GPP MRPへの関心が高まってきています」と、今後の5G発展への期待が高まっていることをアピールした。(後編に続く)


▼ 注9
5G-ACIA:5G Alliance for Connected Industries and Automation、コネクテッド産業とオートメーションのための5Gアライアンス。

▼ 注10
総務省、「5G・ローカル5Gの普及・高度化に向けた取組」、2020年10月の20ページ参照

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